Pyroclastic Records / クリス・デイビスが設立したジャズレーベル

ちょうど昨日ですが面白い記事を見つけました。
カナダ出身のピアニスト、クリス・デイビスの設立したレーベルPyroclastic Recordsと、最近リリースされたレーベルの代表作について紹介している記事です。

具体的なアルバム紹介については、ブログの最後にオススメのプレイリストも載せますね。このプレイリストだけでも聴いてほしい。

Pyroclastic Recordsは2016年に設立したかなり新しいレーベルです。
非営利の団体となっていて、このレーベルを通して自身と共演するミュージシャンに具体的な演奏の機会を与え、個人的な借金をすることなくマスターの所有権を得ることができるということです。
活動内容としては一般的ないわゆるレーベルと大きく違いはないと思いますけど、非営利ということとミュージシャン自身が運営しているというところが大きいのだと思いますね。

ストリーミングサービスが大勢を占めるようになり、CDを作って売るというモデルが成り立たない今こそこういうスタイルのレーベル運営が求められているとのこと。
レーベルとしてはストリーミング解禁もしていますし、加えてBandcampのレーベルページも合わせて持つという感じですね。

レーベルを設立したクリス・デイビスは、ニューヨークのジャズシーンでは「常に自分はアウトサイダーだと感じていた」とインタビューで答えていますね。
なんといっても外国人だし、女性だし。

もうひとつ、彼女は夫もジャズミュージシャン(ドラマーのジェフ・デイビス)としてさまざまなライブに出演していたので、そのことが彼女に仕事に影響していたらしいですね。
じっさいに彼女は夫と離婚したあとに「君と仕事したかったけど、ジェフと結婚しているから連絡できなかったんだ」とけっこう言われたとか。
コネで呼んだみたいに見られるのがイヤだったのか、ライブの現場にそういう夫婦関係が絡むのがわずらわしかったのか。
彼女はこうした苦い経験から(特に女性にとっては)「自分自身のコラボレーション関係やコミュニティを構築する必要がある」と痛感したようで、このことがPyroclastic Recordsの設立につながっていったようです。

こういったことから、レーベルに参加しているミュージシャンはクリス・デイビスと彼女とつながりの深いミュージシャンがほとんどですね。
人数は多くないので、全員列挙してみると
Kris Davis/Craig Taborn/Cory Smythe/Ben Goldberg/Chris Lightcap/Nate Wooley/Eric Revis/Angelica Sanchez/Marilyn Crispell
となります。

2019年以降は年に5~6枚というペースでアルバムをリリースしていて、かなり順調に運営ができてきている感じ。
これまでリリースしたアルバムは全てあわせても11枚と少ないですが、重要なアルバムが揃っている印象です。

主だったアルバムをあげてみると

クリス・デイビス『Diatom Ribbons』(2019)

2019年のジャズで高い評価を得たアルバム。
このアルバムの高評価がレーベルの信頼度をアップさせたと思いますね。
このブログで取り上げた時の投稿がこちら

コリー・スマイス『Accelerate Every Voice』(2020)

2020年のジャズでは、個人的にはベスト・フェイバリットのひとつ。このブログでもリリース直後に「これはっ!」と思って投稿しました。

このアルバムに参加しているMichael Mayoは、最近一部で話題になっていましたね。このアルバムでは特に他のヴォーカリストに比べて突出して目立っている訳ではないですが。

同じくコリー・スマイスの『Circulate Susanna』(2018)というアルバムもこのレーベルからリリースされていて、同じくエキセントリックなヴォーカルをフィーチャーした、『Accelerate Every Voice』への序章とでも言うべき作品で必聴ですね。

Chris Lightcap『SuperBigmouth』(2019)

もともとはポルトガルのClean FeedレーベルからアルバムをリリースしていたChris Lightcap’s Bigmouthというグループが、若干のメンバー変更を加えてグループ名に”Super”を付けてレコーディングしたアルバム。

オーソドックスないわゆる現代ジャズという感じですね。安心して聴けます。
Tony MalabyやCraig Tabornといったクリス・デイビスと共演歴の長いメンバーに加えて、Jonathan Goldbergerというギタープレイヤーが注目ですかね。
GoldbergerはJohn ZornのBagatellesにも参加しているプレイヤーで、どちらかというとジャズよりはハードコアなギターを弾く人で、ゾーンはこういう人は必ずプロジェクトに入れますね。
ちなみにGoldbergerはかつての夫Jeff Davisのバンドメイトなので、ちょっと微妙な人間関係ですね。

クリス・デイビス自身も、メアリー・ハルヴォーソン(guitar)、クリス・デイビス(piano)、ドリュー・グレス(bass)、タイショーン・ソーリー(drums)というスーパーオールスターグループでBagatellesに参加予定なので、こちらも期待ですね。
(「Bagatellesのアルバムリリースはまだか?」というセリフはこのブログでもう何度めだろ?)

Eric Revis 『Slipknots Through A Looking Glass』(2020)

ブランフォード・マルサリス・グループのレギュラーベーシストであるエリック・レビスのアルバム。ブランフォードグループの Justin Faulknerもゲストで2曲参加しています。
もうブランフォードは個人的には数少ない「ファン」のミュージシャンなので見逃せませんね。

もともとクリス・デイビスはエリック・レビスのソロアルバムにピアニストとして参加していました。
エリック・レビスのソロアルバムは、バップからフリーフォームまで幅広くて、それでいてカッチリと構成されて破錠がないアルバムです(地味と言えば地味なんですけど)

レビスのソロアルバムもClean Feedレーベルからリリースされていて、今回Pyroclastic Recordsに移籍したということですね。

ポルトガルのClean Feedというレーベルは、アメリカ本国でマーケティングベースに乗らないようなアルバムをリリースするという意味でかなり貴重な存在と思いますけど、活動するうえで「できるならアメリカのレーベルの方が良いな」というのはあるのかもしれないですね。地理的な話とか収益の税法上の話とか。

Junk Magic『Compass Confusion』

そしてこのアルバムがレーベルの最新作。実質、クレイグ・テイボーンのソロ作ともいえるグループ、Junk Magicの新作ですね。クリス・スピードのクラリネットと、マット・マネリのヴィオラがフロント。

もともと2004年にThirsty Earからアルバムをリリースしていましたが、再起動というところでしょうか。この2004年のアルバム『Junk Magic』はあまりピンと来なかったのですが、今回の『Compass Confusion』も、、、うーん、フリーインプロが強すぎてあまり好みじゃないかも。ゴメンナサイ。

テイボーンのエレクトロニクス趣味が全開のアルバムなのですが、途中にオウテカみたいな音になるところはちょっと面白いかも(そういう曲を最後のプレイリストには選びました)

all albums of Pyroclastic Records

さてさて、お待たせしました。Pyroclastic Records のプレイリストですよ。
アルバムの数も少ないので、全アルバム入りです。
ご査収あれ