スティーブ・レーマン&ONJ『Ex Machina』

サックス奏者のスティーブ・レーマンの新作『Ex Machina』

これはもう聴いた瞬間に「ああもうこれは圧倒的な作品だな」と思い知らされた作品
(みんな大好き)ジャズアルバムレビューサイトJazzTrailでも5点満点★★★★★の評価を受けていました

今回の作品は、The Orchestre National de Jazz(ONJ)と、IRCAMとのコラボレーションから生まれた作品。

オクテットによる『Travail, Transformation, and Flow』(名作)に代表されるようなレーマンのこれまでの作品から、ラージ・アンサンブルというフォーマットをさらに拡張させようとする、意欲的な作品と言えるかもしれません。

芸術監督であるフレデリック・モーランが指揮をし、IRCAMで開発されたプログラムによって演奏がリアルタイムに補強され、変化していくそうです。

『Ex Machina』における演奏とコンピュータープログラムの関係というのは、映像からは良くわからない感じですね。
基本はプレイヤーは楽譜を見ながら演奏しているようだし。

『Ex Machina』のTeaser映像というものがあって、それ見るとMaxプログラムが映るのですがこのパッチがどう演奏に反映させられているのか謎ですね。

ircamのジェローム・ニカ(Jérôme Nika)という人が開発したDYCI2というプロジェクトにも関係あると書かれていますね。

ちょっと内容については良くわからない感じですね。『Ex Machina』もこのプロジェクトの一環として作られた、ということなのか。
コンセプトとしてはいろいろ書いてあるのですが、作曲と即興をシームレスにつなぐみたいな記載もありました。

こちらは『Ex Machina』のオフィシャルライブ動画

『Ex Machina』のようなかなり特殊なコンセプトの演奏だと、映像動画があると雰囲気がわかってうれしいですね。
これを見ていて注目だったのは、レーマンが足で取ってるリズム。

「この曲でそういうカウントとるの?なにそれ??」ってずっと気になっていましたね。

レーマンといえばスペクトラル理論といったワードが良くでるのですが、今作でもそのコンセプトは引き継がれているようです。
この理論については、レーマンが参加したSélébéyoneの『Xaybu』の投稿でも少しコメント書いたので割愛

最初に『Ex Machina』を聴いた時に思い出したのは、ハワード・ショア作曲でオーネット・コールマンをサックスに迎えて作られた『裸のランチ』のサントラかな。

『裸のランチ』と同じく、『Ex Machina』もラージ・アンサンブル作品としては異例なほどソロパートに重点が置かれているようですね。(こんなにバリバリ吹くレーマンはいつ以来だろう、と思うくらい)

このアルバムに参加しているのはほとんどがONJのメンバーなのですが、Jonazzthan Finlayson (trumpet) とChris Dingman (vibraphone)についてはあえて古くからのバンドメイトを連れてきたようです。
特にフィンレイソンに関しては、レーマンと同じくかなりのソロパートが割かれています。

レーマン自身やフィンレイソンのソロを組み込むことも、ラージ・アンサンブル作品の殻を破るひとつの方法論なのかも。

サッカーなどのチームスポーツでいう、組織力に個人技を組み合わせる、みたいな話ですかね(違うか)

とにかく全編にわたって緻密に構成された演奏で、スキがないアルバム。

なんだろう、この聴いていてゾワゾワする感じ。

アルバムを聴いていて目立っているのはドラマーの存在かな、とも思います。
Rafaël KoernerというたぶんONJのドラマーの人だと思うのですが、細かく手数の多いドラムをビシッと決めていてなかなかのテクニシャンだと思いますね。

かなりリズム的に複雑な曲だと思うのですが、プログラムでカウントを取るなどコンピューターを一部利用して叩いているのかもしれません。

【Lineup】
Steve Lehman – alto saxophone, electronics
Jonathan Finlayson – trumpet
Chris Dingman – vibraphone

Members of Orchestre National de Jazz
Frédéric Maurin – direction, electronics
Fanny Ménégoz – flute, alto flute, piccolo
Catherine Delaunay – clarinet, basset horn
Julien Soro – tenor saxophone, clarinet
Fabien Debellefontaine – baritone saxophone, clarinet, flute
Fabien Norbert – trumpet, flugelhorn
Daniel Zimmermann – trombone
Christiane Bopp – trombone
Fanny Meteier – tuba
Bruno Ruder – piano, synthesizer
Stéphan Caracci – vibraphone, marimba, glockenspiel, percussion, synthesizer
Rafaël Koerner – drums
Sarah Murcia – double bass
Jérôme Nika – generative electronics creation & artistic collaboration
Dionysios Papanikolaou – IRCAM electronics