マット・ミッチェルとケイト・ジェンタイルによるユニット Snark Horse 怒涛の6枚組アルバム

ピアニストのマット・ミッチェルとドラマーのケイト・ジェンタイルのふたりを中心としたユニットSnark Horseのセルフタイトルアルバム『Snark Horse』

このアルバムの特徴は、なんといってもその6枚組という圧倒的なボリュームですね。全49曲、総収録時間は5時間36分。

過去音源のコンパイルなどを除いて、新録としてこのボリュームはあまり聞いたことないですね。
マイルス・オカザキのセロニアス・モンク集コンプリート版の6枚組くらいかな。でも、あのアルバムだってソロギターで自分で好きな時にレコーディングできたからというのもあるだろうし。

この『Snark Horse』はミッチェルとジェイティルのふたりが、「毎日1小節づつの作曲を行う」 という試みから生まれたプロジェクトのようで、最終的には70曲が書かれたそうです。

そしてこの短い曲(というかフレーズ)をもとに、8人のミュージシャンを加えデュオから最大ではテンテット(Snark Horsekestra)まで、さまざまな組み合わせで即興演奏を行うというコンセプト。
ライブでは2013年から断続的に演奏されているとのことで、かなり長いスパンで活動しているプロジェクトで、未聴ですけどDiscogsを見ると2015年にセルフ・リリースのライブ盤がリリースされてます。
YouTubeでは2019年くらいのライブが多くアップされているので、最近になって活動が活発になったプロジェクトなのかも。

曲はピアノ用に書かれており、他の楽器用の譜面はないそうです。
つまりどの楽器でも参加することができ、各ミュージシャンは自由に即興演奏を行うことができるとのこと。
各ミュージシャンはスコアのどの部分に焦点を当てるかをみずから決め、1小節の曲をループさせたり、移調したり、反転させたり、交互に演奏したり、短いモチーフを無限に展開していくスタイルを取っています。ジャズ的といえばジャズ的なコンセプトですね。

演奏はすべて1テイクで録音。
当初、ミッチェルとジェンティーレがレコーディングを計画したときには、曲を一通り聴いた後に代表的な曲を選んでリリースするつもりだったそうです。ですが
「このセッションは紛れもない相乗効果を生み出し、万華鏡のような広がりを感じました。余分なものは何もなく、私たちの想像をはるかに超えていました」
「全曲を収録した方がこの3日間に起こったマジックの全貌が明らかになる」
とミッチェル自身が言うようにその出来栄えにかなり満足したようで、最終的には全曲を収録することになったそうです。

即興メインの演奏だと難解になりがちなのですけど、このアルバムは収録時間の短い曲も多くて、シンプルなメロディに対してミュージシャンが展開させはじめると、そこですっと終わる感じ。
与えられた曲を誰がどのように展開していくか、その意外性を楽しむようなアルバムで、言ってみればコブラのようなゲームピースっぽい雰囲気もありますね。
そんな中で場違いなほどジャズっぽい「ソロ」を吹き続けるイラバゴンは聴いてて笑っちゃいましたがw。

ミッチェルはピアノだけじゃなくてモジュラーシンセなどの電子音を多用しているのですが、それだけじゃなく曲の合間にはミッチェルが作曲したソロ電子音響作品が散りばめられているのも特徴的です。
ちょっとオウテカっぽい(つまり少し音色が古めかしい)曲ですね。

クレイグ・テイボーンなど電子音響作品を作るジャズ/即興系のミュージシャンも何人かいますが、このミッチェルのような雰囲気の作品が個人的にはいちばん好みかな。

Personnel

Kate Gentile – compositions, drums & percussion
Matt Mitchell – compositions, piano, modular synthesizer, Prophet-6, MicroFreak & electronics
Kim Cass – acoustic & electroacoustic bass
Ben Gerstein – trombone
Jon Irabagon – tenor, mezzo-soprano, sopranino, soprillo, & mezzo-soprano
saxophones & alto clarinet
Davy Lazar – trumpet, piccolo trumpet & cornet
Mat Maneri – viola
Ava Mendoza – guitar
Matt Nelson – tenor & alto saxophones
Brandon Seabrook – guitar & tenor banjo