クラリネット奏者ベン・ゴールドバーグ『Everything Happens to Be.』レビュー

クラリネット奏者のベン・ゴールドバーグによるアルバム最新作『Everything Happens to Be.』の紹介です。

あー、もうこのアルバムはすごく良いですね。
オープニングの1曲を聴いた段階で「これはきっと最高のアルバムだな」という予感がして、聴きすすめるうちにそれが確信に変わっていく、そんなアルバム。

ベン・ゴールドバーグといえば、Tzadikレーベルの「ラディカル・ジューイッシュ・カルチャー」シリーズや、マサダ(第二期)での演奏などが印象的なプレイヤー。
クレズマー/ジューイッシュ音楽ではクラリネットは重要な楽器で、そういったことからもたびたびジョン・ゾーンに起用されていたプレイヤーですね。
デビッド・クレイカウアーのように自分の好きなメンバーで好きなように演奏する人とは違い、ゴールドバーグはある程度ジョン・ゾーンのディレクションに従ってくれていたと思うので、そういう点も彼が重宝されていた理由だったように思います。

『Everything Happens to Be.』 参加メンバーはこちら
Ben Goldberg (clarinets)
Mary Halvorson (electric guitar)
Ellery Eskelin (tenor saxophone)
Michael Formanek (bass)
Tomas Fujiwara (drums)

このメンバーでのレコーディングというのは初めてみたいですが各メンバー間の共演は多くて、ゴールドバーグ名義のアルバムでは『Unfold Ordinary Mind』(2013)でエラリー・エスクリンと、『The Out Louds』(2016)ではメアリー・ハルヴォーソンとトマ・フジワラと共演していますね。
ハルヴォーソン、フォーマネク、フジワラの3人はThumbscrewのメンバーそのままだったりもします。

もともとゴールドバーグはクレズマーだけに留まらずに、クラシックやトラディショナルなジャズなど、演奏するジャンルの振れ幅の大きいミュージシャンですけど、今回のアルバムでは「To-Ron-To」や「Cold Weather」といったニューオリンズ/ディキシーランドジャズを思わせるようなトラディショナルな曲が多いですね。

こういった曲調は、ゴールドバーグのこれまでのアルバムの中では『Subatonic Particle Homesick Blues』(2013)に近いテイストかも。
ちなみに『Subatonic~』はジョシュア・レッドマンが、ロン・マイルスらと共演しているのですが、ジョシュア・レッドマンがすごく楽しそうに吹いているんですよね。
個人的には『Subatonic~』はゴールドバーグのアルバムでは1,2を争うくらい好きなアルバムで、今回の『Everything Happens to Be.』も同じくらい好きなアルバムになりそう。

今回の『Everything Happens to Be.』で特徴的と言えるのは、そういったトラディショナル路線の中にも歪んだリズムやひねくれたフレーズが挟み込まれているところ。聴いていて「オッ!」と耳を奪われますね。
こういう絶妙に調子を外す役割はハルヴォーソンが担っているみたいで、彼女がエフェクターでキュインキュイン歪ませるギターがすごく効果的に使われています。
伝統と革新、緊張と緩和、調整と無調性。こういった両極端な要素をさらりと共存させたアルバムで、なんだかすごくカッコ良いんです。

また基本はトラディショナルなジャズの中に、何曲か少し違う雰囲気の曲がアクセントに挟み込まれているのも良いですね。
ビル・フリゼールが弾くアメリカーナのような「Fred Hampton」、ボッサノヴァ・タッチの「Everything Happens To Be」、ハードなフリージャズの「Tomas Plays the Drums」といった曲は、単独で聴くよりアルバムを通して聴くとまた違った印象です。

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