R.I.P チャールズ・ウォリネン(1938年6月9日- 2020年3月11日)

作曲家チャールズ・ウォリネンの訃報のニュースが届きました。2020年9月に転倒して入院し、その後に合併症を発症して亡くなったとのこと。

チャールズ・ウォリネン(Charles Wuorinen, 1938年6月9日- 2020年3月11日)はニューヨーク生まれの現代音楽の作曲家。
ウォリネンは、ジョン・ゾーンいわく「最高の作曲家のひとり」であり、ゾーンは自身のオールタイムベスト10を選ぶという雑誌の企画で、ウォリネンのレコードを挙げていましたね。

12音技法

わたしは現代音楽というとぜんぜん詳しくないのですが、ウォリネンの作曲技法はというと「12音技法」が特徴的と言われています。

「12音技法」というのは半音12音を等価に扱うという技法で、簡単に言うと調性という制限から抜け出して自由な表現を行うことが狙い。いろんな作曲家が同時並行的に発展させてきたのですが、シェーンベルクと彼の弟子であるヴェーベルンが有名だそう。

ウォリネンのスタイルは「12音技法」だけではなくそれをさらに発展させたセリエル音楽だと言われているようです。
セリエル音楽は20世紀の現代音楽に大きな貢献をした手法ですが、かつては「難しすぎてみんな同じに聴こえちゃう」と言われていた時期もあったようです。

そういう理由からかもしれませんが、ウォリネン本人も「セリエル音楽という言葉は無意味だ」としてセリエル音楽家として扱われることに拒否反応を示しているようです。
インタビューを受けた際に「あなたの曲はセリエル音楽と言われていますが、、」という質問に、「君はセリエル音楽をどう定義するのかね?」と厳しく突き放したりするような一面もあったみたい。

シンプル・コンポジション

ウォリネンは「シンプル・コンポジション」というタイトルの著作で「12音技法」について解説しているようです。この本では聴覚的に「わかりやすい」作曲を提唱しているとのこと。
彼は(ミルトン・バビットなどのように)最初期のコンピューターによる音響合成も取り入れた作曲家だったのですが、こういう取り組みも彼の聴覚的な響きへのこだわりから来ているでしょうね。

こちらはTzadik盤『Lepton』のオープニングナンバーでもあった彼の代表曲とも言える『Time’s Encomium』

わたしはこの曲はTzadik盤で初めて聴いた時に大好きになった曲ですし、シンプルな電子音が多層的に絡み合うさまがいま聴いても刺激的。
そして高度でありながらもとても「わかりやすい」

ウォリネンのwikiにはこの「シンプル・コンポジション」について興味深いエピソードが載っていました。
ジャズトランぺッターのデイブ・ダグラスが、1992年にウォリネンの「シンプル・コンポジション」をブルックリンの公立図書館で見つけた時のエピソードを語っていました。

「最初にこの本を読んだ時、”これだ!ついに私が悩んでいた問題が解決法を見つけた!”と思ったんだ。ただ、後になってこの本に書かれていることはゴールではなく、ただのスタートだと分かったよ」

とのこと。

「シンプル・コンポジション」という本はその後の小編成のインプロ主体の音楽における作曲に大きな影響を与えた、ということもダグラスはコメントしていました。

デイブ・ダグラスは1993年のデビュー・アルバム「Parallel Worlds」でウェーベルンやストラヴィンスキーを取り上げたりと、かなり現代音楽への影響をうかがわせていましたね。
このアルバムで共演したマーク・フェルドマン(violin)、エリック・フリードランダー(cello)、マーク・ドレッサー(contrabass)といった人選も、クラシック・現代音楽的なアプローチで即興演奏をプレイできるミュージシャンだからでしょうね。

ウォリネンとは関係ないですが、たまたまウォリネンの訃報の翌日(2020/3/12)にベーシストの菊地雅晃さんが、デイブ・ホランドと12音技法についてのエピソードをツイートしていました。

こういうのを読んでも、今のジャズミュージシャンにはこういう現代音楽的なアプローチは大きなウェイトを占めているようです。

ブロークバック・マウンテン

ウォリネンのいちばん最近の仕事として、ブロークバック・マウンテンのオペラが有名。
「ブロークバック・マウンテン」は、原作はE・アニー・プルーの同名の短編小説で、アメリカ中西部を舞台に、それぞれ家庭をもちながらもお互いに惹かれあう2人の男性の姿を描いており、アン・リー監督で映画化もされました。
ちなみにウォリネン自らも長年マネージャを務めた同性のパートナーと法的に結婚しているそうです。