Zenzile: The Reimagination of Miriam Makeba

ソーミ(Somi)は、アメリカ・イリノイ州生まれのジャズ・ボーカリスト

前作『Holy Room – Live at Alte Oper with Frankfurt Radio Big Band』が2021年のグラミー賞の最優秀ジャズ・ヴォーカル・アルバムにノミネートされるなど、非常に注目を浴びる存在になりつつあります。

今回のブログ投稿は、ソーミが南アフリカの歌手であるミリアム・マケバをモチーフにレコーディングしたアルバム『Zenzile: The Reimagination of Miriam Makeba』の紹介

ソーミは、両親はルワンダとウガンダ出身ということでアフリカにルーツがあるヴォーカリストです。

父親が世界保健機関(WHO)に勤務していたこともあり、一家はソーミが3歳の時にザンビアのンドラに移り住むことになったそうです。
その後ソーミが高校生の時に、父親がイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の教授になったことをきっかけにイリノイ州に戻り、ソーミ自身もイリノイ大学で人類学とアフリカ学を専攻していたとのこと。

また彼女はナイジェリアのラゴスでの1年半過ごした経験から『ラゴス・ミュージック・サロン』というアルバムをレコーディングしたり、「奴隷および大西洋間奴隷貿易犠牲者追悼国際デー」のために国連でパフォーマンスを行ったりと、「アメリカとアフリカを結ぶ文化の架け橋」となることを強く意識した活動を行ってきたミュージシャンです。

良く「次世代のニーナ・シモン」といった例えをされることも多いそうですが、それは彼女のアクティビストとしての一面が注目されてのことのようです。

ドリーミング・ゼンジル

そういったキャリアを持つソーミが現在行っているプロジェクトが、南アフリカの歌手ミリアム・マケバを題材にしたオリジナルミュージカル『ドリーミング・ゼンジル(Dreaming Zenzile)』
※ゼンジルというのは、ミリアム・マケバのファーストネームですね。

ソーミはこのミュージカルで主演を務め、また音楽も担当しています。

ちなみにこのミュージカルの演出・監督を担当しているLileana Blain-Cruzという女性は、ウェイン・ショーターとエスペランサ・スポルディングによるオペラ『Iphigenia』でも演出していてます。
ショーター、スポルディングの次に名前がクレジットされていて、演出の面では彼女が最高責任者のようですね。

舞台演出でさまざまな賞を受賞している人らしくて、『ドリーミング・ゼンジル』もけっこう制作に力の入った作品のようです。

ミリアム・マケバの生涯

ミリアム・マケバのプロフィールはwikiなどで読むことができますが、改めてプロフィールを読むと、本当に波乱万丈な人生を送っていますね。

1967年に反アパルトヘイト活動により母国である南アフリカから約30年間追放され、アメリカに移住後にもブラックパンサーのストークリー・カーマイケルと結婚したためにブラックリストに載ってしまい、マケバの音楽的キャリアは失われてしまった(その後、カーマイケルとともにギニアへ移住し音楽活動を続けることになります)

文化的に抑圧され、コミュニティから追放されつづけてきた悲運の人で、ポール・サイモンのグレイスランド・ツアーに起用されることで、マケバが(彼女が本来受けるべきだった)注目を浴びたことはせめてもの救いですね。

ちなみにソーミがジャズの世界に入った後のメンターであるトランペット奏者のヒュー・マセケラは、ミリアム・マケバは(マケバが南アから追放されるの一時期に)夫婦だったそうで、そういった個人的なつながりもこのミュージカルを上演するきっかけとなったようです。

『Zenzile: The Reimagination of Miriam Makeba』

ソーミは、このミュージカルを元に『Zenzile: The Reimagination of Miriam Makeba』というアルバムを今回リリースしました。

これはミュージカルのサントラということではなく、新たなアレンジによる新録アルバムとのことです。

このアルバムですが、すごく良いですね。かなり好きなタイプのアルバムです。
「名盤」と言われるようなオーラを感じます。

ソーミは基本的にR&Bよりのジャズ(もしくはジャズよりのR&B)を歌うヴォーカリストだったと思うのですが、今回のアルバムはポップスっぽくアレンジされています。

例えるなら、80年代にピーター・ガブリエルとか、ケイト・ブッシュとかがやっていたような、ロック・ポップスとワールドミュージックをミックスしたようなテイストのアルバムになっています。

この辺りはミュージカル本編の音楽とバランスを取った結果なのかも。

カッチリとプロダクションされた「完成度の高い」アルバムで、今はR&Bやヒップホップ全盛でもありこういうアルバムは皆無なので、聴いていてすごく新鮮です。

使われているパーカッションやコーラスなど、適材適所というかムダがなくて、非常に洗練された感じ。

ミリアム・マケバの最大のヒット曲『パタ・パタ』などもこのアルバムでは歌っているのですが、こういってはなんですがオリジナルより今回のソーミ・バージョンの方が好みですね。