災厄の町ペンシルヴァニア

ベーシストであり作曲家でもあるモッパ・エリオット(Moppa Elliott)を中心に結成されたMostly Other People Do the Killing、略してMOPDtK
今回は彼らの新作『Disasters Vol. 1』の紹介

MOPDtKのアルバムは『Loafer’s Hollow』(2017)以来、ほぼ5年ぶりのリリース。
MOPDtKは「新作が出たら絶対にブログに書く」と決めていたくらい好きなグループなのですけど、最近はほとんど彼らの話題を聞くことがなく、取り上げる機会も無かったのですが。

これまでMOPDtKは毎年のようにアルバムをリリースしていたので、5年も間隔が空いたところをみるとグループ活動じたいを止めてしまったのかとも思っていたのですけどね。
それだけにこの新作リリースのニュースはちょっとした驚きです(実際はどうもコロナ禍による活動の停滞だったようです)

今回の『Disasters Vol. 1』ですが、参加メンバーはこちら。これまでのアルバムとはかなり違ってますね。

Ron Stabinsky – piano and Nord electronics
Moppa Elliott – bass
Kevin Shea – drums and Nord electronics

今回は編成でいうとなんとピアノトリオですよ。
MOPDtKといえばジョン・イラバゴン(sax)とピーター・エヴァンス(trumpet)の2管フロントというイメージだったのですが、今回その2人は参加せず。

モッパ・エリオットとドラマーのケビン・シェイはオリジナルメンバーでおなじみですが、ロン・スタビンスキー(Ron Stabinsky)は最近MOPDtKに参加するようになったピアニストですね。

もともとピーター・エヴァンスが自身のグループにいたスタビンスキーをMOPDtKに連れてきた形で、サブメンバー的な立ち位置のイメージだったと思うのですけど、今回のアルバムではついにメインメンバーに昇格という感じ。
スタビンスキーは、全然ジャズじゃないミート・パペッツに参加したりとなかなか面白いキャリアの人です。

このピアノトリオ編成が今後も続くのかはよくわからないですけど。正直、イラバゴンとエヴァンスには戻ってきてほしい気はしますね。

災厄の町

アルバムタイトルは『Disasters(=災害)』

このタイトルは、スリーマイル島の原発事故など、モッパ・エリオットの故郷であるペンシルヴァニアで過去に起こった災害事故をモチーフとして作られたようです。
ちなみにアルバムジャケットの写真はセントラリアという町で1981年に起こった鉱山火災によってできた穴の写真で、この火災は一部では今でも燃え続けているらしいです。
この出来事をもとにした曲がアルバムに収録されている「Centralia」という曲ですね。

ただ、そういったテーマを持ったアルバムですけど、聴いてみるとそこまで重苦しい印象ではないのですけどね。

もともとMOPDtKの特徴といえば、そのアルバムジャケットから分かるように「パロディ」

ビバップやフリージャズなどの過去のさまざまな演奏スタイルを巧みに引用しつつ、伝統的な演奏と現代的な演奏を1曲の中でうまくブレンドするバランス感覚が持ち味だったと思います。

今回のアルバムでは、スタビンスキーが弾く耳ざわりの良いいわゆる典型的なビバップやブルースと、ケヴィン・シェイが叩くかなりアウトで破壊的なドラムの対比がこのアルバムの聞きどころ。
この伝統と革新、静と動、みたいな「わかりやすい」対比構造になっています。

これまでのMOPDtKのパロディというかジャンルの引用はもっと巧みで、今回みたいなわかりやすい演奏というのは無かったと思うのですけどね。
今回のアルバムはわかりやすい分、押しが強くてアピール度の強い演奏になっている気はします。

またアルバム全編にNordシンセが使われていて、これもMOPDtKとしては新しい試みじゃないかな。
シンセ音による不協和音が不穏でカオスな雰囲気を加えていて、すごく効果的に使われています。

おそらく今回のアルバムはMOPDtKの活動からすればスピンオフ的な位置付けだと思いますけど、本家MOPDtKとは違う魅力のあるアルバムになっていると思いますね。

とにかくケヴィン・シェイのドラムがアグレッシブで、ひとことで言うとこのアルバムは彼のドラムを聴くアルバムなのかも。