ティム・バーンによるオーネット曲集『Broken Shadows』

Broken Shadowsは、サックス奏者であるティム・バーンが中心となって結成されたグループで、今回セルフタイトルアルバム『Broken Shadows』をリリースしました。
彼らは、ブルックリンのKorzo Restaurantでの演奏を録音したライブアルバムを『Broken Shadows Live』というタイトルで2019年にリリースしていて、今回リリースされたのはそのスタジオ録音盤です。

メンバーはティム・バーンに、Pachoraなどでクラリネット奏者の印象が強いのですけど最近はサックスでの演奏も多いクリス・スピード、バッド・プラスのリズムセクションコンビであるリード・アンダーソンデイヴ・キング

2019年のライブアルバムリリース時のオフィシャル映像もあります。曲はジュリアス・ヘンフィルの『Dogon.A.D』

テキサス、フォートワース

このアルバムはカヴァーアルバムで、基本的にはオーネット・コールマンの曲を演奏しています。
『Broken Shadows』というグループ名/アルバムタイトルは、オーネットの曲名から取られており、基本的にはこのグループはオーネットの曲をカヴァーするために作られたプロジェクトということのようですね。
カヴァーされる曲は、オーネットのアルバムの中でも『New York is Now』から『Science Fiction』という60年代後半から70年代前半の曲を中心に取り上げられています。トラックリストとオリジナル収録アルバム情報はブログ最後に掲載。

オーネット以外の曲がほとんどですが、数曲ジュリアス・ヘンフィル、デューイ・レッドマン、チャーリー・ヘイデンの曲が演奏されています。
オーネットとレッドマンが同じテキサス州フォートワースの高校出身でスクール・バンドで一緒に演奏していたというのは有名な話かもしれないですが、実は年代は少し下ですがジュリアス・ヘンフィルも同じフォートワース出身だとか。

ティム・バーンとオーネットと言えば、ジョン・ゾーンの『Spy vs. Spy: The Music of Ornette Coleman』がすぐに頭に浮かぶと思いますが、今回の『Broken Shadows』は『Spy vs. Spy』とでは同じオーネット曲のカヴァーアルバムでもずいぶんテイストは違っていますね。

簡単にいうと、オーネットのアルバムの即興的な面や従来のビバップの枠を広げた激しい革新性みたいな面を取り上げたのが『Spy vs. Spy』で、それに対してオーネット独特のメロディアスで明るい曲にフォーカスしたのが『Broken Shadows』なのだと。

ここで選ばれた曲を聴いていると「こういう切り取り方もあるのかー!」と新しい発見がありますね。そういうのがカヴァーアルバムの良いところ。

余談1

このアルバムはブランフォード・マルサリスがライナーを書いています。
フィジカルで購入していないのでこのライナーは読めないのですが、以前に彼がオーネットについて語った内容がwebに載っていました。

彼は非常に型破りな方法でサックスを演奏していました。彼はバードやフィル・ウッズ、ソニー・スティットのような垂直的な(コードに基づいた)奏法ができなかったので、必要に迫られて言語のサブセットを開発したのです。
彼は、4小節や8小節のフレーズを避けながら、ビバップ、つまりスイングベースの音楽を演奏しました。ほとんどのミュージシャンにはそれができず、今日では4小節や8小節のフレーズ演奏が氾濫しています。
つまり彼はパターンもスケールも使わず、ブルースとメロディーだけで演奏していたのです。従来のコード理論とおりの場所で解決しなかったので過激で狂ったように聞こえましたが、実際には信じられないほど論理的だったのだ。それは他の誰にもできなかったことですし、衝撃的なほど見事な方法だったのです。

ブランフォードが言うように、オーネットの独特なメロディラインにブルースフィーリングを感じるということなのですかね。

オーネットの曲というと、特にプライム・タイムを結成してからはカリブっぽかったりアフリカっぽかったり、シンプルで「強い」メロディーのイメージが個人的には強いのですけど。
オーネットにあまりブルースのイメージは無かったので、意外な気もします。
そう言われてからアルバムを聴き返すと、そういう気もしないでもないですね。

余談2

たまたまプエルトリコ出身のサックス奏者ミゲル・ゼノンも今年オーネット・コールマンのカヴァーアルバム『Law Years:The Music of Ornette Coleman』をリリースしています。この『Law Years』と『Broken Shadows』の2枚は「Street Woman」「Toy Dance」「Broken Shadows」といった同じ曲を取り上げているので聴き比べてみると面白いかも。

また、『Broken Shadows』と『Law Years』、この2枚のアルバムはどちらも『Science Fiction』から複数の曲をカヴァーしているのですが、このアルバムはオーネットのアルバムではマイナーな感じなのでちょっと意外でしたね。
改めて『Science Fiction』を聴き返したくなったかも。

Broken Shadows

Chris Speed (Tenor Sax)
Dave King(drums)
Reid Anderson(bass)
Tim Berne(Alto Sax)

Tracklist

1. Street Woman (Ornette Coleman『Science Fiction』収録)
2. Body (Julius Hemphill『Flat-out Jump Suite』収録)
3. Toy Dance (Ornette Coleman『New York is Now』収録)
4. Ecars (Ornette Coleman『Ornette on Tenor』収録)
5. Civilization Day (Ornette Coleman『Science Fiction』収録)
6. Comme il Faut (Ornette Coleman『Crisis』収録)
7. Dogon A.D. (Julius Hemphill『Dogon A.D. 』収録)
8. C.O.D. (Ornette Coleman『Ornette at 12』収録)
9. Una Muy Bonita (Ornette Coleman『Change of the Century』収録)
10. Song for Ché (Charlie Haden『Liberation Music Orchestra』収録)
11. Walls-Bridges (Dewey Redman『Walls-Bridges』収録)
12. Broken Shadows (Ornette Coleman『Broken Shadows』収録)

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