アルコーン/ラウブロック/ボードレイユ『Bird Meets Wire』

ペダル・スティール・ギター奏者のスーザン・アルコーン、サックス奏者のイングリッド・ラウブロック、チェロ奏者でノイズ・アーティストのレイラ・ボードレイユ(Leila Bordreuil)の3人の共作アルバム『Bird Meets Wire』

このアルバムは2018年4月にニューヨークのクイーンズにあるサウザンド・ケイヴス・スタジオで行われたフリー・インプロヴィゼーションのセッションをレコーディングしたもの。
このトリオは2015年から不定期でいっしょにライブを行ってきていたようです。とはいえパーマネントなグループではなく数あるセッションのひとつという感じだったのですが、お互いに手ごたえを感じたのでスタジオで改めてレコーディングしようという話になったのかもしれません。

最近ではめずらしくストリーミング配信無しのアルバムですね。
(リンクは貼りませんけど)web上にライブ時の映像はあるようです。

アルコーンは『Pedernal』(2020)、ラウブロックは『Dreamt Twice/Twice Dreamt』という素晴らしいアルバムをリリースしたばかりということもあって、やっぱりこれは聴かねばならないアルバムかな、と。
ちなみにアルコーンとラウブロックのふたりはこれまでメアリ・ハルヴォーソン・オクテットなどで共演歴がありますね。

もうひとりのレイラ・ボードレイユは初めて名前を聞いたのですが、チョロ奏者でかつノイズ・電子音響のアーティスト。
そう聞くと同じチェロ奏者のOkkyung Leeなどが連想されるのですけど、ボードレイユはLeeよりもアンビエントよりの作品を作っている人のようですね。
ちなみに彼女はこのブログでも取り上げたLea Bertucciと共演したりもしているようです。

クレジット上は3人が対等に並んだ共作という形のようですが、アルバム制作自体はおそらくアルコーンのディレクションで進められたんじゃないかと思いますね。
このアルバムで聴くことができる良く言えば「神秘的」、悪く言えば「ニューエイジ」っぽい音もアルコーンの趣味な気もします。今作と同じくチェリストのジャネル・レッピンと共作した『The Heart Sutra』といったアルバムに近いかも。

ボードレイユのチョロと電子音をたくみに使い分けてドローン的な音場をつくりあげ、ラウブロックはタンギングやグロウルのような特殊奏法を多用してほとんどメロディーを吹かず、アルコーンはロングトーンのフレーズでアメリカーナ的な音を出しています。

完全フリーインプロもアンビエント/ドローン作品とも違う、3人が3人とも好き勝手に演奏しているようでもあり、緊密にからみあっているようでもあります。なんとも捉えどころのなくてつい繰り返し聴いてしまいます。

とにかく斬新なアルバムで、「これは今まで聴いてきた音楽とは全然違うな」とまるで音楽を聴きはじめた頃のような新鮮さを感じることのできる貴重なアルバムですね。

意外なカヴァーソングたち

このアルバムでは後半にカヴァーソングが収録されていますので、補足説明。
ひとつめは、チリのプロテストソング “El Pueblo Unido “をベースにした「Cañones」
ラウブロックのスタッカートリズムとボルドルイユの不協和音の中で、アルコーンがシンプルな曲を表現しています。

この曲は1970年6月にセルヒオ・オルテガ作曲/キラパユン作詞によって書かれた「団結した人々は決して負けない」といったメッセージを持つプロテストソングです。
人民統一政府の賛歌として作曲され、チリの社会主義化を目指した労働者階級の大衆動員の精神を表現したもので、アメリカの支援による1973年9月11日のチリのクーデターの後、ピノチェト政権に対するチリ人の抵抗の賛歌となった曲だそうです。

もう1曲は、ジョニー・キャッシュからエミルー・ハリスなどが歌い、カントリーロックを歌うシンガーのスタンダードソングである19世紀アメリカのフォークソング 「Wayfarin’ Stranger」
こういったカントリー調の選曲はあきらかにアルコーンの趣味じゃないかと思いますね。

『Bird Meets Wire』Personnel

Susan Alcorn – pedal steel
Leila Bordreuil – cello
Ingrid Laubrock – tenor and soprano saxophone