ルドレシュ・マハンサッパ「ヒーローはつらいよ」

2020年にこのアルバムのリリース情報を読んでからずっと待っていた作品。

ジャズ・サックスプレイヤーのルドレシュ・マハンサッパ(Rudresh Mahanthappa)の2020年新作『Hero Trio』は、ピアノレスのサックストリオによる全曲カヴァーアルバム。

このブログでは、マハンサッパのアルバムはこれからも基本すべて紹介しますからね!

アルバムジャケットにある、カートゥーン風のヒーローコスプレのインパクトといったら最高じゃないですか?別に皮肉めいた意図はないみたいですよ、本当に最高だと思います。

ちなみにアルバムタイトルである『Hero Trio』のヒーローというのは過去の偉大なミュージシャンたちのことで、「オレたちも次世代のミュージシャンのためのヒーローになるぞ!」という心意気から付けられたタイトルのようです。

Rudresh Mahanthappa 『Hero Trio』

1.Red Cross 06:29
2.Overjoyed
3.Barbados-26/2
4.I Can’t Get Started
5.The Windup
6.Ring Of Fire
7.I’ll Remember April
8.Sadness
9.Dewey Square

Personnel
Rudresh Mahanthappa (alto saxophone)
François Moutin (acoustic bass)
Rudy Royston (drums)

共演者である、ムティンとロイストンの2人はマハンサッパの『Bird Calls』(2015年)と同じ組み合わせ。
ちなみに『Bird Calls』はチャーリー・パーカーにインスパイアされて作ったアルバムのようで、マハンサッパのアルバムの中でも最も好きなアルバムです。パーカーの愛称”バード”にかけたタイトルですね。

この『Hero Trio』でも、アルバムのオープニングチューン”Red Cross”や”Barbados”、”Dewey Square “など、複数のパーカーの曲を取り上げています。
マハンサッパの中ではチャーリー・パーカーの影響というのはひときわ大きいのだなと思わせます。

『Bird Calls』では、あえて自作曲でパーカーへのオマージュを捧げたのですが、『Birds Calls』を経て「やっぱりパーカーの曲を演奏したいよね」という気分になったのかも。

パーカーの他にも、”I’ll Remember April “ ”I Can’t Get Started “といった定番のジャズスタンダード曲から、キース・ジャレッドの”The Windup” オーネット・コールマン”Sadness”といったポスト・バップの曲、さらにはスティーヴィー・ワンダーの”Overjoyed”、ジョニー・キャッシュ”Ring of Fire “といったジャズ外の曲も取り上げています。

スティーヴィー・ワンダーやジョニー・キャッシュなどは、マハンサッパが子どもの頃から聴いていたミュージシャンということで選ばれているようですね。この辺はわりと「好きだから」というイージーな理由で選曲してそう。
アルバムを通して聴くと、オープニングの”Red Cross”で聴けるような、ビバップ的なライブ感・ドライブ感がアルバム全体に満ちています。

みんなに聴かれている曲をカヴァーするというスタイルは、ミュージシャンにとってみればオリジナルのイメージが演奏上の”制約”となるのでしょうし、やりづらいものかもしれません。事実、自作曲の無いジャズアルバムなんて最近ではほぼ聴いたことないですし。

でもこの『Hero Trio』みたいに、そんな細かいこと気にせずにプレイヤーが楽しんで演奏しているアルバムは、こっちも聴いていてハッピーになれますね。

おまけ

『Hero Trio』がアルバムの準備のためのセッション中に、火災報知器が鳴ったのだけど、気にせずにアラームに合わせて演奏してる!というSNSの動画
(「後でこのアラームは本物で訓練じゃないってわかったんだ、、」とのこと)