先日SNSでちょっと興味深いブログ投稿を見かけました。
年末にwebや紙媒体の年間ベストなどが多く出されたのですが、ここで寄稿しているレビュワーの男女比を日本とアメリカで比較したというもの。ここでは「男と女?それ以外の違いは?」みたいなことは言わないでくださいね
結果は、(当然予想できた結果ではあるけれども)、日本側のレビュワー(音楽評論家)は「ほとんど男性、女性はわずか」でした。
ただ、この男女差はそもそも日本全体の女性の就業率を反映しているのだと思いますし、別に音楽業界(レビュワーというとむしろ出版業界に近いのかな)が他の業界より男女格差が大きいという訳ではないでしょうし。
レビュワーのジェンダーが偏ると何が困るって、そこに(ここでは男性ならではの)バイアスがかかるからということなのだろうと思います。
逆にレビュワーのジェンダーがどうあれ、とりあげられるミュージシャンがジェンダーに関係なく正当に評価されていれば良いわけで。
ただ、このブログは主にポップス系でビルボードにチャートインするようなミュージシャンを取り上げているのだと思いますが、ジャズを扱うメディアのレビュワー男女比はどうなのか、ちょっと気になってチェックしてみました(のっかり企画!)
ジャズ批評のジェンダー格差
日本で、ジャズのベストアルバムを選ぶメディアとしては「Arban」があったので、見てみました。(こちら)
Arban レビュワー男女比
レビュワー12人中
男:12 女:0
うーん、なんと女性はゼロですね。なるほど、なるほど。
ダウンビート レビュワー男女比
では、アメリカのジャズメディアはどうなのか、ということで老舗ダウンビードを調べたみました。(こちら)
複数のレビュワーが年間ベストを選ぶ企画は無かったので、直近2019年12月のアルバムレビュー執筆者の男女比をみてみました。
レビュー数20中
男:20 女:0
これは、、#metoo先進国アメリカの雑誌なのに、女性はゼロですよゼロ!
いやいや、いままであまり気にしたこと無かったですけど、これはアメリカのジャズメディアはマッチョイズム満載と言われてしまうかも。
Free Jazz Collective レビュワー男女比
ダウンビートのみだとサンプルも少ないし、ここだけ特別なのかもしれないので、もう1メディア
Free Jazz Collectiveというフリージャズを扱うブログメディアで同じようにレビュワーの男女比調べてみました。
21人のレビュワーが、2019年のベストを選んでいます。(こちら)
レビュワー数21人中
男:21 女:0
いやいやいや、ここでも女性レビュワーはゼロですよ。ほんとにもう。
日本とアメリカで思いついたメディアのレビュワーをチェックして女性がだれ一人いないって、なかなかインパクトのある結果です。
選出ミュージシャン男女比
日本もアメリカも、音楽レビュワーが男性ばっかりなのはもうわかりました。わかりましたってば。
そのうえで、この男性ばっかりのレビュワー達がどういうミュージシャンを選んでいるのか、同性をひいきして男性ミュージシャンのアルバムばっかり選んでいるのか、逆に女性ばっかりを選んでいるのかどうなのか、についてもチェックしてみました。
※男女が共演したり、グループに男女がいたりと明確に区分はできない場合もありますが、たとえばリーダーが男女どちらか、などでカウントしました。あいまいな場合はカウント外。
Arban 選出ミュージシャン男女比
男:23 女:11
女性ミュージシャンが約3割ですね。女性1に対して男性2というざっくりとした比率
女性の方が少ないと言えば少ないですけど、ジェンダー的に偏っているかというと微妙なところじゃないでしょうか。
ちなみに選ばれているアルバムはこちら。
ジャズ以外のアルバムもかなり選ばれていますね。
Hildur Guonadottir『Joker(Original Soundtrack)』
Stella Donnelly『Beware of the dogs』
上原ひろみ『SPECTRUM』
Esperanza Spalding『12 Little Spells』
Kris Davis『Diatom Ribbons』
Sudan Archives『Athena』
Raveena『Lucid』
Brittany Howard『Jaime』
ダウンビート 選出ミュージシャン男女比
20レビュー中
男:13 女:7
こちらもおよそ3~4割が女性。
Arbanと同じような割合になりましたね。ふむふむ。
取り上げられている女性ミュージシャンは、
Daniela Soledade
Marta Sánchez Quintet
Maria Baptist Orchestra
Mette Juul
Mary Halvorson
Susan Alcorn
Ingrid Laubrock など。
年間ベストではなく新作レビュー中心なので良く知らない人も多いですが。
Free Jazz Collective 選出ミュージシャン男女比
Free Jazz Collectiveでは、(男性)全員のポイント集計をして、ベストアルバムを15枚選んでいます。
15セレクション中
男:9 女:6
女性が4割。この割合もArban/ダウンビートとほぼ同じですね。
ベストに上げられている女性ミュージシャン・アルバムはこちら
Anna Webber – Clockwise
Eliane Radigue- Occam Ocean 2
Jaimie Branch – Fly Or Die II: Bird Dogs of Paradise
Jessica Pavone String Ensemble – Brick and Mortar
Matana Roberts – Coin Coin Chapter Four: Memphis
Susan Alcorn, Joe McPhee & Ken Vandermark – Invitation To a Dream
まとめ
Arban,ダウンビート,Free Jazz Collective、3つメディア限定で集計してみたのですが、驚くほど同じような男女構成比になっていました。
レビュワーは全員男性
選ばれるアルバムは女性が3~4割
なるほど、なるほど。
そもそも、アルバムレビューの男女比はどうあるべきかという話に戻ってしまうのですけど、
レビュワーが男性ばかりだと男女偏ったセレクションになってしまうというならば、そもそも取り上げられるミュージシャンの男女比がどの程度だったら適切なのか?スポーツのように男性部門、女性部門と分けてセレクトするべきなのか?
そもそもジャズミュージシャンの男女比自体が同じじゃないでしょうし、男性の方がかなり多いでしょう。
男女比がどうあるべきかは置いておいて、現状の選ばれたミュージシャンの3~4割が女性という比率は、個人的な体感では逆に女性がかなり多めだと思いますね。
私は個人的に2019年の年間ベストアルバムを選んだのですが、ジャズミュージシャンを5人選んで女性は実はゼロでしたし。。
むしろ女性を取り上げすぎなのでは??
こういう数字をみると、#metoo運動などの高まりなどもあり、アメリカのメディアでは偏った男女比の雑誌構成にすると非難されてしまうので、逆に女性ミュージシャンの割合を意図的に増やしているのではない?とさえ思いますね。
ポジティブにとらえるならば、(男ばかりの)自分たちにジェンダーバイアスがあることを自覚したうえで、読者には出来る限り公正なセレクションをしようとしている結果なのかも。
基本的にはアルバムレビューは良い音楽を第一基準に選ぶべきだと思うのですが、ジェンダーバイアスのないレビューにする唯一の方法はレビュワーの男女構成比を同じにするしかないわけですよね。
レビュワーの男女構成が同じで、結果として選ばれるミュージシャンが男女どちらかに偏っていたとしてもそれはそれでかまわないと思うんです。
そういう観点からも、ジャズメディアにおいても女性レビュワーがゼロはマズいので、もっと女性レビュワーが増えた方が良いなとは率直に思うんですよね。