Rajna Swaminathan『Apertures』

 

ラジナ・スワミナサン(Rajna Swaminathan)は南インドの両面太鼓ムリダンガム(mridangam)奏者であり、彼女が自身のグループRajasを率いてリリースしたアルバム『Apertures』の紹介

このアルバムは2019年の1stアルバム『Of Agency and Abstraction』に続く2ndアルバムになります。

彼女は2021年にハーバード大学で博士号を取り、現在はカリフォルニア大学アーバイン校で教えているそうです。

ハーバードというと同じインド系でピアニストのヴィジェイ・アイヤーが頭に浮かぶのですが、彼女はハーバードのGraduate School of Arts and Sciences (=アート&サイエンス研究科という訳?)においてアイヤーがはじめたCreative Practice in Critical Inquiry(批判的探求における創造的実践)というプログラムの生徒だったそうです。
※本作に参加しているGanavya Doraiswamyも同じプログラムで学んだ生徒だったとのこと。

このRajasですが、今回のアルバムに参加したメンバーはこちら
Rajna Swaminathan – mrudangam
Ganavya – voice
Utsav Lal – piano
Miles Okazaki – guitar
Stephan Crump – bass
Adam O’Farrill – trumpet
Anna Webber – tenor saxophone

前作からメンバーもかなり変更しており、このグループはスワミナサンとヴォーカリストのGanavya(共同プロデュースも行っている)が主要メンバーで、後のメンバーは都度オファーを出すという形を取っているのだと思います。

マイルス・オカザキ、ステファン・クランプなどの参加メンバーはアイヤー人脈ともいえますね。

こちらが今回のアルバムの曲「Precipice」のオフィシャル動画

このアルバムはChamber Music Americaなどいくつかの非営利団体の委託を受け、またハーバード大学のサポートも受けて製作されたもので、通常のマーケットベースのアルバムとは少し成り立ちが違うようですね。

こういう大学の研究が音楽の世界にどういう貢献があるのか、イマイチ良くわからないところですが、ハーバードの音楽科というと菊地成孔さんと良く共演したりしているヨスヴァニー・テリー(Yosvany Terry)さんも講師として在籍しています。

Coming to America

スワミナサンがムリダンガムを始めたのは5歳の時で最初の教師は父親だったそうです。

父親はジョンズ・ホプキンス大学の物理学者で、母親はNASAでハッブル望遠鏡の開発にも加わったコンピューター科学者だとのこと。
そんな両親ですが、音楽に強い情熱を持っていたようで、父親は早起きして職場に行く前に数時間もムリダンガムを練習しており、母親も父親の伴奏でインド古典を歌っていたとか。

スワミナサンはそんな両親から自然とムリダンガムを習っていったようです。

彼女が成長し、音楽家として実力がついてくると、両親はU.K.シヴァラマンに学ぶために夏になるとインドへ戻るようになったそうです。

シヴァラマンはおそらく最も著名なムリダンガム奏者で、インドで市民が受ける勲章で2番目に高いバドマ・ヴィブーシャン(Padma Vibhushan)を受勲しています。
もうレジェンドですね。

アメリカにいながらもスワミナサンはムリダンガムの稽古を続け、13~14歳になると地元チェンナイの音楽祭で演奏するまでになったそうです。

ちなみにスワミナサンとヴィジェイ・アイヤーは、スワミナサンが8歳のことにすでに出会っているらしく、それはアイヤーがシヴァラマンと共同研究をしていたことがきっかけだったとのこと。
ネットで検索すると、スティーブ・コールマンとアイヤー、そしてシヴァラマンでライブを行ったなんて記録もあるみたいです。
すごく聴いてみたいのですが、音源は見つかりませんした。。

Apertures

前作『Of Agency and Abstraction』もリリースされた当時に聴いたのですが、正直あんまり気に入らなかったのは覚えています。

ですが今回はまったく印象が違う、すごく良いアルバムになっていると思います。
(前作製作時はまだハーバードの博士課程取得中だったので、あまりアルバム製作準備の時間が取れなかったのかも)

今作は、プレイヤーの技量に頼る長いソロなどはなく、シンプルなフレーズをもとに各メンバーが演奏を展開していく感じでセンス頼りの演奏に聴こえますが、さすがに一流プレイヤーなので聴いてて飽きさせないし、「それぞれ勝手にやってる」感じが逆に新鮮です。

最も多くのパートを担当していたのはヴォーカルのGanavyaですけど、その他ではトランペットのアダム・オファリルが一番目立っていたかも。

それにしても、アルバムを聴いてもインド古典っぽさは(ムリダンガムの音色以外は)ほとんど感じられませんでしたね。

そもそもこういうアルバムってエンタメ目的というよりも、日ごろの研究やコンセプトの実践という意味合いが強いと思うのですが、それがどういう内容なのかはアルバムを聴いた限りでは良くわからない感じでしたね
(単に自分が音楽素人だからなのですが)

余談

彼女の名前Rajna Swaminathanのカタカナ表記が、ラジナ・スワミナサンで良いのかはちょっと自信ないかな。

音声で確認しようとしてライブ動画などで名前を発音しているパートを探したのですが、見つけられませんでした。
英語読みだとレイナ・スワミネイサンとかになるのかもしれない。

間違ってたらすみません。

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