このブログは音楽アルバムを聴いた感想がメインなのですが、じつはSpotifyやサブスクの収益について書いた記事がいちばんアクセスが多いのですよね。
今日の投稿も、先日に読んだサブスク関連のニュースの感想を書いてみようかと思っています。
元記事はこちら
この記事の内容をざっくり要約すると、
アナリティクス会社のアルファ・データ社は最近、現代のストリーミングの状況を分析した結果、驚くべき統計を明らかにしました。
新しい調査によると、全体(160万人以上)のアーティストのうち、約1パーセント(16,000人)が全音楽ストリームの90パーセントを再生させていることが明らかになりました。
つまり上位1%のメジャーなトップミュージシャンがほとんどのストリーミングを独占して、結果としてサービスから得る収入も独占している、ということがデータで示された。
残り99%の「底辺の」ミュージシャンは、メジャーアーティストによってごっそり持っていかれた再生回数のパイの残りを、必死に奪い合っている状況だ。
という内容です。
メジャーアーティスト偏重はSpofityが悪者なのか
ここで書かれているデータはストリーミングの再生数から導き出された生のデータであり、実際にその通りなのだと思います。
音楽の聴き方が多様化している時代に、「上位1%のミュージシャンが全体の90%の再生回数を稼ぎ、収入の90%を得る」という事実は、心情的には間違っているのだと思います。
マイナーだけど質の高いミュージシャンにもっとスポットがあたるべきだろうとは思います。
ただここまで読むと、まるで音楽メディアがレコードやCDからサブスクに変化したことがメジャーアーティストに再生回数が集中している原因かのようにも読めますが(実際、この記事はそういうニュアンスで書かれている)、それって本当にそうなんでしょうかね?
そういったメジャーアーティスト偏重がSpotifyなどサブスクサービス側の責任なのか?というとちょっと違うんじゃないでしょうか。
メガアーティストの時代
今回のような調査結果は、サブスク時代になって初めてわかった結果だと思います。じゃあかつてはどうだったかというと、おそらく音楽雑誌やビルボードチャートなどが幅を利かせていた時代の方が、ずっとメジャーアーティスト偏重だったはず。
大手レコード会社がプッシュするアーティストのレコードやCDが店頭にならび、ラジオ局も人気アーティストを優先して流していたのだろうと思います。
マイケル・ジャクソンとかブルース・スプリングスティーンみたいなメガアーティストは数千万枚のアルバムを売り上げていたし、いまよりもトップアーティストに富が集中していた時代だったはず。
だからこそマイケル・ジャクソンなんかはあんな常識はずれの豪華な暮らしをしていたのだと思いますし。
そう考えると「上位1%のミュージシャンが90%の再生回数を独占している」という今の状況について、
「いや、かつてはもっとひどかった。いまはまだマシ」
とも言えるのですが、同時に
「確かにマシになっているけど、それでもまだメジャーアーティストの独占状態が続いている。いったいなぜ?」
とも思います。
これだけメディアやSNSが発達した時代、別にメジャーアーティストばかり選んで聴く必要もなくて、もっと自分の好みにあった音楽をチョイスして聴く方がずっと良いのに。
Spotifyが目指す「新しい音楽との出会い」
サブスクサービスで先行してきたのはSpotifyですが、じつは当初からメジャーアーティストの偏重ではなく、ユーザーの好みにあった曲をレコメンドするというコンセプトがあったようです。
この中で2015年までSpotifyで機械学習チームを率いていたErik Bernhardssonさんのコメントが読めます。
「仮に世界中にリスナーが20人しかいないようなニッチで変わったミュージシャンがいたとしよう。Spotifyならそのニッチなミュージシャンと20人のリスナーをつなげることができる」
これは、かつてのSpotifyはCDを買っていたようなリスナーにサブスクサービスに乗り換えてもらう必要があったため、これまでのメディアには無い魅力をアピールする必要があったのだと思います。
その大きな魅力のひとつが「Spotifyは、売れている曲とかじゃなくてあなたにピッタリな曲をレコメンドしますよ」というコンセプトだったことがわかります。
つまり「新しい音楽との出会い」を提供することが、サブスクの大きな売りだと考えていたということ。
このコンセプトは、いまでもSpotifyの「Discover Weekly」という週に1回月曜日にそのユーザーのためだけに選んでくれるプレイリストに引き継がれています。
ただ、こういうサブスクサービスのオススメプレイリストですが、(ここは個人的な印象にもなりますが)あんまりたいしたことないセレクションだと思います。
今まで聴いたことのない「新しい音楽との出会い」があるかというとそうでもない。全然ない。
これってどうしてなんでしょうか?
ニッチなアーティストをリスナーにオススメするというかつての目標はどうしたの?
AI(Deep Learning)の限界
Spotifyなどでリスナーに音楽をオススメする時のAIアルゴリズムには以下のような技術を使っているようです。
協調フィルタリング
あまり馴染みがない言葉ですが、リスナーがある曲を聴いた時に、その曲を聴いた他のリスナーが聴いている曲をオススメしてくれるようなものです。
簡単に言うと、アマゾンでいう「この商品を買った人はこんな商品も買っています」みたいなもの。
自然言語処理
これは検索のテキストの意味から(たとえば「Jazz」というジャンル名とか)共通性を抜き出してオススメするというもの
オーディオ波形解析
これは曲の長さ、テンポ、メジャー/マイナーどちらか、などの共通点を波形解析から抜き出す手法
代表的にはこういう手法を使っているそうなのですが、使った体感としてはこの中でも「協調フィルタリング」のウェイトが高いのだと思います。
現時点では好みの音楽に辿りつくことを考えると最も効果的なのでしょうけど、「協調フィルタリング」はどうしてもメジャーアーティストに偏った結果を出すアルゴリズムです。
Spotifyとしてはおそらく波形解析などを使ってもっと多彩なオススメをしたいと思っているのでしょうけど、今のところその試みは成功していないようです。
単純に考えて、曲のキーとかテンポとかが自分の好きな曲と似ているからっていって、そんな基準でオススメされた曲を気に入る人は少ないのだと思います。
音楽の印象はひとそれぞれだし、数値化も難しい訳だし、ディープラーニングをもってしてもなかなかハードルが高いのかも。
現時点では「新しい音楽との出会い」を提供するという当初の目標については、おそらく頓挫した状態なのだろうと思います。
頓挫というか、はっきり言ってもうあきらめているようにさえ思えます。
メジャーアーティスト vs Spotify
Spotifyが「新しい音楽との出会い」を提供するという当初の志の高い目標をあきらめちゃったのは、メジャーアーティストへの配慮というのが大きな理由なのでしょうね。
かつてはサブスク会社から得る収入の少なさに不満を持っていてストリーミング配信を拒否するミュージシャンが多数いたので、そんな中でニッチなミュージシャンがたくさん聴かれるような(リスナーが本当に望んでいるような)アルゴリズムに変えるのはメジャーアーティストの反発を招くだけと考えたのだと思います。
自分にあった良い音楽の情報をどのようにゲットするかは、音楽を聴くうえですごく重要です。
サブスクサービスの視聴履歴からAIで最適な音楽を見つけてくれるというのは理想的ですけど、その理想からすると今のサブスクのオススメは(メジャーアーティスト偏重であり)かなり不満が残ります。
サブスクサービスは歴史的にはいま過渡期にあって、かつては力の弱かったサブスク側も今では音楽業界のスタンダードとなり、ルールを作る側になってきつつあるとも言えます。
ユーザーの聴きたい音楽を提供することがユーザーの満足度を上げることになるのはSpotifyもわかっていますのだから。
Spotifyがメジャーアーティストの顔色をうかがう必要がなくなった後は(すでにそうなりつつあります)、オススメアルゴリズムは改善され今よりリスナーの好みにあった曲が選ばれるようになるはずです。
AIの問題点も、Spotifyほどの大企業がマジメにAIを作れば、今よりももっとスマートなものになるはずですし。
そしてそれは結果として、今は注目されていないマイナーなミュージシャンの質の高い曲が今よりずっとたくさん聴かれるようになるということ。そしてそういうミュージシャンに収益が配分されていくということ。
そうなったらいまよりずっと音楽を好きになれる気がしますよね。
テクノロジーばんざい!ですよ