プシュニグ × レッド・サンの衝撃、再び

ヨーロッパを中心に活躍するウォルフガング・プシュニグは、フリージャズ・コミュニティでの活動とともに多くのワールド系ミュージシャンとの共演でも知られるサックス奏者。

そんな彼の活動の中で、韓国のパーカッションアンサンブルであるサムルノリ、ベーシストのジャマラディーン・タクマ、ヴォーカリストのリンダ・シャーロック(彼女はプシュニグのパートナーでもある)たちと1990年代に結成したレッド・サン(Red Sun)は、個人的には「伝説の」という形容をしたくなるほど重要なグループだったと思っています。

サムルノリとレッド・サンについては。このブログでも過去に取り上げていますね(こちら

もともとレッド・サンのメンバーはそれぞれが自身の演奏活動していたため基本的にはパートタイムのグループだったのですが、それでも1990年代から継続的に演奏活動は続いていたようです。

ライブ動画などもけっこうアップされていて、レッド・サンのアルバム『Nanjang. a New Horizon』(←素晴らしいアルバムです)にゲスト出演していたパンソリの安淑善(アン・スクソン)との共演動画などは、けっこうレアなのだと思います。

そんなウォルフガング・プシュニグとレッド・サンですが、2022年5月にライブアルバム『Korean Spirits』をリリースしたようです。

プシュニグは、2015~2016年にかけて4夜にわたって、自らの60歳の誕生日を祝うコンサートをウィーンで行い、それを今回4枚組のアルバム『WORLD EMBRACE』としてリリースたのですが、『Korean Spirits』はそのうちの1枚にあたります。

このコンサートからすでに5年以上経っているのですが、どうして今になってリリースされたのか謎ですね。
当時のコンサート情報はこちら

また、アルバムリリースに合わせてダイジェスト版の動画も公開されていました。

サムルノリのライブはビジュアル的に観ていて楽しいですしね。長い紐(ヨルトゥバルというらしい)をダイナミックに回転させるパフォーマンスをこのライブでも観ることができます。

この60歳記念コンサートの時点でのレッド・サンのメンバーはというと、プシュニグ、タクマ、そしてサムルノリのリーダーであるキム・ドクスさんの3人。

オリジナルメンバーのリンダ・シャーロックは不参加(彼女は今では復帰しているようですが、2009年に脳卒中により半身不随となったそうです)
またサムルノリのメンバーも、キム・ドクスさん以外のオリジナルメンバーはおらず、ドクスさんより二世代くらい若いミュージシャンに代替わりしています。

このコンサートでは、レッド・サンのオリジナルメンバーが一部抜ける代わりに、プシュニグもメンバーの一員であるSaxofourという(ワールド・サキソフォン・カルテットのような)サックス4人組と、Karen Asatrianというクラシック系のアルメニア人ピアニストが参加しているようです。

レッド・サンにピアノが加わる編成というのは、ライブなどでは珍しくなかった気がします(むかしジョージ・コリガンがピアノを弾いていた動画を観たような)

一般的に、かつて活躍したグループのリユニオンライブは、観客のほうも「彼ら(彼女ら)もまだ元気にやってるんだ」と確認して、ほっこりして帰宅する、いわば同窓会的なイベントなのかもしれません。(別の言い方をするなら「Facebook的」と言えるかも)

そういったライブだと、観客もアーティストに「今まで聴いたことないような新機軸」の演奏は求めていないでしょう。

日本にもここ最近でスティーリー・ダンとかキング・クリムゾンが来日していましたが、おそらくそういう雰囲気だったのじゃないでしょうか。

今回のコンサートもそういった位置づけと言えるライブで、終始お祝いムードでリラックスした雰囲気なのですが、その反面なかなかにシャープでキレのある演奏となっていました。

まずSaxofourのメンバーが加わりサックスが4人になることで、分厚いアンサンブルになり、演奏に和声的な展開が加わって、今までのレッド・サンにはない新たな魅力を聴くことができます。

またレッド・サンの演奏は、合間に挟み込まれるいわゆるパンソリっぽい歌が聴きどころだった訳ですが、このヴォーカルパートのウェイトもかなり増えていましたね。

オリジナルのレッド・サンでは、ヴォーカルはサムルノリのイ・グァンスが担当していたのですが、今回は若手のヴォーカリストが起用されていました。すっきりスマートでワイルドさは無いのですが、テクニカルでレッド・サンの雰囲気にマッチしていましたね。

このライブアルバムは、レッド・サンの新たな演奏が聴けるというだけで価値のあるアルバムと思うのですが、レッド・サンの最もカッコ良い部分をギュッと凝縮したようなライブ演奏で、ファンにとっては必聴です。

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