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それでもまだフェスに行きますか?

2022年はあまり雑談のブログを書いてなかったのですが、今回はここ数日盛り上がっているこの話題について

音楽業界4団体が、自民党から参院選に出馬するスピードの今井えりこ・生稲晃子候補を支持

記事になっている音楽4団体とはこちらです
一般社団法人日本音楽事業者協会
一般社団法人日本音楽制作者連盟
一般社団法人コンサートプロモーターズ協会
一般社団法人日本音楽出版社協会

ミュージシャンや音楽ファンは、どちらかというとリベラルで反権力志向な立ち位置の人が多いと思うのですが、このニュースを聞いて「なぜ音楽業界が自民党支持?」と疑問に思った人も多かったでしょうし、怒りをあらわにする人もたくさんいました。

この支持表明の引き起こした反応は大きく、まさに「激震」と言っても良かったんじゃないでしょうか。ここまで音楽界に動揺を引き起こした出来事ってあまり記憶ないなあ。

このニュースで音楽ファン(特に洋楽ファン)が特に注目したのは、フジロックを主催するスマッシュや、サマーソニックを主催するクリエイティブマンなどが所属するコンサートプロモーターズ協会の支持表明でしょうね。

ちょうど夏フェス直前のタイミングでもあり、多くの人がフジロックやサマソニの予定を立てていたタイミングですし。

ライブ・イベント業界というのは、コロナ禍にあって音楽業界の中で最もダメージを受けた業界でした。

そんな状況の中で、特にスマッシュやクリエイティブマンは、行政に対してかなり批判的なトーンで現状の改善を迫っていた印象です。
それだけに、今回のニュースを聞いてシンプルに「なぜ?」と思った人も多いでしょう。

ギブ・アンド・テイク

この業界4団体ですが、今回の表明以前にもここ数年のコロナ禍でのイベント対応に関して何度か共同で声明を出していました。

例えば、去年2021年7月10日には共同で「コロナ禍におけるライブ活動に関する共同声明」を出しています。

この7月10日というタイミングというのは、7月2日に茨城県医師会がROCK IN JAPAN FESTIVALの主催である茨城放送に乗り込んで中止要請を出し、7月7日に主催者がフェスの中止を発表した、その直後になります。

声明では、医師会というなんの権限のない他団体からの圧力によりフェスが中止に追い込まれたことに対して、強いトーンで抗議を行っています。

この声明を受けてのことかどうかはわかりませんが、その後の8月に開催されたフジロックや9月に開催されたサマーソニックでは、結果として医師会から中止要請が出ることはありませんでした

この当時の経緯はブログに書いたこともあり良くおぼえているのですよね。

医師会もコロナ対応では当時はかなり批判を受けていたこともあり、他業界(音楽業界)から「部外者は黙ってろ」と声明を出されたとて「はい、そうですか」と素直に聞くわけにはいかなかったと思います。

ただ、最終的には医師会側が折れた経緯をみると、フェス側と医師会の間におそらく行政が入って調整を行ったであろうことが伺えます。
そしてその旗振り役を、今回の業界4団体が担ったということなのでしょう。

ちょうど同じタイミング、2021年7月23日付けのweb記事で、クリエイティブマンの清水氏がインタビューに答えていますね。

「とにかく行政と密に連携をとって進めていくことが大事」
「キョードーなども含め業界全体で取り組んでいる」
といった点を強調した記事になっています。

かなり前向きな印象で、行政に対する批判的なトーンは抑えられた記事となっています。

これって、いま読むといろいろ考えさせられる記事ですね。

こうやって改めて2021年を振り返ると「ロックインジャパン・フェスの中止」が音楽イベント業界にいかに大きなインパクトを与えたか、が良くわかると思いますね。

音楽業界としては、なりふりかまわず行政と協調せざるを得ないほど追い詰められたということなのでしょう。

「潮目が変わった」ということですね。

またもうひとつイベント業界と行政の関係でいうと、コロナ禍でのフェスには経産省から補助金も出ていましたね。
当時「コロナ禍で感染者が拡がりつつあるのにイベントに補助金出すのか?」という反対意見も多かったのに、です。

2021年のフジロック に出された補助金は1.5億円ですが、この補助金は「コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金(J-LODlive補助金)」の枠組みから拠出されています。

これはまさに今回のニュースの中で生稲晃子候補がアピールしていた取り組みそのものです。

今回の自民党2候補への支持表明の中で、4団体はこの補助金に対して謝意を示しています。

またもう1点、今回の4団体の支持表明に抗議を行った#SaveOurSpaceに対する回答によると、さねらにさかのぼること2021年に施行された「チケット不正転売禁止法」が成立したことも、今回の2候補支持へのきっかけになったとか。

この法案を推進したライブ・エンタテインメント議連というのは会長が石破茂さんで、超党派といいつつ自民党が中心となった議連のようですね。

ちなみにこの議連の会合には、ミュージシャンとしてはサカナクションの山口一郎さんが参加していたようです。

つまりこれらもろもろの経緯からすると、今回の4団体による自民党候補2名を支持は急に出てきたものではなく、コロナ禍の音楽業界への便宜に対しての見返りという意味合いなのでしょう。

そんなの知ってた? ですよねえ。

4団体は支持の理由として「音楽文化に与えた功績を称える」と言っているようですが、そんなことはさすがに信じる人はいませんよね。
「2人にどんな功績があるんだ!」と真面目にツッコんでもバカらしいだけ。

それはそうと、2021年の1.5億の補助金の話は当時はあまり音楽ファンにも知られていなかったんじゃないかな。

コロナ禍というぎりぎりの状況の中でやっと開催にこぎつけて、いろんな思いを抱えながらも盛り上がった音楽フェス。
そのフェスが、実は自民党への支持と引き換えに手にした補助金で成り立っていたという「不都合な真実」

うーん、こういうのって誰に対して怒りを向ければ良いんだろう?

自民党に対して?
でも自民党はそういう人たちだということは最初からわかってたし、今さら怒ってもね。

じゃあスマッシュやクリエイティブマンに対して?
さすがにそれはできない、というのがみんなの本音では?。

つまり振り上げたこぶしの下ろしどころがない、というもどかしい状況です。

例えるなら、まるで家族のサポートもあってがんばって志望大学に合格した後に、その親がこっそり大学お金渡して裏口入学させていたことがわかった、みたいな感じかな。

SNSを読んでも
「スマッシュやクリエイティブマンはこの件に正式にコメントを出すべきだ」
という声はかなり多いですね。

でもそういう人は、どんなコメントを聞けば「納得」するんでしょう。
「所属団体の方針には従ったが、我が社としては2名の支持は反対」とか?

結局どんな説明がなされても「支持した」という事実も「裏切られた」と言う感情も消えないもの

一部では「今回のことでフジロック・サマソニに行くかどうか迷っている」というコメントもチラホラ見かけます。

全くひどい話ですが、今回のニュースで音楽ファンは踏み絵を迫られているのです。

「それでもまだフェスに行くのですか?」

と。

政治を語るTPO

ここからはちょっと余談

SNSを見ていると、「自民党は嫌い・支持しない」という理由以外にも、今回のニュースに反対する意見も読むことができますね。

そのひとつは「そもそも音楽業界団体が特定の政党を支持すべきでない」という意見

政治を語るにもTPOがあるということですかね?

クリシェのようにたびたび話題になる「芸能人が政治を語るな」というテーマに近いかも。
「◯◯は政治を語るな」という意見の◯◯にはいろんな言葉が入りますね。
「素人は、、」「若造は、、」「女は、、」などなど

例えばきゃりーぱみゅさんが「#検察庁法改正案に抗議します」のタグを付けてツイートした時、「政治のこと何も知らないくせに」とマンスプレイニング全開の意見が投げかけられていました。
(彼女の場合は、ツイートに怪しげな画像を付けてしまい、ツッコミどころが満載だったのも原因ではありますが。「芸能人だから批判しているんじゃない。内容を批判している」という物言いが彼女の場合は通ってしまった形です)

それでもこういった議論の行き着く先は、大抵の場合は
「誰だって政治を語る権利はある。むしろみんな積極的に語るべき」
という形に落ち着くものです。

だとすると”芸能人ですら” 政治を語ることが許されるのに、どうして音楽業界団体が政党を支持するのがNGなのでしょう?

例えば日本医師会だって日弁連だって全トヨタ労連だって、普通に特定の政党への支持を表明してませんか?

労働組合と一般社団法人を並べるのは雑かもしれませんが、政治活動に特段の制限がないという点ではいっしょでは?

そもそも業界団体というのは行政とのパイプ役も担っていて、陳情を聞いてもらう際に団体からの支持を交渉材料にするというのはごく普通のことだと思うんです(表立って「見返り」とは言いませんがそれはタテマエ)

確かにこれまで「これまで音楽業界はそんな支持表明はしてこなかった」というのはその通りかもしれません。

ただよく「JASRACは文科省の天下り先」とか「再販制度の利権化」みたいな話が出てくるように、なんと言っても業界団体なのだから、行政とは深い共生関係にあると思ってはいましたけど。
別に音楽団体だから特別というイメージは持ってなかったなあ。

とはいえ、今回のニュースがあまりにいきなりで違和感を持つ人は多かったのは確かなのでしょうね。

そこについては、コロナ禍の苦境が業界にとってそれだけイレギュラーだったということじゃないでしょうか。

「何もやらない」自民党

音楽と政治の関わりに関しては、ここ数年はほどんとコロナの話がメイントピックでしたね。
そのため、いまの政府の働きぶりをコロナ対応で評価する音楽ファンも多いです。

コロナ初期にあっては「#音楽を止めるな」といったスローガンに代表されるような、ライブハウスを支援する運動が注目を集めました。

他にも#自粛と補償はセットだろ というタグも良く見かけましたしね。

コロナ初期の2020年初頭には、「政府は何もやってくれない」「音楽の現場は瀕死の状態」という声は、とにかくSNSにはあふれていましたね。

音楽ファンの中でも
「コロナ禍でも自民党は何もしなかった、補償拡大などを訴えてきたのは立憲民主や共産党」
という意見はいまだに根強いんだな、と今回の2候補への支持表明への反応を読んで改めて思いました。

でも、ホントにそうなのでしょうか?

改めていま「コロナ禍で政府が何をやってくれたのか?」を考える場合、議論の中心は「持続化給付金」の評価になるのかなと思います。

持続化給付金の支給がはじまったのは、この2020年の5月くらいから徐々にスタートしていきました

持続化給付金については「支給が遅い」「額が足りない」という意見は確かにありましたが、支給されることはされていましたよね。

ですが「#自粛と補償はセット」と言っていた人たちや一部の野党の議員さんは、持続化給付金の支給が本格化してもなお、「政府は何もしない」「全額補償を」とマントラのように繰り返していたことは良くおぼえています。

ちなみにこの「補償」という単語は誤解を生む(意図的にミスリードを誘う)単語だったと思います。

この当時使われていた「補償」は経済的な損失を全額カバーするという意味で使われていて、むしろ「補填」といった方が意味は近かったのだとは思います。

それって、コロナ禍での損失を国が全額カバーするという話ですよ?
極端な例、赤字ぎりぎりのライブハウスにはわずかな額の補償を、超高級ホストクラブや銀座のクラブには数千万円もの巨費をそれぞれ補償するという話になります。

「税の公平な使用」という観点からも、さすがに無理な考え方だと思います。だから上限付きの「給付」という形になったんです。

2021年になると、オリンピックをできれば有観客で開催したいという政府・東京都の思惑もあり、オリンピックとの整合性を取るために屋外のスポーツイベントの規制はかなり大幅に緩和されてきました。

音楽ライブやフェスも、行政の扱いはプロ野球やJリーグと同じカテゴリで運用されてきたので、その緩和の流れにのった形です。

この時期の印象的なニュースとしては、JLodLiveの対象に洋楽プロモーターが含まれていない、という件。

この話は大きなニュースになりましたが、その後の「洋楽プロモーターを対象に追加する」という政府の対応はかなり早かったと記憶しています。
これって苦境を訴えるニュースから政府対応まで半月も経ってなかったんじゃないかな。


この政府の異例の対応の早さは、おそらく当時首相だった菅さん(もしくは政権の誰か)の号令があったのだろうと思いますね。

これまで、いろんな時期にいろんなコロナ対応が行われてきた訳ですが、いずれにしても「立憲民主や共産党の訴えがあったから市民の多くの要望が実現した」とは思えないのですよね。

いっしょにされたくない人たち

今回のニュースの、ある意味当事者であるミュージシャンの方たちは、
「自分はこんな支持表明は納得しない。一緒にされたくない」
というコメントをしています。

うーん、やっぱりこういうニュースが出ると
「じゃあミュージシャンもみんな自民党支持なのか!」
と思っちゃうんですかね?

個人的には全くそんな風には思ってなくて、音楽「業界」とミュージシャンとは深い関係ではあれど「別物」というイメージです。

先ほどの例でいえば、もし全トヨタ労連が自民党を支持したとしても、じゃあトヨタ社員を見たら「あ、あの人は自民党支持者なんだな」とまでは思わないですよね。

追記

今回のニュースについては、個人的には
「業界団体だし、そういうこともあるかもね」
とあまり深刻に受け止めたくはないのですけどね。

このまま業界4団体(と所属する企業)がダンマリだったみんなどうするんだろう?

さらには参院選で2名の候補が当選し、自民党が選挙に大勝したら?

7/10の参議院選挙にて、今井えりこ・生稲晃子の両候補は当選し、自民党も大勝しました。

その時は、今よりもっとむき出しの怒りがSNSなどにあふれるのかな?それはちょっとやだなー。

まー、とにもかくにも久しぶりにモヤモヤするニュースだったですねえ。