カール・ストーン(Carl Stone)『Baroo』レビュー

音楽好きの方は、だいたい年末にその年にリリースされたアルバムから年間ベスト10を選んだりしますよね。
私も年末に10枚選ぼうと思うのですけど、今のところカール・ストーンの『Baroo』はほぼベスト10入りしそうなのでもう先に紹介しちゃいますよ。

カール・ストーンはサンプリングベースのコンピューター音楽をプレイするミュージシャンで、一部では「サンプリングの神」と言われているそうです。

じつは日本通で、これまでのキャリアを通じてアメリカと日本を頻繁に行き来して活動している音楽家です。
大友良英さんなど日本のミュージシャンとの共演も多いですね。現在は中京大学でメディアアートの講師をしているそう。

1995年にリリースされた『Kamiya Bar』は、当時東京に住んでいたストーンが、東京の街のフィールド音をサンプリングして作ったアルバムだそうです。
東京の駅の音、市場の音など日本人にはおなじみの音や日本語の声がサンプルとして使われています。
聴きなれた音のようで、ストーンの手にかかるとエキゾチックなアート空間にいるような錯覚に陥りますね。

基本的にカール・ストーンが演奏する音楽は現代アートだし、聴いて楽しいとか踊れるとかそういうことが目的ではないのでしょうけど、『Kamiya Bar』やほぼ同時期の『Mom’s』などはアンビエント音楽や電子音楽として聴いても名盤だとおもいますね。

ストーンは一時期、ピアノなどアコースティック楽器のための曲を書いていた時期があったのですが、『Baroo』は基本的にラップトップベース、主にMax/MSPのパッチを使って制作されているようです。

Carl Stone『Baroo』聴いてみた

1曲目『Okajouki』は琴みたいな楽器と民族音楽風のヴォーカルを音響処理したトラック。
基本的にはビート無しでサンプル音を極端にのばしたりエフェクターをかけたりするだけなんですけど、なんとも言えないエキゾチックさを醸し出しています。
一曲目を聴いてすぐに
「これこれ。カール・ストーンの曲で聴きたかったのはこういうやつ」
と思いましたね。

2曲目『 Baroo』はラテン音楽をテンポをめちゃ上げて過激にスタッター処理を行ったトラック。
これまでのストーンの音楽からすると意表を突くサンプリングのチョイスですね。
なんていうかセニョール・ココナッツをもっとスピード早くして過激にエディットしたみたい。

5曲目『Panchita』は日本のアイドル・ソングみたいな元ネタ(誰だろ?浜崎あゆみみたいな感じですけど)を加工していて、元ネタの選び方は最近ちょっと話題のvaporwaveかFuturefunkの曲のようですね。
ただ、音はfuturefunkなどよりももっと細かく病的に切り刻まれていて、例えばJohn Oswaldなんかを連想させる音ですね。

個人的にはvaporwave/Futurefunkシーンというのは、さかのぼるとカール・ストーンやJohn Oswaldみたいなサンプリング/コラージュミュージシャンに行き着くのだと思っていて、この曲はカール・ストーン流のvaporwave/Futurefunkシーンへの回答のようにも思えますね(適当)

Carl Stone『Himalaya』

カール・ストーンは9月にもう1枚『Himalaya』というアルバムをリリースするようです。

このアルバムも『Baroo』と対をなすコンセプトのようで、『Fujiken』『Kikanbou』といったタイトルからも連想されるように東南アジアのポップカルチャーをテーマにしているみたいです。

先行で聴けるタイトル曲では日本のヴォーカルパフォーマーの 赤い日ル女さん (akaihirume)共演しています。彼女のヴォーカル曲のアンビエントな雰囲気にうまく溶け込んでいますよね。

この動画ではCarl StoneがTEDで講演した様子が見れます。
ニューアルバムに収録される予定の『Fujiken』の演奏も少し聴けます。タイポップスをベースにした曲のようですね