Love in Exileは、ジャズ・ピアニストのヴィジェイ・アイヤー、パキスタン出身でニューヨーク在住のシンガー・作曲家のアルージ・アフタブ、ジャズ・ロック系のベーシストであるシャザード・イズマイリーの3人によって結成されたユニットで、今回はこのグループによるセルフタイトル・1stアルバムの紹介。
このアルバムに参加しているヴォーカリストのアルージ・アフタブについては、2021年のアルバム『Vulture Prince』がについてこのブログでも取り上げました。
『Vulture Prince』のリリース後、アルバム収録曲の「Mohabbat」がバラク・オバマ元大統領の夏のプレイリストに取り上げられたことがきっかけで大きな注目を浴びることとなります。これがきっかけで「人生が変わった」と言っても良いんじゃないでしょうか。
その後、グラミー賞で新人賞のノミネートとベスト・グローバル・ミュージック・パフォーマンス賞を受賞するなど、アルバムリリース当時は考えられないほどの成功を収めることになり、その後、注目の人気アーティストとして、自身のグループで世界中をツアーでまわることになります。
こちらはTiny desk concertの動画ですが、ワールドツアーのメンバーもこれに近いかも。
目を引くところでは、Tzadikレーベルのアルバム参加でもおなじみの(テリー・ライリーの息子さんでもある)ギャン・ライリーが参加していることですね。
ギャンは基本的にはクラシック・現代音楽のギタリストなのですが、過去にもチェコの音楽家・歌手であるイヴァ・ビットーヴァとアルバムを制作したり、割とグローバル・ミュージックっぽい仕事も多いミュージシャンです。
そんな中にあって今回リリースされたLove in Exileのアルバムは、2021年の時点ではすでにリリース予定があったそうですが、おそらくアフタブの仕事が急激に増えたためにいったん保留になっていたんじゃないかと思いますね。
亡国の愛 Love in Exile
今回のアルバムは3人による1stアルバムですが、すでに数年前から数多くのライブを行っておりYouTubeなどで見ることもできるのですが、おおよそライブの演奏に近い印象のアルバムに仕上がっていますね。
3人がそれぞれ演奏する音楽は、ジャズ、民族音楽、ロック、電子音楽と多岐にわたるのですが、このLove in Exileがそれらをミックスしたような、他では聴けないような斬新なアルバムかというとそんなことはなく、大雑把にいうならば「ボリウッドのサントラ風で、スローテンポでエモーショナルな曲」という感じ。
穏やかで、まだ事件が起こる前の平穏な日常風景の場面で流れる音楽と表現しても良いかも。
インド古典に例えるなら、アーラーブ(演奏序盤のスローパート)がずっと最後まで続く、という感じでしょうか。
良くよく聴くとアルバムが進むにかけて徐々にエモーショナルに盛り上がっていくのですが、アルバム全体としては割とスローな曲調が続いていて、基本的にはインプロ主体の演奏のためコード進行など曲が「進んでいる」感じはあまりなく、聴く人にとっては辛いかもしれません。
ただこういった曲調が多いのも「アフタブの歌を一番魅力的に聴かせるアレンジ」ということなのかもしれません。
以前のブログでも書きましたが、アフタブはそもそもがヴォーカリストじゃないので、さまざまなタイプの曲を歌いこなすといったテクニックは持っていないので
(『Vulture Prince』を取り上げたブログでも書いたように別にディスっている訳じゃなく、テクニックとは別の、彼女にしか歌えない歌だってあるということです)
アイヤーの伴奏は電子ピアノを多用していて、またイズマイリーもシンセを使うなどアンビエント的な展開も聴けるのですが、どちらも普段のジャズ演奏のような複雑な伴奏ではなく、あくまでアフタブの儚い歌を美しく輝かせるためのアクセントとしてうまく機能していますね。
余談
今回のアルバムのプロモーションインタビューの中で、ヴィジェイ・アイヤーは自身が影響を受けたミュージシャンとしてア・トライブ・コールド・クエストとプリンスを挙げていましたね。
プリンスについてはこれまでも頻繁に言及していたのですが、ア・トライブ・コールド・クエストは初耳で意外でしたね。
それにしてもアイヤーは、(スティーブ・コールマンなど一部を除いて)ジャズミュージシャンからの影響をあまり口にしない印象ですね。