マトモス『Plastic Anniversary』レビュー

マトモス(Matmos)はMartin Schmidt と Drew Danielの2人によるサン・フランシスコベース(でもいまはなぜかボルチモア在住)のエレクトロニカ・デュオで、今年2019年に新作『Plastic Anniversary』をリリースしました。

彼らはビョークと『Vespertine』や『Live at Royal Opera House』でのコラボレーションが良く知られていると思います。

基本的にはMac上(おそらくMax/MSPなどの)音響ソフトをコントロールして音作りをするスタイルだと思いますが、ビョークとのライブ『Live at Royal Opera House』ではコンタクトマイクを使い「砂を踏む音」や「お互いの背中をさする音」などをリアルタイムでエディットするという見た目にも面白いパフォーマンスも行っていました。

Matmos新作 『Plastic Anniversary』

彼らは「外科手術の時に出される音をサンプリング」「LGBTアイコンへのトリビュート」「テレバシーによって生み出される音楽」など、1枚ごとに明確なコンセプトをもってアルバムを制作してきたアーティストです(ちなみにLGBTをとりあげているのは彼らがゲイ・カップルでもあるため)

今回の 『Plastic Anniversary』はその名の通りプラスチックから発せられる音をコンセプトにしたアルバム。
プラスチックは(バケツなど)そのチープさから身のまわりのさまざまなところで使われていて、それゆえにゴミ問題などで有害にもなる製品です。プラスチックをいまの消費社会の象徴として、それに対するアンチテーゼというのがこのアルバムのテーマみたいです。

プラスチックというコンセプトはあるものの、アルバムの音作りとしては生音にそこまでこだわっている訳でもなく電子音もふんだんに使われています。
これまでのアルバムのように、音でヴィジュアルをイメージさせるようなこともなく、わりと「ゆるい」コンセプトのよう。

この動画では、実際にアルバムで使用された音をサンプリングする様子をアップしています。
警察が使う防御シールド、錠剤型ケース、塩化ビニルパイプ、レコードなどを叩いたりこすったり壊したり、、

いろいろな素材を使えて音づくりに制約が少ない分、ここ数枚のアルバムにあったような閉塞感というか不自由さが減って、マトモスの魅力であるユーモアやヴァラエティ豊かなサンプリングテクニックが聴ける良盤だと思います。
以前よりエレクトロニカっぽさが後退して、Stock,Hausen and WalkmanやDummy Runみたいなカットアップされた音をめまぐるしく変化させるスタイルにシフトしているようにも感じます。

まとめ

マモトスのアルバムとしては、(手術室の音をサンプリングした)『A Chance to Cut Is a Chance to Cure』がベストで一般的にも評価が高いのですけど、今回の『Plastic Anniversary』もベストに近いくらいのお気に入りになりそうな予感です。