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99人のアーティストと99bpmの曲 ~制約から逆に生まれる自由~

ボルチモアをベースに活動するM.C. Schmidt と Drew Danielのふたりによるエレクトロニック・エクスペリメンタル・デュオ、マトモスの新作『The Consuming Flame: Open Exercises in Group Form』が2020年の8月にリリースされました。

99人とのコラボ、99bpmの曲

このアルバムは3枚組というボリュームで、99名のアーティストとコラボレートした作品
それぞれのアーティストに「99bmpで」という制約を設けたうえで自由に演奏・レコーディングしたマテリアルをもとに、Matmosがその音源を再構築し完成させるというコンセプチュアルなアルバムです。

参加している99人のコラボレーターの顔ぶれは非常に多彩。

電子音楽の著名なアーティスト(Mouse on MarsのJan St. Werner/Andi Toma、Daniel Lopatin、DeForrest Brown Jr、J. G. Thirlwell、Matthew Herbert、Rabit、Robin Stewart、Harry Wright of Giant Swan)

インディーロックの世界のアーティスト(Ira Kaplan、Georgia Hubley、Yo La TengoのJames McNew、Marisa Anderson)

Matmosと長年一緒に仕事をしてきたコラボレーター(J. Lesser, Jon “Wobbly” Leidecker)

アンダーグラウンドシーンの人々(Pig DestroyerのBlake Harrison、Sutekh HexenのKevin Gan Yuen)などなど

さらにはマトモスのインターネットフォーラム上で応募をしてきた無名のアーティストから、今は廃校となってしまったサンフランシスコ・アート・インスティテュートでM.C.シュミットの “Sound As Music “コースを受講した学部生なども(このアルバムはこのアートスクールの思い出に捧げられたアルバムです)

変わったところでは、ミュージシャンのみでなく、作家(Douglas Rushkoff、Colin Dickey)、コンセプチュアル・アーティスト(Heather Kapplow)といった面々も。

こういったさまざまなバックグラウンドを持つアーティストが、カントリー調のバンジョー、クラウトロックを思わせるドラミングとエレクトリックギターのリフ、ノスタルジックな牧歌的なシンセ音などをそれぞれ持ちより、これらのマテリアルをマトモスが互いに重ね合わされてミックスされていきました
そのミックスはさらに世界中から集められたフィールドレコーディング(フィリピンの村で遊ぶ子供たち、ウズベキスタンのバスルーム、ベラルーシの雨水の滴、東京の昆虫の鳴き声、ボルティモアの街灯の音)にドリフトしながら再配置されています。

その後これらの個別のパートは、より大きな単位にコラージュされ、そこにより多くの参加者のマテリアルが追加され、徐々に3つの異なる1時間の “グループ”にまとめられています。このような雑多である意味では乱暴なコラボレーションにもかかわらず、結果としてMatmosの独特のボイスが保たれていることは驚きです。

サンプリングミュージックの新たな到達点

『The Consuming Flame』はアルバムのコンセプトや参加アーティストなど情報量が多くて、やっとここからがアルバムを聴いた個人的な感想になります

マトモスのアルバムに関しては私は2019年の前作『Plastic Anniversary』を年間ベストに選んでいて、デビュー作以降あまりピンとくるアルバムが少なく個人的には「停滞」している印象だったマトモスが、『Plastic Anniversary』でふたたび電子音楽/サンプリングミュージックのトップに戻ってきた!と思っていました。

そんな中リリースされた『The Consuming Flame』は、アンビエントっぽいパートもけっこうあり冗長に感じられる部分もあるにはあるのですが、マトモスらしい奇抜で意表を突くサンプルリング加工が満載で、前作にも負けない良いアルバムだと思いますね。

「まるで〇〇みたい」という例えは誤解を生むかもしれませんが、『Plastic Anniversary』から続く最近のマトモスの音は”ダミーラン”(Stock, Hausen & Walkman の Andrew Sharpleyによるサイドプロジェクト)を思いおこさせます。ひたすらファニーで耳につく音をめまぐるしく入れ替えて色付けし、それをシンプルなダンスビートに載せるという手法。
まあ私はダミーランのアルバムは大好きなんですよね。

ダミーランは1990年代に活躍したプロジェクトなので、まあマトモスの『The Consuming Flame』も別に新しいサウンドではないのですよね。オールドスタイルだし人によっては時代遅れという人もいるかも。

拡大と縮小/緊張と緩和。

電子音楽がポピュラー音楽と大きく違う点は、自分が意図しないフレーズや音が奏でられるという点だと良く言われます。
たとえばサイン派を矩形波に変える、音響処理の演算のプラスとマイナスを入れ替える、Max/MSPのオブジェクトをランダムに入れ替える、などといった手法。
こういった「ハプニング」から自分の音楽的な知識よりも外に自分の音楽を「拡大」することができます。

今回の『The Consuming Flame』では、99人のさまざまなバックグラウンドをもつアーティストから山ほどのマテリアルを募集するという方法で、音の多彩さを獲得するという方法がとられた形です。

また逆に、そういったハプニングからとめどなく拡がっていく音楽を、ある制約を設けることで選択肢を狭めてゆるやかにミュージシャンが望む音に近づけようともしています。
マトモスの例で言うと、1stアルバムでの「サンプリングに手術音を使う」というコンセプトや、今回の『The Consuming Flame』での99bmp限定といったような手法ですね。

まあこの99bpm限定という縛りは音づくり上はアルバムを聴いた印象ではあまり制限とはなってみたいに思いますね。99bpmだと鳴らすのに不都合のある音ってそうそうないですからね。まあ99人のアーティストに依頼したことにかけたシンボリックな意味あいで音楽的には意味はないのかも。

意図して起こされるハプニング

こういったふたつの相反する方法論をうまくブレンドするのが電子音楽家のテクニックなのだという事ですね。
音響処理の手法で無意識的にサウンドを広げてそこに制限をかけて音を作り上げるのですが、そのチョイスの数は無限であり、望むサウンドになるまで果てしないトライアンドエラーを繰り返すところにも電子音楽の特異性がありますね。
ピアニストが頭に浮かんだ素晴らしいフレーズを弾く行為とは全く異なる行為です。

今回の『The Consuming Flame』ではサンプリング音を山ほど増やし音を拡大する一方で、99bpmというゆるい制約しかかけなかったことから、かなりアンバランスな制作現場となったのかもしれません。
膨大に用意されたマテリアルを、あるルールではなくおそらくフィーリングのみで取捨選択していくという膨大な作業になったはずで、マテリアルが3枚組というボリュームになるのも当然という感じですね。逆によくこの制作方法でアルバムリリースまで持ってこれたな、とも思います。
マトモスの2人がめちゃ仕事が早いのか、それとも私たちの知らない取捨選択のルールがあるのか、、

まあ、こういうサンプリング音楽は、音の目新しさやパッと聴いた時のインパクトが勝負だと思うのですが、キャリアが長くなるとネタ切れになってしまうのかも。
99人ものアーティストからのマテリアル募集という力技はエレガントな試みではないのかもしれないですが、出来上がったアルバムはそのコンセプトにみあう素晴らしいものだったと思います。