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アラブ音楽とジャズ「もう橋をかける必要はない」

イラク系アメリカ人であるトランペッター/サントゥール奏者のエミール・エル・サファー(Amir El Saffar)
彼が設立したラージ・アンサンブルであるRivers of Soundのセカンドアルバム『The Other Shore』がリリースされました。

エル・サファーは学生時代からクラシックとジャズを学び、ミュージシャンとなった後に自身のルーツを求めてイラクや中東のマカーム(旋法)への探究をはじめ、これまでに多くのアラブ音楽と西洋音楽を融合を目指した作品を発表してきています。

以前にはウードなどのアラブ楽器にベーシストとドラマーを加えたセプテットTwo Rivers Ensembleを結成していたのですが、今回のRivers of SoundはこのTwo Rivers Ensembleを17人に拡張したオーケストラとも言えます。

参加したミュージシャンはTwo Rivers Ensembleのメンバーに加え、エル・サファーがかつて結成していたアラブ伝統音楽Salaamのメンバー(彼女の妹Devaを含む)や、ピアノ(ジョン・エスクリート)やギター(マイルス・オカザキ)といったジャズミュージシャンたち、南インドのムリダンガム奏者Rajna Swaminathanといった風に、エル・サファーがこれまでの長いキャリアを通じて共演してきたミュージシャンを全て集めたオールスターオーケストラといった趣ですね。

もはや「橋をかける」必要はない

エル・サファー本人のコメントによると、このRivers of Soundオーケストラは 音楽的、文化的、社会的な実験を大きな目的として結成したということです。

西欧音楽に見られるヒエラルキー的な概念(作曲家>指揮者>演奏者)や、コードやスケールといった過去の慣習に頼ることなしに演奏することを目指したそう。
曲はアンサンブル全体の譜面のみを渡して、あとは個々のメンバーが自由に音を加えていくというアプローチを取っています。

ミュージシャンそれぞれが自分の属するカルチャーを1度リセットし、個人としてアンサンブルの一体感やミュージシャン相互のつながりを意識して演奏することができれば、もはや異なる音楽的なカルチャー同士に「橋をかける」必要など全くない、というわけです。

これまでの音楽的な遺産をリセットするため、ピアノ、ビブラフォン、ギターは微分音でチューニングし直され、またホーン奏者はこれまでにない微分音の指使いを習得することになったそうです。そのためフレージングやフィンガリングなどすでに知っている過去のテクニックに頼ることはできず、新しい演奏方法の模索と、またその音を聞き分ける耳が求められたそう。

またリズム的には直感的なスウィングビートを廃し、柔軟性のあるパルスを多用したそうです。
「アップ」ビートと「ダウン」ビートがありアクセントが強調される2連符ではなく、万華鏡のようなリズム構造が可能な3連符を選び、複数の拍子とスピードを組み合わせることでリズムは分散され、プレイヤーとリスナーのリズムサイクルの始まりと終わりの感覚を混乱させることを狙ったそう。
変拍子の使用とはちょっと違うみたいですね。変拍子は構造は複雑ですが、そのサイクルの中でアクセントは明確ですので。

いや、それにしてもなかなかチェレンジングなオーケストラですよね。

コンセプトとしては「既存の音楽的なルールからの解放」ということだと思いますが、フリージャズ的な「全てをぶっ壊す」ような感じではなく、「アウトする」ための新しい方法論をオーケストラ全体で模索して作り上げていくことが目的のようです。

ピアノやギターを微分音をチューニングするというのは、エル・サファーの盟友でもあるハーフェズ・モディルザデも、今年リリースしたアルバム『Facets』で試みていました。
『Facets』ではレコーディング当日にいきなり微分音ピアノを弾かせたそうですが。

Rivers of Soundオーケストラではそこまで極悪ではなくて事前に準備期間はあるようですけど、そういった慣れないシチュエーションを克服する「過程」にこそ音楽的なハプニングや閃きがあると考えているのかも。
慣れ親しんだ条件での演奏は、それがひとつのスタイルとして固定されてしまうということなんでしょうね。
熟練したミュージシャンが生み出す神業のようなフレーズ聴くような音楽を目指しているわけではないということですね(まあジャズ自体がすでにそういう音楽ではないのですが)

実際にアルバムを聴いてみると、かなり「あいまいさ」が際立つ演奏になっていますね。

全体として穏やかなアンサンブルなようで、よくよく聴くと各々のミュージシャンが思いおもいのフレーズを演奏している点もあまり聴いたことのないバランス感覚。

コード感などは皆無で、パッと聴くと(モード演奏のように)どこにも解決せずにとどまっているような雰囲気。
でもよくよく聴くと(アハ体験みたいに)気づかないほど緩やかに曲の中で「静から動」「緩から急」という風に展開していき、独特の浮遊感のあってすごく新鮮な演奏ですね。

 

Rivers of Sound orchestra Personnel

Amir ElSaffar, trumpet, santur, vocal
Jason Adasiewicz vibraphone(アミールの高校・大学からのバンド仲間)
Tareq Abboushi, buzuq(元Two Rivers Ensembleメンバー)
Naseem Alatrash, cello(マンハッタンの文化センター「Alwan for the Arts」で共演歴あり)
Fabrizio Cassol, alto saxophone(ファブリツィオ・カッソルのバンド「Alef-Ba」で共演歴あり)
Carlo De Rosa, acoustic bass(元Two Rivers Ensembleメンバー)
Dena El Saffar, violin/joza(アミールの妹)
John Escreet, piano(前作のクレイグ・テイボーンから交代)
Ole Mathisen, tenor saxophone, soprano saxophone(元Two Rivers Ensembleメンバー)
Tim Moore, dumbek, naqqarat, frame drums (妹Denaの夫/アミールの義理の弟)
Miles Okazaki, guitar(Rajna Swaminathanつながりで誘われたそうです)
JD Parran, bass saxophone, clarinet(セシル・テイラーのオーケストラ Humaneで共演歴あり)
Mohamed Saleh, oboe, English horn(ダニエル・バレンボイム指揮のオーケストラで共演歴あり)
Rajna Swaminathan, mridangam(共演多数)
Zafer Tawil, oud, nay(元Two Rivers Ensembleメンバー)
Nasheet Waits, drums(元Two Rivers Ensembleメンバー)
George Ziadeh, oud(マンハッタンの文化センター「Alwan for the Arts」で共演歴あり)

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