ジュリアン・ラージ(Julian Lage) 『Love Hurts』レビュー

神童から21世紀を代表するギタリストへ

Julian Lage(ジュリアン・ラージ)は、4歳でギターを始めて早くから「神童」と呼ばれ、15歳の時にゲイリー・バートンのグループに起用されたギタリスト。
1987年生まれなので2019年時点でまだ32歳とかなり若いのですが、すでに現時点で「新時代を牽引する天才」「21世紀を代表するジャズギタリスト」とも言われているようです。

わたしが個人的に選ぶ2019年ベスト10ですが、彼が今年リリースしたアルバム『Love Hurts』を選出しようと思っています。

彼は基本的にトリオやデュオなどの小編成でのプレイが多く、かつてはホロウボディのギターを使った「いわゆる」ジャズギターの音を出していたみたいですが、近年はテレキャスターの乾いた若干クランチの効いた音での演奏が多いですね。

あまりコードを織り交ぜて弾くようなスタイルではなく、少ない音色を完璧にコントロールして演奏するスタイルですね。
(そういれば彼はサン・フランシスコにあるインド古典音楽の教育機関、Ali Akbar Khan Music Collegeで学んだ経験もあるそうで、インド音楽の影響も受けているのかも)

こちらはかつての師匠であるヴィブラフォン奏者のゲイリー・バートンとのデュオでTiny Desk Concertに出演した時の動画

Julian Lage on Tzadik label

わたしが彼の名前をはじめて知ったのはTzadikレーベルからリリースされた『Midsummer Moons』(2017)、『Insurrection』(2018)、『Salem, 1692』(2018)といったアルバムです。

全くジャンルの異なるグループで、フォーキーなデュオギターから、轟音が鳴り響くハードコアバンドまで、幅広いギタープレイを聴かせてくれました。

Tzadikレーベルでは、かつてはこういうセッション的なアルバムでギターが必要な時に呼ばれるのはたいていはBill Frisellだった訳ですけど、ここ最近では彼に代わってラージがファーストチョイスとなっているようです。
ラージが、ゾーンの無茶なリクエストに答えてくれるだけの力量を持ったギタリストだという証ですね。

『Insurrection』『Salem, 1692』

Insurrection (CD, Album) アルバムカバーSalem 1692 (CD, Album) アルバムカバー

Trevor Dunn (Bass)
Kenny Grohowski (Drums)
Matt Hollenberg (Guitar)
Julian Lage (Guitar)
※2枚のアルバムとも同メンバー

この『Insurrection』『Salem, 1692』という2枚のアルバムはおそらくギタリストのマット・ホレンバーグ(Matt Hollenberg)が仕切っているグループのようです。

ホレンバーグが参加しているClericというメタルグループがあるのですが、かなり音楽性は近いですね。

Clericは「Masada Book 3 – The Book Beri’ah」でもアルバムを出していますし、この2枚のアルバムもなんなら「Clericにそのまま演奏させても良かったんじゃない?」と思う部分もありますが、2010年代のJohn Zornはいろんなミュージシャンを組み合わせることで、プレイヤーの新たな魅力を引き出すことを目論んでいたようです。

ラージもいつもと違うメタル路線のアレンジの中で、グイグイ全面に出ることなくバッキングに徹しているのですが、ときおり聴けるテクニカルなフレーズなど「おっ!」と耳を奪われますね。

カヴァーアルバム『Love Hurts』

Jorge Roeder (b)
Dave King (ds)
Julian Lage (g)

アルバム『Love Hurts』は、ロイ・オービソンやエヴァリー・ブラザーズ、さらにはオーネット・コールマンやキース・ジャレットなど多彩なミュージシャンを取り上げたカヴァーアルバムで、ある意味では企画盤ともいえますね。

メンバーもバッド・プラスのデイブ・キング(Dave King)が参加するなどこれまでのアルバムから若干の変更はありますけど、基本はここ数作のラージのアメリカーナ路線を踏襲した音作りですね。

ここでのラージは、原曲の響きを壊さないように1音1音を完璧にコントロールするスタイルで、原曲のエッセンスを彼流にうまくアレンジしています。
このあたりのギタープレイのフィールが、どうしてもビル・フリゼール を連想しちゃうのですけどね。