『ルーミーの足跡を辿って』

カナダのモントリオールに、Centre des musiciens du mondeという教育機関があるのですが、そこをベースに活動するカヌン奏者のディデム・バサールやヴォーカリスト/ウード奏者ラミア・ヤレドなどのアラブ音楽ミュージシャンについてこのブログで何度か書いてきました。

このセンターの共同設立者でもある、セタール奏者のキヤ・タバシアン(Kiya Tabassian)が音楽監督を務める、コンスタンチノープル(Constantinople)というグループがあるのですが、これまでに17枚ものアルバムをリリースし、センターの中心的なグループと言える存在です。

彼らが『In The Footsteps of Rumi』というタイトルの新作をリリースしていましたので、その紹介です。

タイトルからわかるように、イスラム神秘主義詩人であるジャラール・ウッディーン・ルーミーの詩を取り上げています。

2019年に立ち上がったプロジェクトのスタジオ録音盤です(ライブなどもやっていてYouTubeなどで見ることもできます)

ここで取り上げられているルーミーの名前は、スーフィズムと合わせて語られることも多いですね。

スーフィ教団がイスラム外の世界へ勢力を拡大し、現地の土着宗教を信仰する人たちを取り込む様子を表現する際に、以下のルーミーの詩はたまに引用されたりもします(原文は英語じゃないですが)

“Come, come, whoever you are. Wanderer, worshiper, lover of leaving. It doesn’t matter. Ours is not a caravan of despair. come, even if you have broken your vows a thousand times. Come, yet again , come , come.”
“来たれ、来たれ、あなたが何者であっても。放浪者でも、偶像崇拝者でも、異端者でも。何物でも関係ない。私たちは絶望のキャラバン隊ではない。来たれ、たとえあなたが千回信仰を破ったとしても。来たれ、もう一度、来たれ”

音楽に限ってみてもルーミーの名前を聞くことは多くて、おおまかにイスラム音楽でくくるとルーミーの詩を歌うことは珍しくない、というかかなり多いのだと思います。
パッと思いつくだけで、パキスタンのヌスラット・ファテ・アリ・ハーンも歌っていますし、シャーラム・ナゼリも歌っていました。ルーミーの詩を歌う音源を集めたコンピレーションアルバムとかもあったはず。

またトルコに旋回舞踊というのがあって、そこで伴奏として13世紀当時のイスラム音楽を演奏するのですが、この舞踊はルーミーを始祖とするメヴレヴィー教団によって伝えられたものです。
ネイがフィーチャーされた音楽は「いかにもトルコ音楽」という雰囲気ですね。

そんなルーミーの詩を取り上げた『In The Footsteps of Rumi』ですが、演奏は以下のメンバー
このブログでも以前取り上げたチュニジアルーツの女性ヴォーカリスト、ガリア・ベナリが今回のプロジェクト限定でConstantinopleに参加しています。

『In The Footsteps of Rumi』
Kiya Tabassian: Setar & Artistic Director
Ghalia Benali: Voice
Neva Özgen: Kemence
Didem Başar: Kanun
Nazih Borish: Oud
Nasser Salameh: Percussions

このCentre des musiciens du mondeで活動しているミュージシャンは、西洋音楽っぽいアレンジを取り入れたり、「モダン」な演奏も多いのですが、このアルバムは割と伝統的・保守的なアレンジのようです。

聴いていてハッとするような意外性はなく、こういった音楽を豊かな物語として楽しむにはアラブ音楽に対する深い理解が必要な気もするのですが、そういったことは置いておいても、ガリア・ベナリの落ち着いた歌声と曲調が良くマッチしていると思いますね。

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