Jamila Woods『Water Made Us』

それにしても、イスラエルとパレスチナの衝突やBandcampの大量解雇など、暗いニュースが多いですね。

気分が沈んだ時にはあまり音楽は聴けないもの。
音楽は突きつけるところはエンタメなので、音楽を楽しめるというのは世の中の暗い部分を見なくて済む時に限られるんだと感じます。

音楽は、世の中に広がる不幸や不正義に対してあまりにも無力です

わたしは、イスラエルの音楽とアラブ音楽のどちらにも興味はありますが、そんなことはなんの慰めにもなりません。

(ここまでの部分は後になって消そうかなと思います)

さて今回は、シカゴ出身のシンガーソングライターで詩人のJamila Woodsの3枚目のアルバム『Water Made Us』
2019年にリリースされた前作『Legacy! Legacy!』は、SNSでも話題になっていたと思います。

どうも彼女のプロフィールを見ると、詩集を発表し、出版物の編集に関わったり、詩人というか文学をメインフィールドとしているようなアーティストのようです。

今作のタイトル『Water Made Us』も、彼女に文学的な影響を与えたトニ・モリソン(ノーベル賞を受賞したアメリカの黒人女性作家)が講演で語った有名な一説をもとにしたフレーズのようです。

ミシシッピ川は、場所によっては直線的になっている。時折、川は氾濫を起こす。「洪水」という言葉は実際は洪水ではない。かつてあった場所を記憶しているのだ。すべての水は完璧な記憶を持っており、永遠に元の場所に戻ろうとする(All water has a perfect memory and is forever trying to get back to where it was)。作家もそれと同じで、自分がいた場所、走り抜けた谷、土手の様子、そこにあった光、元の場所に戻るルートを覚えている。それは感情的な記憶であり、神経や皮膚が記憶しているものであると同時に、それがどのように現れていたかを記憶しているのである。そして想像力の奔流が、私たちの “洪水 “である。

トニ・モリスンの作品は寓話的でもあるし、自身の感情やイメージと超自然的な出来事が調和しているところ
Jamila Woodsの歌詞もそういう影響を受けているのかもしれません(ただJamilaの歌詞の方が少しパーソナルな雰囲気かも)

今作の『Water Made Us』はこれは前作の雰囲気を踏襲して、エレクトリック・ピアノやコーラスなど、ソフトで耳ざわりの良い音を配置した、リラックスできる音楽になっています。
リバーブ感とドラム音の抜けが心地よいです

パワフルなヴォーカルも尖ったアレンジもないのですが、いわゆる余分な音をどんどんそぎ落としていくいわゆる「引き算」的な音作りが行われた、なかなか良作だと思いますね。

インパクト重視のサブスク時代には逆行する音作りかもしれませんが、本人は音楽が本業とは思っていないせいか、変な気負いがないのが良い結果を生んでいるような気もします。

それはそうと、今作は珍しいことに全ての曲に対してMVが作られているんですよね。

中にはただ部屋の様子を写しただけのシンプルな作りの映像もありますが、ただ、多くの映像にはハンドライティングによる歌詞の一節が映し出され、詩へのこだわりが感じられます。

ソフトでおしゃれなソウル・R&Bについて、良く「休日の午後に部屋で聴きたいような」といった(チープな)紹介のされ方ををすることがありますが、MVを観るとJamilaが部屋のベッドでたたずんでいたりして、まさに「休日の午後に聴いてね」と言わんばかりなんですよねえ。

かと思えば、(ジャネール・モネイほどビッチな感じじゃないですが)半裸の男女が絡み合う映像が出てきたりして、なんだか不思議なイメージ戦略ですね。