メレディス・モンク 『Memory Game』レビュー

ミュージシャンとしてキャリアが長いと、「だいたいこんな感じのアルバムを出してくるんだろうな」と予想はつくのですが、たまにその予想が大きく裏切られることがあります。

メレディス・モンクの2020年アルバム『Memory Game』もそんな予想外の1枚。

メレディス・モンクは作曲家、ヴォーカリスト、ダンサー、振付師、映画監督、演劇監督などのさまざまな顔を持つアメリカで最も魅力的なアーティストの一人です。

アルバムの1〜5曲目までが、彼女が手がけたSFオペラ「Games」の未発表曲を新たにアレンジした曲。残りは彼女が過去のアルバムで発表した曲の新アレンジでの再録になります。5曲だけだと短すぎなので時間合わせという感じです。現代音楽のアルバムではよくあること。

モンク自身とTheo Bleckmann, Katie Geissinger, Allison SniffinによるヴォーカルアンサンブルにBang on a Can All-Starsというクラシック室内楽グループの演奏が加わる編成。どちらも10年以上も彼女とコラボレートしてきた、モンクの音楽のリスナーにはおなじみの共演者です。
モンクのこれまでのアルバムというと、小編成で(なんならソロで)吐息やうなり声、ファルセットなどの奇声を発するヴォイス・パフォーマーという印象で、あまり楽しんで聴けるタイプの音楽じゃないなと少し敬遠していました。

彼女に対するそういうイメージは別に間違ってはいないと思うのですけど、彼女も70台後半になりさすがにかつてのような喉を駆使するヴォーカルスタイルは取れなくなったからかもしれませんが、自身の活動をより作曲重視へシフトさせているのだと思います。ヴォーカルも自分以外の3人をメインにしたコーラス重視になっている。

こういう傾向はECMからリリースされた前作『On Behalf of Nature』からはっきりしてきたようです。このアルバムは気候変動などをテーマにしたアルバムとのことですが、エキセントリックなヴォーカルは後退して、エモーショナルであり美しい旋律を美しく響かせる作品でした。

今作『Memory Game』でも前作以上に美しいコーラスワークとクラシック楽器のアンサンブルが刺激的な作品になっています。モンクの音楽がビョークに影響を与えたという指摘もあるようですけど、このアルバムを聴いていると少しその意味がわかる気がしますし、少しだけポップになりわたしたちリスナーに近寄って来てくれたのかも。
基本的にはアコースティック楽器主体なのですが、割とチープなアナログシンセの音が良いアクセントになっていますね。

Personnel

Meredith Monk & Vocal Ensemble
Theo Bleckmann, Katie Geissinger, Meredith Monk, Allison Sniffin: voices
Bang on a Can All-Stars
Ashley Bathgate: cello and voice
Robert Black: electric and acoustic bass
Vicky Chow: piano, keyboard and melodica
David Cossin: percussion
Mark Stewart: electric guitar, banjo and voice
Ken Thomson: clarinets and saxophones