Nathalie Joachim『Ki Moun Ou Ye』

これはX(旧twitter)を眺めていて知ったアルバム。

Nonesuchレーベルのアカウントが彼女のアルバムを紹介していたんですよね。

なんとなく名前は聞いたことあって、今回初めて聴いたアーティストなのだけど、掛け値なしに素晴らしいアルバムです。

Nathalie Joachimのアルバム『Ki Moun Ou Ye』

※彼女の名前のJoachimはヨアキム、ヨアヒムと書かれるかもしれないが、本人は”ジョアシェ”と発音しているように聞こえます

このアルバムはというとNew Amsterdam recordsとNonesuch Recordsがどちらもクレジットされているのだけど、どういうことだろう?
(おそらく制作はNew Amsterdamで、Nonesuchは配給やりますよってパターンかな)

Nathalie Joachimはハイチ系でニューヨーク生まれ。
ジュリアード音楽院に通い、その後にニュースクールでサウンドデザインも学んだ人で、ほぼクラシック畑の人と呼んでも良い思います。

楽器はフルートを演奏するそうでこちらが本業じゃないかと思うのですが、今作のように歌も歌います。
現在ではプリンストン大学その他で音楽を教えることも行っているそうです。

2020年のアルバム『Fanm d’Ayiti(ハイチの女性)』は彼女のデビューアルバムでありながら、ベスト・ワールドミュージック・アルバムにノミネートされました。
(ちなみに受賞したのはアンジェリク・キジョーのセリア・クルスへのトリビュート盤)

『Fanm d’Ayiti』というタイトルは「ハイチの女性」という意味で、2015年に彼女の生まれ故郷であるハイチを訪れた時の体験をもとに制作されたもの。
ハイチの伝統やあまり知られていないハイチの女性歌手を探求する中から彼女が選んだトラディショナル曲に加えて、彼女が受けたインスピレーションをもとに書かれた曲が、彼女の歌とスペクトラル・カルテット(Spektral Quartet)によるストリング・カルテットにより演奏されています。

そういえばSpektral Quartetは、サックス奏者のMiguel Zenónとともに彼の故郷であるプエルトリコの伝統音楽を取り上げた『Yo Soy La Tradici​ó​n』(タイトルは「I Am The Tradition」の意)をレコーディングしています。
『Fanm d’Ayiti』と『Yo Soy La Tradici​ó​n』はほぼ同時期に作られたアルバムなので、聴き比べてみると面白いかも。

『Ki Moun Ou Ye』

前作の『Fanm d’Ayiti』はハイチの伝統へフォーカスしたアルバムでしたが、全編ハイチ・クレオール語で歌われたこのアルバムでもそのコンセプトは引き継がれているようです。

ただ、ハイチ・クレオール語で歌われているとはいえ、いわゆるワールドミュージック的な側面はかなり希薄ですし、ストリング・カルテットとの共演という音楽的には制約の多かった前作と違い、今作『Ki moun ou ye』はより幅広い自由な音作りを行うことができたアルバムになっています。

彼女自身のヴォーカルやフルートの他には、ヴァイオリンなどの弦の響きやドラムセット、コーラスなどが使われているのですが、なにより耳につくのはカットアップなどを多用した加工処理ですね。
(もともと彼女は同じくフルート奏者のアリソン・ロギンス・ハルとともに、Flutronixというエレクトロ・ポップ・デュオを結成したりもしていました)

この電子音響の使い方が控えめながら絶妙で、特に生楽器に上手く溶け込む音づくりがされていて、このあたりの音響処理は、「Vespertine」のころのビョークのアルバムに近いかもしれません。
(ビョークについては、Joachim本人も彼女からの影響を何度か言及しているようですが)

そんな彼女のヴォーカル、控えめなストリングやコーラス、電子音響のそれぞれが、まるで別々の音楽を奏でているようでもありつつも奇妙なバランスを保っていて、そういった儚さがこのアルバムの魅力かもしれません。
どのパートに注目して聴くかで聴く印象がガラッとかわります。

ハイチ的な気質なのかもしれませんが、全体的にポジティブで喜びに満ちた雰囲気も聴いていて心癒されます。

うーん、繰り返しですがホントこのアルバムは良いですね。