今回は、トルコ伝統音楽のカヌン奏者 ディデム・バサール(Didem Başar)のソロアルバム『Levantine Rhapsody』の紹介
たまたま海外のwebサイトで試し聴きして「おっ、これは!」と思ったアルバムです。
なのですが、よくよくクレジットを調べてみると、彼女の演奏を聴くのは全く初めてという訳ではなかったのですよね。
バサールは、去年このブログでアルバムレビューを投稿したトルコ系シンガーのラミア・ヤレド(Lamia Yared)のアルバム 『Chants des Trois Cours』でもカヌンを弾いていたようです。
ラミア・ヤレドとディデム・バサールですが、彼女たちふたりは共通点があって、トルコで伝統音楽を本格的に学んだあと現在はどちらもカナダを拠点に活動してCentre Des Musiciens Du Mondeという音楽の教育機関センターでレジデント・アーティストとして活動しているようです。
実際のところ、ラミア・ヤレドの『Chants des Trois Cours』とディデム・バサールの『Levantine Rhapsody』は、どちらもこのセンターに所属しているアーティストが多く共演しています。
チェロのNoémy Braunなどは両方のアルバムに参加していますし。この2枚のアルバムは、いわば姉妹盤ともいえるアルバムになっています。
トルコからモントリオールへ
ディデム・バサルは、11歳の時にイスタンブール工科大学トルコ音楽院でカヌンを学びはじめ、作曲の学士号を取得しました。卒業後にイスタンブールにあるマルマラ大学でメヴレヴィー音楽の音楽分析に関する修士号を取得したそうです(メヴレヴィー音楽というのは、トルコのスーフィ教団で行われるスカートをはいてくるくる回る旋舞などで有名な音楽)
正式な学術機関でかなり高いレベルの音楽教育を受けてきた人ということですね。このあたりはラミア・ヤレドも同じようなキャリアを歩んでいます。
その後2007年にカナダに移住しモントリオール音楽院で学んだことで、トルコの伝統音楽と西洋音楽をより親密に絡めた音楽を志向するようになったとのこと。
民族音楽の中のクラシック
この『Levantine Rhapsody』ですが、純粋なトルコ古典音楽とは少し違うのかもしれないですが、すばらしい演奏ですね。
ラミア・ヤレドのアルバムは基本的には彼女の歌を美しく響かせることがメインとしたアルバムだったのですが、こちらの『Levantine Rhapsody』では高度な楽器演奏のテクニックを楽しむことができます。
基本的には主旋律をバサルのカヌンと、Guy Pelletierという奏者のフルートが担っているのですが、こういう淀みないテクニカルなフレーズを聴かせるところはやはりクラシック音楽の感覚に近いのかな、と思いますね。アルバムでは彼のフルートはかなり目立っています。
トルコのマカーム(旋法)じたいもかなり不安定な響きを持っていますし、Raksanという15/8拍子やDevr-i Turanという7/8拍子といった変拍子を多用していたり、かなり複雑な構造を持つ曲が多いと思うのですが、そういった曲をアンサンブルでバシッと決めるところは聴いていてかなり心地よいですね。
こういった感覚は、即興やリアクションを主体としたジャズなどではなかなか味わえない良さかな、と思います。
Personnel
Didem Başar – Kanun
Guy Pelletier – Bass Flute, Flute
Noémy Braun – Cello
Patrick Graham – Percussion
Brigitte Dajczer – Violin