ティネカ・ポスマ(Tineke Postma)『Freya』レビュー

サックス奏者 ティネカ・ポスマ(Tineke Postma)

オランダ出身のサックス奏者 ティネカ・ポスマ(Tineke Postma)が2020年にリリースした『Freya』は、6年前の出産と子育てを経て、復帰後に初めてリリースされたアルバム。

ポスマのアルバムは今回聴くのは初めてですが、どこかで名前は聞いたことがあるんですよね。Downbeat誌の批評家投票で2019年にライジング・スター(ソプラノサックス部門)に選ばれていたのを見たのかな?

Personnel
Tineke Postma(Alto Saxophone, Soprano Saxophone)
Matthew Brewer(Bass)
Dan Weiss (Drums)
Kris Davis(Piano)
Ralph Alessi(Trumpet)

過去にポスマとアルバムで共演しているメンバーといえば、「Sonic Halo(2014)」で共演しているドラムのダン・ワイスくらいですかね。かなり目新しい編成のアルバムですね。
メンバーにトランペットがいることも彼女のアルバムにしては珍しいです。

ピアノのクリス・デイビスの起用はテリ・リン・キャリントンつながりでしょうね。
(ポスマとドラマーのテリ・リン・キャリントンのふたりは「Mosaic Project」など多くの共演があります。クリス・デイビスも2019年の”Diatom Ribbons”でキャリントンと共演済み)

このアルバムの中身ですが、ひとつ大きなポイントとしてポスマの音楽に大きな影響を与えたジェリ・アレンにオマージュが捧げています。”Geri’s Print “という曲を演し、クリス・デイビスが創造性あふれるピアノインプロを披露しています。
ポスマは2008年のレッド・シー・ジャズフェスティバルでジェリ・アレンに出会い、ベーシストのエスペランサ・スポルディングとドラマーのテリー・リン・キャリントンをフィーチャーしたグループで一緒に演奏しています

ジェリは、以前にはキャリントンとともにポスマのリーダーアルバム『The Traveller』(2009)にも参加していますね。

“ジェリはとても地に足の着いた人で、私がこれまでに会った中で最も自由なミュージシャンだった。彼女は音楽のどのカテゴリーにも縛られていなかった。彼女が演奏するすべてのものがとても深く、深く叙情的だった。彼女の演奏で私は泣いてしまった。彼女はいつも音楽を通して物語を語っていた。”

『Freya』が奏でるジャズの現在地

ジャズ(モダンジャズ)というと、ひとりかふたりホーン奏者がいて、スタンダードを演奏して、各メンバーが数コーラスずつソロを取って、、という感じだったのだと思うのですけど、2020年のいまそういうアルバムをリリースするジャズミュージシャンもまれでしょう。

「じゃあどんな音がいま現在のジャズなの?」と言われると、この『Freya』みたいなアルバムがそれにあたるのじゃないかな、思うんです。

どの辺が?と言われると困るのですけど、ソロの割合とか、作曲とインプロの比率とかそういうところ。

『Freya』は最新のジャズのイディオムを幅広く取り入れているようにも聴こえるし、メンバー編成や楽器などあまり奇抜なチョイスもないですし。

本国アメリカのミュージシャンのアルバムは(マーケティングのためもあるのか)音のスタイルとかコンセプトとか、アルバム独自の”売り”みたいなところがフォーカスされやすい気はします。

それはそれで意外性があった刺激もあるのですが、ポスマのアルバムを聴くと「こういう演奏が聴きたくてジャズアルバムを買うんだよねー」と再確認しますね。あまりスタイル的なことにこだわりがないところは、ポスマのヨーロッパ的な点なのかも。