ヴィブラフォン奏者パトリシア・ブレナン『Maquishti』レビュー

ヴィブラフォン奏者パトリシア・ブレナン(Patricia Brennan)の2021年リリースの1stソロアルバム『Maquishti』がリリースされたので、リリース前に「これ聴きたい」という投稿をしていたのですが、リリースされた後に加筆して再投稿しますね。

パトリシア・ブレナンは、ピアニストのマット・ミッチェルによるアルバム『A Pouting Grimace』『Phalanx Ambassadors』 に参加していたことで初めて知ったのですが、そこでも高度で緻密なプレイで強い印象をリスナーに与えていました。

彼女はメキシコ生まれで現在はニューヨーク在住。
ブレナンという名前はアイリッシュ系で良く聞く名前なのですが、これは旦那さんの姓ですね。
(ちなみにPatricia Brennanで検索するとアリイッシュ音楽のエンヤがたくさんヒットしますね。エンヤのフル・ネームはエンヤ・パトリシア・ブレナンなので)
夫のノエル・ブレナンさんもミュージシャンで、ターンテーブルやエレクトロニクスをプレイする人のようです。

メキシコにいる4歳からラテン・パーカッションとピアノを家族から習ったそうで、祖母がコンサートピアニストという音楽一家だったそうです。
17歳になるころにはマリンバの演奏を初めており、その時点でメキシコでトップクラスのクラシック・オーケストラの一員として活躍し、さまざまなマリンバのコンペティションで評価を受けとのこと。
その後、アメリカで移住してCurtis Institute of Music in Philadelphiaで学び、サイモン・ラトルやシャルル・デュトワが指揮するオーケストラで演奏もしました。
現在ではNYにあるNew School for Jazz and Contemporary Musicの教員となっています。

と、ここまで見るともともとは完全にクラシック畑のキャリアなのですが、近年ではジャズ/フリーインプロのジャンルにも活動の幅を広げているようです。
フレーズの組み立てで聴かせる感じではなくてサウンドの響き重視、言ってみればシンセ的な使われ方が多いような気もするのですが、彼女の緻密でテクニカルなプレイは今の時代は逆に新鮮かも。

最初はジョン・ホレンベック・ラージアンサンブル や マイケル・フォーマネク・アンサンブル・コロッサスといったラージアンサンブルの一員として活躍し、そして近年ではトリオやカルテットのような小編成での演奏も多くなっています。

ソロアルバム『Maquishti』

彼女の1stソロアルバムですが、完全ソロ演奏によるレコーディング。

ソロアルバムのレコーディングとリリースの計画は2019年からあったようなので、その際はノエル・ブレナン(DJ/ドラマーで彼女の夫)を含むカルテット形式のアルバムだったようようです。
それが完全ソロアルバムに変更したのはかなり意外で、これも明らかの新型コロナウィルスの影響なのでしょうね。

ソロ演奏ということなのですが、ヴィブラフォンの残響音を活かしつつ、無駄な音を極限まで削ぎ落として選び抜かれたフレーズをつないでいっています。こうなるとジャズ的な要素はほぼ無いのかも。
また足元のエフェクターを効果的に使って、電子音楽っぽいアレンジもあり新鮮です。

かなり聴きとおすのに体力を使いますが、ワン・アンド・オンリーで他ではあまり聴けないタイプのアルバムですね。

サイドプロジェクト

彼女のソロデビュー前のフリー/インプロ系の活動としては、ヴィジェイ・アイヤーとの活動が最も注目されていましたね。(アイヤーと共に、作家Teju Coleとのコラボパフォーマンスに参加したりも)

この動画で演奏しているライブスペースThe Stoneは、ブレナンが教員として教えているNew School Universityの中に移転していますから、おそらく彼女にとってはおなじみの場所ですね。

他にもトマ・フジワラ(ドラム)、トミカ・リード(チェロ)と共演した7 Poets Trioでは昨年アルバムをリリースしています。

トマ・フジワラ(→こちら)、トミカ・リード(→こちら)ともに、このブログで取り上げたお気に入りのミュージシャンです。
この7 Poets Trioが、これまでの活動の中で最も彼女のプレイが前面に出ているグループかもしれないですね。

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