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史上最も「ヒット」したジャズアルバムは何か?

今回はまた雑談投稿です

テーマは「ジャズ・アルバムのヒット作」について。

どうしてこの話題かというと、最近、パコ・デ・ルシア、ジョン・マクラフリン、アル・ディ・メオラの3人によるザ・ギター・トリオのアルバムの未発表音源『Saturday Night In San Francisco』がリリースされたのですが、その前日のライブであり、1981年にリリースされた『Friday Night In San Francisco』が800万枚も売り上げたヒット作品だった、という記事を読んだからですね。

そんなわけでジャズアルバムの売りあげについてネットで調べていたのですが、なかなか面白い記事を見つけました。

タイトルは

「史上最も売れたジャズアルバムと、ジャズでは金を稼げないことについて」

ここでは、アメリカレコード協会(RIAA)によるジャズアルバムの売り上げについてまとめて、それをランキングにしています。

これはつまりアメリカ国内のみの売り上げ枚数になります。

良くマイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』について「全世界で1000万枚の売り上げ」という風に紹介されますが、これは全世界での売り上げということです。

『Kind of Blue』は、アメリカ国内に限ってみても史上最も売り上げが多いアルバムのようで、その売り上げ枚数は400万枚(プラチナアルバム×4)とのこと。

アメリカ国内の総売り上げ枚数としては『Kind of Blue』が突出していて、100万枚(プラチナアルバム×1)を売り上げたアルバムはというと、以下が全てになります。

■プラチナディスクを獲得したジャズアルバム

ハービー・ハンコック 『Head Hunters』
ウェザー・リポート 『Heavy Weather』
ハービー・ハンコック 『Future Shock』
デイブ・ブルーベック・カルテット 『Time Out』
Various Artists 『Ken Burns Jazz』
ルイ・アームストロング 『What a Wonderful World』
マイルス・デイヴィス 『Bitches Brew』

こうやって見ると、やっぱりフュージョン期のアルバムってかなりの売り上げをあげていたのですね。

売り上げ ≠ ヒット

このデータを眺めていると、プラチナ/ゴールドディスク認定を受けた年度が書いてあることに気づくと思います。
たとえば『Kind of Blue』は、1959年にリリースされてから2008年に400万枚の売り上げを認定されるまで、49年かかっていることがわかります。

『Kind of Blue』の400万枚はすごい数字だと思いますが、これはいわゆるロングセラーであって一般的な「ヒット」とは少し違うのだと思いますね(「ロングセラーに価値がない」とか「ヒットした方が優れている」とかそういう話はしていません)

『Kind of Blue』がリリースされた時に、ジャズファン以外にも話題になり広く聴かれていたかというと、おそらくそうじゃなかったのでしょう(こちらのブログを読むと、当時は『Kind of Blue』よりも、アーマッド・ジャマルの方が良いチャートアクションを示していた、ともあります)

だとすると、「結局ヒットしたジャズアルバムって何なんだい?」という話になりますね。
ヒットの定義を、

「短期間(1~2年)の間にゴールド(50万枚)もしくはプラチナ(100万枚)ディスクを獲得したジャズアルバム」

とすると、RIAAのデータでは以下の該当するのは以下の5枚のみになります。

『Ken Burns Jazz: The Story of America’s Music』 Various (2000年)
Platinum/100万枚認定(2001年)

『Hello, Dolly!』 Louis Armstrong (1964年)
Gold/50万枚認定(1964年)

『Getz / Gilberto』 Stan Getz & João Gilberto (1964年)
Gold/50万枚認定(1965年)

『The Original Jazz Masters Series Vol.1』 Various (1993年)
Gold/50万枚認定(1994年)

『The Original Jazz Masters Series Vol.2』 Various (1993年)
Gold/50万枚認定(1994年)

けっこう意外な結果ですが、単純に数字だけで判断すると「最もヒットしたジャズアルバム」は、5枚の中で唯一100万枚を売り上げた『Ken Burns Jazz』と言えるかもしれません。
『Ken Burns Jazz』は同名のドキュメンタリーで取り上げられた音源をコンパイルしたものです。さまざまな批判のあったドキュメンタリーですけど、この数字をみてもそのインパクトの大きさがわかりますね。

ただ『Ken Burns Jazz』も『The Original Jazz Masters Series』(これ今回初めて知りましたが)もコンピレーションですし、これを「ヒット作品」としてカウントするのもなんだかな、とも思いますね。
また『Getz / Gilberto』はボサノヴァだし、「ジャズ・アルバム」と呼ぶのには少し抵抗があります。

となると、「ヒットしたジャズアルバム」と言えそうなのは、唯一ルイ・アームストロングの『Hello, Dolly!』くらいになります。

ジャズ史上最大の、そしてほぼ唯一のヒットアルバムは
 ルイ・アームストロングの『Hello, Dolly!』
に決まりました!!

とは言ってみたものの、なんだか「うーん、、」って考えこんじゃう結果ですね。

この記事のライターも

このリストを見て、【ここにくだらないポップアーティストの名前を入れてください】が、たった1枚のアルバムでこのリストのすべてを上回る売り上げを記録していることに気づくかもしれません。気持ちはわかります、私もあなたと同じように落ち込んでいます。

と書いているように、やっぱりジャズの「売れてなさ」が目立つばかりのリストになってしまっているんですよね。

「ジャズ」ではない何か

ただしこのランキングですが、この記事のライターがコメントしているように、 ケニー・G(わたしたちのケニー・G!)、ダイアナ・クラールみたいなアーティストはこのランキングに入っていません。(彼らの音楽を「cheese jazz」と表現しているのですが、初めて知りました)
これは「本物の」ジャズじゃない、というライターの人の判断ですかね。

今回、売り上げを調べるきっかけになったザ・ギター・トリオの『Friday Night In San Francisco』は入っていません(マクラフリンもディ・メオラのソロアルバムはランキングしているのに)

またノラ・ジョーンズの『Come Away with Me』も入っていないです。
(このアルバムはアメリカ国内では1000万枚以上を売り上げ、本来はこのランキングのトップにいるべきだと思うのですが)

他にも、ロバート・グラスパーの『Black Radio』も、グラミー賞の最優秀アルバム賞を受賞したハービー・ハンコックの『River: the Joni Letters』も、同じくグラミー賞を受賞したジョン・バティステの『We Are』も入っていません。

これらの作品は、それぞれがジャズではない別の何かにカテゴライズされてしまっているって事ですよね。
ザ・ギター・トリオはフラメンコに、ノラ・ジョーンズはポップスに、グラスパーはラップ/R&Bに、ハンコックもポップスに、ジョン・バティステもR&Bに、というように。

こういう例を出すと
「ジャズは常に変化する音楽だ。ジャズのマインドが息づくヒットアルバムはたくさんあり、それがジャズ以外でカウントされているだけだ」
と言いたい人もいるかもしれませんが、さすがにそれは苦しい言い訳でしょう。

残念ながら「ショップでジャズコーナーに並べたり、ストリーミングでジャズのプレイリストに曲を入れても、売り上げは上がらない」と思われているんだと思いますね。

ジャズは死んだ(のか?)

ジャズの人気の話題になると
「ジャズは売れていないジャンルである」「しかもその人気は下がり続けてきている」
というネガティブな話題は良く聞きます

またそれは、ストリーミング時代に入ってより顕著になったと言われます。
これはジャズファンが(高齢化などで)新しいテクノロジーに乗り遅れていることや、古い音源が重要視されリスナーが新しい音源を必要としていないから、とも言われていました。

「ジャズは死にかけている」と言ったのはライアン・ゴスリングですが、ただ、今回のリストに載っているアルバム売り上げの少なさを見ると「ジャズは死にかけているけど、それって昔からの話なのでは?」とさえ思えてきます。

音楽はひとつのアートなので、一般的な人気とその価値に直接の関係はないとは思いますよ。
今回は別に雑談なので、ジャズアルバムの売り上げについて何をどうしろとかいう話ではないんです。

ただ、ミュージシャンたちにとっては、そのジャンルが盛り上がって売り上げがあがる方が良いとは思うのですけどね。

追記

これまであまりアルバム売り上げって気にしたこと無かったのですが、思ったよりずっとアルバム売り上げに関する情報って少ないのですね。グラスパーやジョン・バティステのアルバム売り上げなどは、簡単にネットで調べられると思っていたのですが、けっきょく見つけることができなかったです。

CDなどのフィジカルメディアは、1999/2000年くらいをピークに右肩下がりになっていて、「〇〇万枚売り上げ」といったフレーズをマーケティングとして使わなくなった事も影響があるのかもしれません。

また、2010年代以降はストリーミングが主流になり、アルバム売り上げという数字自体が意味をなさなくなってしまったことも理由かもしれません。
一応、ストリーミング回数をアルバム売り上げに換算する、『アルバム相当単位』という数字もあるようですが、あまり使われていない気もします。この換算だとストリーミング1500回がCD1枚売り上げに相当するらしいのですが、正直「ピンと来ない」んだと思いますね。

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