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ジョン・ゾーン『Heaven and Earth Magick』レビュー

ジョン・ゾーンの新作『Heaven and Earth Magick』は、2019年にRouletteで行われたライブ演奏を収録したアルバムで、アメリカのビジュアル・アーティストであるハリー・スミスの同名の実験的ストップモーションアニメ映画をモチーフにした作品。

ハリー・スミスは錬金術やカバラといったオカルト系の歴史家としても知られて、『Heaven and Earth Magick』でもそういった神秘的なモチーフが描かれています。
ゾーンはこういうの大好きですからこの映画にオマージュを捧げたアルバムということなのでしょうね。
ちなみにハリー・スミスは、画家、詩人、人類学者、言語学者、音楽学者、歴史家、哲学者など多才な活動を行っていた人で、特に1952年に発売された6枚組のアルバム『Anthology Of American Folk Music』は、1927年から1935年までのフォーク、カントリー、ブルースなどのレコードを蒐集して再編集したもので、ボブ・ディランなどの後のフォークシーンを形作るきっかけになった歴史的なアルバムだとか。

譜読み+インプロ

このアルバムのコンセプトは明確で、完全に譜面に書かれたピアノとヴィブラヴォンの演奏に、即興によるベースとドラムスのリズムセクションを組み合わせるというもの。
譜面による演奏というのはゾーンの音楽では重要なファクターですね(ネイキッド・シティだってそうだし)

『Heaven and Earth Magick』の参加メンバー
Ches Smith (Drums)
Stephen Gosling (Piano)
Sae Hashimoto (Vibraphone)
Jorge Roeder (Bass)

このアルバムのように譜面演奏と即興をブレンドする手法は多かれ少なかれゾーンのどのアルバムにも含まれている要素ですけど、このアルバムのようにカルテットの小編成で譜面演奏と即興をくっきり分けたアルバムというのはそこまで多いですね。
これまでのアルバムであれば『In The Hall of Mirrors』(2014)『The Interpretation Of Dreams』(2017)などが近いコンセプトのアルバムかも。

『In The Hall of Mirrors』の参加メンバー
Stephen Gosling (Piano)
Greg Cohen (Bass)
Tyshawn Sorey (Drums)

『The Interpretation Of Dreams』の参加メンバー
Shanir Ezra Blumenkranz (Bass)
Sae Hashimoto (Vibes)
Tyshawn Sorey (Drums)
Jack Quartet
Jay Campbell (Cello)/Chris Otto (Violin)/John Pickford Richards (Viola)/Austin Wulliman(Violin)/Stephen Gosling (Piano)

ここであげた3枚全てに参加しているStephen Goslingは完全にクラシック系のピアニストで、ゾーンが自身のクラシック系のアルバムで難易度の高いピアノを演奏するときにはかなりの頻度で名前のあがる人ですね。

ヴィブラヴォン奏者のSae Hashimoto(橋本 紗瑛)さんは長崎出身の方だそう。ジュリアード音楽院を卒業したクラシックの人のようで、本職はティンパニのようですね。ニューヨークフィルにゲストとして出演したり、ニュージャージーのオーケストラでティンパニ奏者として活躍しているとか。

橋本さんが参加した『The Interpretation Of Dreams』はタイトルからわかるようにフロイトの「夢判断」をモチーフにしたアルバムだったのですが、このアルバムではヴィブラフォンの音色がドリーミーな陶酔感を表現するために使われていました。
今回の『Heaven and Earth Magick』でも、ヴィブラヴォンの音色をオカルトっぽいで異世界の雰囲気を醸し出すツールとして使われていましたね。

こういったヴィブラヴォンの独特な使い方はゾーンのお気に入りのようで、Gnostic Trioなどでも聴くことができます(Gnostic trioのヴィブラヴォンはケニー・ウォルセン)こういうのってベタと言えなくもないですが、ベタなだけに効果的なのかも。

『In The Hall of Mirrors』と『The Interpretation Of Dreams』の2枚ではタイショーン・ソーリーがドラムを担当していて、もしかするとゾーンは今回もソーリーに頼みたかったのかもしれないですけどね。他の仕事が忙しかったとか。譜面通りの演奏に合わせていくというこのアルバムのコンセプトにはソーリーは理想的なドラマーなのかも。
チェス・スミスはもっと自由奔放に叩くタイプでまた違った魅力がありますけど。

アルバム全体でいうとやはり難解というか硬派な演奏で、ややとっつきづらい感じです。ただゾーンの書く複雑な曲と緻密な演奏は、繰り返し聴くたびに違った印象を持つアルバムでもありますね。