ラミア・ヤレド『Ottoman Splendours』レビュー

レバノン出身、現在はカナダで活動するヴォーカリスト/ウード奏者ラミア・ヤレド(Lamia Yared)のセカンドアルバム『Ottoman Splendours』

彼女の1stアルバム『Chants des Trois Cours』も素晴らしい作品で、こちらについても以前ブログに書きました。(こちら

今回の『Ottoman Splendours』はTransglobal World Music Chartで初登場4位というチャートアクションを見せていましたね。
なかなか好調なスタートで、これも前作『Chants des Trois Cours』が好評だったからだと思いますね。

ちなみに同じチャートで初登場1位となったのは、こちらもブログで取り上げたシマロン(Cimarrón)の『La Recia』でした(こちら

このTransglobal World Music Chartはジャーナリストやライターの人のランキングを集計したものなので、たとえばアフリカ音楽が相対的に評価が高かったり特定のレーベルの評価が高かったり、投票する人の好みが色濃く出ているようにも思います。

ですが、新作チェックなどには重宝しているのですよねー。

Ensemble Oraciones

以前のブログでも書いたように、ラミア・ヤレドさんはCentre Des Musiciens Du Mondeという音楽の教育機関センターでレジデント・アーティストとして活動しています。

このセンターには、彼女の他にも多くのミュージシャンが在籍していて、ヤレドさんはその中からメンバーをシャッフルで組み合わせて、いくつかのグループを作っているようです。
今回のアルバムはヤレドさんとEnsemble Oracionesというグループの共演と言う形なのですが、曲ごとの参加メンバーは流動的で、セッション的であまり固定グループという意識はないのかも。

グループとしてのまとまりが感じられた前作に比べて、ほとんどウード弾き語りのようなパートから大編成での合奏まで、幅広いヴァリエーションの演奏が聴けます。
ヤレドさんのヴォーカルパートも前作以上に多いですね。

このグループの中で、カヌーン奏者のディデム・バサール(Didem Basar)が1stアルバムに続いての参加で、また今回はディレクターという立場で大半の曲のアレンジを担当しているようです。
バサールのソロアルバムについても、以前このブログで投稿しています(こちら

コンスタンチノープル

今回のアルバムはタイトルの『Ottoman Splendours』からわかるとおり、オスマン帝国とその前身であるビザンティウム、古代地中海地域のレパートリーを演奏しています。

このレバートリーについては、同じモントリオールで設立されたコンスタンチノープル・アンサンブルのこれまでの仕事へのオマージュでもあるとのこと。

コンスタンチノープルは、ラミア・ヤレドと同じくCentre Des Musiciens Du Mondeに所属している、テヘラン出身のセタール奏者キヤ・タバシアン(Kiya Tabassian)が中心となって設立されたグループです。

アルバムも10枚以上リリースしているセンター所属のアーティストでは最も著名なアーティストで、古代トルコの伝統的なレパートリーを国内外で広めた偉大なパイオニアと言われています。

今回の『Ottoman Splendours』に音楽監督兼カヌーン奏者として参加しているディデム・バサール(Didem Basar)も、『Passages』(2016)というアルバムで、このコンスタンチノープルに参加していますね。


コンスタンチノープル、アフリカやヨーロッパなど他の地域のミュージシャンとの共演も多く、ノンジャンルっぽいアルバムもけっこうリリースしているのですが、この『Passages』は中東の伝統曲で固められています。

おそらく中東の伝統音楽に馴染みのない人でも聴けるようにすっきりとした、クラシック音楽のように演奏のテクニックを楽しめるようなアレンジになっているのですが、コンスタンチノープルの存在はラミヤ・ヤレドやディデム・バサールのアルバム作りにもかなり影響を与えているんじゃないのかな、とは思いますね。

器楽演奏が中心の『Passages』とヴォーカル入りの『Ottoman Splendours』を聴き比べてみるのも良いかもしれません。

 

『Ottoman Splendours』参加メンバーはこちら

■Ensemble Oraciones

Lamia Yared, ヴォーカル、ウード
Didem Basar, カヌーン,ミュージカルディレクター
Olivier Bussières, パーカッション
Omar Abou-Afach, ヴィオラ
Olivier Bussières, パーカッション
Binnaz Çelik, ケマンチェ
Sheila Hannigan, チェロ
Yoni Kaston, クラリネット
Abdul-Wahab Kayyali, ウード