もとに戻らない「もつれ」

フィラデルフィア出身で、フリージャズとポエトリー・リーディングを組み合わせたグループIrreversible Entanglements(略してIE)による3枚目のアルバム『OPEN THE GATES』

今年の夏にアルバムリリースのニュースと先行シングル「OPEN THE GATES」の配信があったですけど、特にアメリカのジャズ界隈のミュージシャンの間ではかなり話題になっていたように思います。
今年はグループでポエトリー・リーディングを担当するMoor Motherがソロ作をリリースしたこともあり、こちらも相乗効果でかなり話題になっていたと思います。

Irreversible Entanglements(IE)は、2014年11月に、ニューヨークの公営住宅の階段をのぼっていただけの武器を持たない黒人男性であるアカイ・ガーリーさんを警察官が誤って発砲して死亡させた事件があったのですが、この事件の抗議のために開催されたイベント「Musicians Against Police Brutality」がきっかけとなって結成されたグループです。

このイベントに、過去にいくつかのグループで共演歴があったベーシストのLuke Stewart、詩人のCamae Ayewa(a.k.a. Moor Mother)、サックス奏者のKeir Neuringerの3人が出演したのですが、イベント後にトランペット奏者のAquiles NavarroとドラムのTcheser Holmesが加入する事で結成されました。

2015年くらいのアメリカはというと、2014年のタミール・ライスとマイケル・ブラウン、2015年のフレディ・グレイ、2016年のフィランド・キャスティルらへの、警察権力による市民への暴力に対して、社会的な抗議行動が盛り上がった時期でもあります。

NFLのスターQBコリン・キャパニックが国歌斉唱を拒否して膝を着いたのもちょうどこの時期(2016年)でしたね。

こういった社会情勢もあって、メンバーはIEを政治的志向の強いアバンギャルドなジャズ・グループとして1回のイベントで終わらせる事なくパーマネントなグループにする事にしたようです。

IEの音楽はフリージャズ+ポエトリー・リーディングという感じで、これはそこまで珍しい訳ではなくて近いコンセプトでの演奏というのはけっこうあるのだと思いますけどね。
パッと思いつくところではVijay IyerとMike Laddの『In What Language?』とか。他にはJen Shyuがヴォイス担当だった時のSteve Coleman&Five Elementsとかにも近いイメージかも。

基本はトランスっぽいシンプルなベースが延々とループし、その上にポリリズミックでドラム/パーカッションが重ねられ、そこにMoor Motherのラップや管楽器のフレーズが乗るというスタイル。
演奏を聴くかぎりでは、音作りの中心はベーシストのLuke Stewartのようですね。管楽器もいわゆるジャズ的なソロや長いフレーズは全く聴けないですね。

もうラップ/ポエトリー・リーディングとフリージャズの組み合わせというだけで「強い」組み合わせなんですよね。
ダークでストイックなグルーヴがたまらなくカッコ良いんです。

IEの演奏は別にジャズ的にテクニカルな演奏じゃないのですけど、スタイルというかジャンルとしての押しの強さみたいなものを強く感じます。

ちなみにMoor Motherのソロはもう少しヒップホップ寄りで、IEでの演奏とはうまく色分けされていますね。世間的にはMoor Motherのソロの方が好きという人の方が多いかもしれないですね。

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