最後のダライ・ラマ?

前回、今年2020年にリリースされたダライ・ラマの説法をサンプリングされたアルバム『Inner World』についてブログに書きました(→こちら

このアルバムは話題になりチャートアクションも良かったようで、ビルボードの「ニュー・エイジ」部門で1位となったそうです(トータルチャートでもトップ100に入ったそう)

こういう感じのヒーリング/ニューエイジっぽい音楽は正直にいうと好みではないのですが、ダライ・ラマの活動の助けになることを考えるとこのアルバムが受け入れられたことはポジティブに考えて良いようにも思います。

このチャートアクションを受けて2匹目のどじょうを狙ったのかどうかはわからないですが(でもきっとそう)、同じくダライ・ラマをテーマにした音楽アルバムが今回リリースされていました。

2016年に公開された『The Last Dalai Lama?』というタイトルの、近年のダライ・ラマの活動を追ったドキュメンタリーがあるのですが、このアルバムはフィリップ・グラスが担当したそのドキュメンタリー用のサントラ。
フィリップ・グラスはダライ・ラマ心棒者であり、映画『クンドゥン』のサントラに続いての担当です。

最後のダライ・ラマ?

この『The Last Dalai Lama?』というドキュメンタリーはわたしは観ることができていません。海外のアマゾンプライムでは視聴できる?けど翻訳版はないみたい。

インド亡命後、世界を飛び回るダライ・ラマを追った映像のようですが、「最後のダライ・ラマ?」というタイトルがとても意味深です。
近年では、中国の経済成長にともなって中国との関係悪化を避ける傾向が出てきています。それは2020年の香港デモへの対応などを観ても顕著です。
同様にチベット問題については世界各国がトーンダウンしてきており、ローマ法王や世界各国の首脳も、ダライ・ラマとの面会を断るケースも増えています。

急速に中国国内のチベット人と漢民族の同化が進み、この問題の絶対的なアイコンであるダライ・ラマの健康不安なども伝えられ、次のダライ・ラマがどうなるのかといった問題も不透明といった閉塞感が漂う中、「最後のダライ・ラマ?」というタイトルは意味深です。

いまのダライ・ラマが最後のダライ・ラマになる、ということは十分あり得る現実的な話ですからね。

このドキュメンタリーに関するweb記事をいくつか読んでみましたが、内容は世界を講演してまわるダライ・ラマと人々の交流を記録したもののようです。記事を読むと、彼の活動を支援する欧米の人は多くても、考え方にはかなり濃淡があるんだなと思いますね。
多くの人は(例えばローマ法王のように)ダライ・ラマに人生の苦しみから救ってくれる案内人になってもらうことを期待しているようですが、本人はそういうつもりはさらさら無さそう。

欧米の大学での講演会で、ダライ・ラマに幸福への鍵を尋ねた学生に対して、ダライ・ラマはその質問を熟考してからバリトンの声で厳かに
「お金!」
「そしてセックス!」
と答え、聴衆を困惑させたということです。

フィリップ・グラスによるサントラ

えー、ダライ・ラマの話が長くなりましたが、やっとフィリップ・グラスが書いたドキュメンタリー用の音楽の話に戻ります。
基本的にはドキュメンタリー用に新たに書かれたようですが、ラスト曲「Mad Rush」は1978年にダライ・ラマが初めてニューヨークの聖ヨハネ教会を訪れた時に、教会のオルガンで演奏するためにグラスが書いた曲だとのこと。

このサントラですが、『クンドゥン』のダイナミックなオーケストレーションとは違い、ピアノやヴァイオリンなどを中心にした小編成の室内楽的な音作りになっているようです。
『クンドゥン』サントラよりも、映像無しで単独で聴くのに適した音作りなのかも。(いや、『クンドゥン』サントラは映像無しで単独で聴いても素晴らしいよ。あくまで音楽のタイプ的に、という意味で)

もうひとつ、このサントラはチベット人のテンジン・チョーギャル(Tenzin Choegyal)氏が作曲に参加し、かつヴォーカルとチベット楽器を担当しています。彼の歌はこのサントラの大きな聴きどころですね。
(テンジン・チョーギャルというと、ダライ・ラマの弟さんと同姓同名なので紛らわしいですが)
インド音楽でいうカヤールのような、喉をふるわせるようなヴォーカルテクニックを使っていて、エスニックな色どりを加えてくれています。
(そもそもグラスの書いた曲にはあまり”チベット風”の要素は少ないのですけどね)
彼はタブラなどインド音楽ミュージシャンとグループを組んだりしていて、日本ツアーを行ったりもしているそうです。

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