プルバヤン&ラケーシュ 『Saath Saath』

シタール奏者プルバヤン・チャタルジーと、バンスリ奏者ラケーシュ・チャウレシア
インド古典の世界でそれぞれの楽器を代表する演奏家のふたりによるジュガルバンディ(=インド古典のデュエット)形式のアルバム『Saath Saath』の紹介

アルバムタイトルのSaath Saathという言葉は、「いっしょに」という意味のようですね。
同時にこの4人で演奏する時のグループ名でもあるみたいです。

参加メンバー:
Purbayan Chatterjee: Sitar
Rakesh Chaurasia: Bansuri
Ojas Adhiya: Tabla
Satyajit Talwalkar: Tabla

インド古典は基本は(タンプーラなどは除いて)2人での演奏がほとんど。
おそらく全員が顔見知りだとは思いますが、この4人でいっしょに演奏するというのは、今回のプロジェクトがおそらくはじめてなのでは。

この4人は、Purbayan ChatterjeeとOjas Adhiya、Rakesh ChaurasiaとSatyajit Talwalkarという普段よく共演しているのはデュオ2組が合わさったと言うこともできますね。
アルバムに収録されている7曲のうち、2曲目の「Shuddh Sarang」と3曲目の「Madhuvanti」では、このデュオによってそれぞれ演奏されています。

2枚組1時間45分というボリュームですが、アルバム全般にわたって並外れた技術を持つ名人たちによる親密な音楽的な会話が展開され、ただただ圧倒されるばかり。

プルバヤンとラケーシュは、それぞれの楽器において、どちらも彼らの世代を代表する演奏家ですが、このふたりの組み合わせであるSaath Saathは、2022年のインド古典音楽の世界では最も「話題」となったグループじゃないでしょうか。

4人は、8月14日のカーネギー・ホールでのコンサートを皮切りに北米の各都市をまわるという、近年のインド古典音楽ではあまり考えられない規模のツアーを行っていました。
このカーネギー・ホールのコンサートは、(時差があるので)本国インドでの8月15日=独立記念日に合わせて設定されたのだと思います。

またSaath Saathは、ロンドンのバービカン・センターで毎年行われている世界最大級のインド古典音楽イベント「The Darbar Festival」に、2022年のヘッドライナーとして出演する予定です。

この『Saath Saath』で演奏されるのは紛れもないインド古典音楽ですが、アルバムのつくり自体は若干インド音楽のマナーからは外れているかも。
アルバムにはそれぞれ10~20分の長さの曲が7曲収録されていて、それぞれ別のラーガが演奏されています。
ひとつのラーガの収録時間としては短めかも。長いアラープも、タブラソロパートも無し。

いかにもアルバム用の構成という感じですが、そもそも「古典」といってもインド音楽はその辺りのこだわりはあまり無いみたいですからね。

そもそもプルバヤンもラケーシュも古典音楽に深く根差した音楽活動を行いながらも、一方で他ジャンルの音楽を積極的に取り入れてきた人たちでもあります。

たとえばプルバヤンはこれまで、(ラケーシュも参加した)『String Struck』(2009)や、『Unbounded(Abaad)』(2021)など、フュージョン系のアルバムもリリースしていますし。

ちなみにプルバヤンは、1990年代に訪れたカリフォルニアでオーネット・コールマンのジャズを聴いたときに「人生が変わった」と感じたそうです。「伝統に深く浸るためには、外からの影響が必要だ」とを悟ったのだとか。

一方のラケーシュも、クラブ音楽に飽きてタブラ奏者を目指した時期のTalvin Singhとアルバム『Vira』で共演したり、自身のフュージョンバンドRakesh and Friendsを率いていたりもします。
(Rakesh and Friendsには、Saath SaathメンバーのSatyajit Talwalkarも参加しています)

いずれにしても、『Saath Saath』は今のインド古典音楽の現在地、メルクマールとなる作品だと思うので、全音楽ファンは必聴だと思いますね。

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