ドゥドゥ・タッサ&ジョニー・グリーンウッド『JARAK QARIBAK』

イスラエルのロックミュージシャンであるドゥドゥ・タッサ(Dudu Tassa)と、レディオヘッド、ザ・スマイルのギタリストであるジョニー・グリーンウッドによるコラボ作品『JARAK QARIBAK』

タッサ自身のヴォーカルの他、多彩なゲストを迎えながら全編アラビア語で歌われる、ロックと中東の音楽をミックスした音を聴くことができます。

ドゥドゥ・タッサはイスラエルではかなりの知名度があるミュージシャンなのですが、今回のアルバムはWorld Circuitレーベル(『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』などで有名)からリリースされ、しかもグリーンウッドとのコラボということで、ワールドワイドに売り出しをかけたアルバムと言えるかもしれません。

わたしはイスラエル国内の音楽シーンには全く疎いわけですが、タッサの名前と彼の人気については以前に知ってはいたんですよね。

以前にSHIRANというアーティストについてブログに書いたのですが、その時に読んだ彼女について書かれたweb記事のいくつかでタッサの名前が挙がっていました。

Shiranはイエメン系ユダヤ人で、彼女の祖父後の世代は母国イエメンでのユダヤ教徒の迫害を逃れてイスラエルに移住してきたという経緯の持ち主。

タッサの家系はもともとイラク・バグダッドに住んでいたミズラヒ系ユダヤ人。
タッサの祖父や大叔父(Daoud and Salih Al-Kuwaity)はバグダッドで1920年代から1930年代にアラビア語の歌を集めたレコードをリリースしベストセラーとなった音楽家の家系だったそうですが、1951年に、イラクでの反ユダヤ迫害を逃れてイスラエルへと移住を余儀なくされるという歴史を持っています。

イスラエル移住後に、タッサの祖父や大叔父たちが再び音楽的な名声を得ることは無かったわけですが、イスラエル国内で生まれ育ったタッサは、ギターを持って自ら歌いロックバンドを率いることで、イスラエル国内でトップクラスの人気を得ることになります。

またタッサは自身のソロ活動での成功ののち、祖父と大叔父が書いたイラクののみを演奏するアルバム『Dudu Tassa & the Kuwaitis』(2011)にリリースしています。
これはイスラエルで数千枚を売るヒットとなり、イスラエルの主要ラジオ局で初めてアラビア語の歌となったそうです。

ソロ作品でのタッサのアルバムは、アラビア語の歌いまわしに中東っぽさが漂うのですが、ジャンルで言えばあくまでロック/ポップス。
正直、あまり好みの音ではないのですが、その反面この『Dudu Tassa & the Kuwaitis』は中東音楽の豊饒さとロックっぽさがうまい具合にミックスされて、かなり良質なアルバムと思いますね。

今回の『JARAK QARIBAK』は、(World Circuitからリリースされていることも含めて)、ソロ作品というよりもこの『Dudu Tassa & the Kuwaitis』に近いテイストの作品になっているようです。

動画はアルバム収録曲「Ya Mughir al-Ghazala (feat. Karrar Alsaadi) 」

Max/MSP、映画音楽、そしてオリーブ

このアルバムで共作としてクレジットされているジョニー・グリーンウッドですが、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の音楽活動を行うなど、レディオヘッド以外にも活動の幅を広げていたミュージシャン。
わたし自身はレディオヘッドにそこまで思い入れはないのですが、グルーンウッドについてはロックミュージシャンにしては珍しくMax/MSPを自身の創作に取り入れたりと、気になるミュージシャンではありました。

グリーンウッドとイスラエルの関係は深く、奥さん(ビジュアル・アーティストのSharona Katan)がイスラエル人でグルーンウッド自身もヘブライ語を話せたりするようで、そうした縁からタッサの6枚目のアルバム『בסוף מתרגלים להכל (In the End You Get Used to Everything)』にゲストとして参加することになったそうです。
また2017年のレディオヘッドツアーに、彼のグループをサポートアクトとして加えてもいますね。

イスラエルについては政治的な論争になることも多く、新パレスチナの活動家でもありイスラエルの文化的ボイコットを支持を表明しているピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズは、2017年にレディオヘッドがテルアビブで演奏したことを批判してもいます

アルバムタイトルの『JARAK QARIBAK』は、 “Good fences make good neighbors”(良い塀は良い隣人を作る)という意味の格言であり、イスラエルとパレスチナの危うい緊張関係を指したタイトルではあるようですが、タッサもグリーンウッドもことさら音楽で政治的な主張をしようとしている訳ではなく、インタビューなどを読むと自分たちの音楽を政治的な問題と関連付けられることに居心地の悪さを感じているようでした。

今回の『JARAK QARIBAK』の音については、過去のタッサとグリーンウッドの共演の延長線上にあるようです。
コラボという形をとっていますが、アルバムを聴いた印象ではタッサのソロアルバムであり、グリーンウッドはゲストプレイヤー的な立ち位置じゃないかと思います。

ダブルクレジットになったのは主にマーケティング的な目的が強いように思えますね。

ドラムの入ったロックっぽい曲から、アラブ音楽っぽいものまで、これまでのタッサのキャリアの総集編とも言える内容のアルバムな気はしますね。
グリーンウッドが連れてきたナイジェル・ゴッドリッチがミックスしたということで、ドラムやギターの音は気持ちよく鳴っていますね。

追記

そういえば今回いろんなweb記事を読んでいて、グリーンウッドがオリーブ農園を経営しているというプチ情報を得ました。
これはレッチリのフリーが養蜂家になったみたいなものかな?

もしかするとポップスターのライフスタイルみたいなのが肌に合っていない人なのかもしれませんね。