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ミュージシャン軽視発言で炎上するSpotify CEO

最近、SpotifyのCEOのダニエル・エク(Daniel Ek)が音楽系webメディアのMusic Allyのインタビューの中で語った内容が炎上していたそうです。

実はわたしのブログはアルバムレビューのアクセスはほとんどなくて、多くは「Spotify 収益」に関するキーワードからのアクセスなので、これはほっておけない!

Spotify CEOがどういう発言をしたのか、ざっくりまとめると

「Spotifyはいまでは十分な収益をアーティストに支払っている」

「メディアで注目されるのはSpotifyの収益に満足していないごく一部の人たちの話だけだ。収入に満足していてもそう発言するメリットは無いからね。実際、ストリーミングの収入だけで生活できるアーティストは増えている」

「ストリーミングで成功したいのであれば、変化する音楽の状況に適応し、消費者とのエンゲージメントを高めなければならない」

「つまり(過去には必要なかった)コンスタントにアルバムリリースしなければならない。3~4年に一度のレコーディングではダメで、それでは十分な収入は得られない」

といったことを発言したそう

これを受けてSNS上で

「ミュージシャンが生活するのにも困ったり、5000万回再生されても、ロンドンに家を借りることすらできないのは何かが間違っているのだと思うよ」

「ちょっと待てよ。アルバムを作ってから2年間ツアーをまわってから、3年後にまたレコーディングに戻ってくるサイクルをミュージシャンが「怠けてる」とでも言うのか?」

「億万長者のダニエル・エクは、音楽なりアートなり、何かを自分で作ったことがたぶんないのだと思う。コモディティ(日用品)とアートの違いが分かっていない」

などなど、批判をあびているようです

たしかにCEOの発言は「ん?」と思う内容ではありますけど、こういうインタビューって、投資家向けの「ウチは絶叫調ですよー」みたいな発言かもしれないのですが、そういう場所のコメントが運悪く音楽リスナーが目に止まってしまったのかもしれません。

Spotifyは支払いは十分なのか?

そもそも「ミュージシャンへの支払いは十分」というダニエル・エクCEOの発言って事実なのでしょうか?

CD/レコードとサブスクの違いや分配率などの話などもありますが、ミュージシャン/音楽業界が得る収入は、けっきょくリスナーがどれだけ音楽にお金を払ったかによるわけです。
音楽業界の収入は一時期の最悪の時期を脱してV字回復していて、いまのところ5年連続で増え続けてやっと2003年くらいの収入にまで回復したという状態のようです

まぁ公平にみて、サブスクサービスによる収入って「ミュージシャンへ十分に支払いできていた、CD/アナログレコード時代のレベルに戻りつつある」というところなのではないのでしょうか。
「今の支払いで十分」と自信たっぷりに言われると「ちょっと待てよ」となるのは当然かも。

ミュージシャンはコンスタントにアルバムをリリースすべき?

もうひとつ「ミュージシャンはもっとたくさんアルバムをリリースしてくれ」というこのコメントは、いったいどういう意図なんでしょうね。
個人的にはミュージシャンに対して「リリースが少ない」とか思ったことは無いのですが。

もし彼の言うように、全てのミュージシャンが今の倍のペースでアルバムをリリースしたらどうなるというのでしょうか?

Spotifyの収入はアーティストごとの再生回数の割合によって分配されます。
ミュージシャンみんなが倍のペースでアルバムリリースしたとすると何が起こるかというと、別に何も起こらないんじゃないでしょうか?
ミュージシャンごとの曲再生回数の割合はおそらく変わらず、結果としてミュージシャンの収入も変わらないのだろうと思います。

これが従来のCD/アナログレコードメインだったら、リリースするアルバムの数が倍になればアルバムの収入はかなり増える(場合によっては倍増する)はずですよね。

実際には、ミュージシャンが倍のペースでアルバムリリースすることで結果としてサブスクの登録者が増えれば、ミュージシャンの収入が増えます。
ですが、いまサブスクサービスを使っていない人が、好きなミュージシャンのアルバムリリースが増えたからといって新たに加入するかというと疑問です。
良くいって微増だと思います。

「今までよりたくさん(できれば倍くらい)のアルバムをリリースしてくれると、会員数がちょっと増えるので我々としてもありがたいのだが」みたいなことを言っているようにも聞こえ、さすがに「ミュージシャンをバカにしすぎでは?」とは感じます。

ダニエル・エクがダースベイダーに見えるよ

かつてサブスクサービスは分配方式の不公平さなどから配信を拒否するミュージシャンも多かったのですが、今ではほぼ全てのメジャーアーティストはサブスク配信をしています。

結果として(日本を除く)CD産業は壊滅して、もうサブスクのなかった時代にはもう戻れないところまで来てしまいました。

Spotify CEOのこういう発言を聞くと、かつてはミュージシャン側の方が強かった力関係が逆転して、もはやサブスクサービス会社の方が完全に上の立場になったんだな、そしてそれを隠すことも無くなってきたんだな、と感じます。

SpotifyのCEOが「アルバムもっと出して」と言えば、ミュージシャン側はそれに従うしかなくなってきているということです。
サブスクサービスを前提にしている限り、トップページのプロモーションや検索アルゴリズムの調整など、マーケティングの主導権はサブスク側が持つことができる訳ですから。

もはやSpotifyは銀河帝国であり、ダニエル・エクCEOはダースベイダーと言ってもいいくらいのスーパーパワーを手にしているんだな、と。

そしてそういうミュージシャンの姿は、あまり見たくなかったなとは思いますね。