ムスリムのサディク・カーンがロンドン市長になったり、ボクシングのアミール・カーンが世界タイトルを獲ったりと、イギリス(特にロンドン)でパキスタン系移民は年々存在感を増していますね。
90年代にイギリスでクラブカルチャーが盛り上がっていた時期に、パキスタン系の若者たちの中からもクラブ系ミュージシャンがたくさん現れました。
彼らは当然のごとく、自分たちのアイデンティティであるインド/パキスタンテイストを、自分たちの音楽で強力にアピールしていました。
この界隈で当時いちばん有名だったのはタルヴィン・シンですかね。
(タルヴィン・シンは今ではすっかり古典音楽のタブラプレイヤーなようですけど)
ヌスラットのリミックスアルバム
ここで紹介するアルバム『Star Rise』(1997)は、こちらで紹介したパキスタンのカッワーリシンガーであるヌスラット・ファテ・アリ・ハーンの音源をリミックスしたコンピレーションアルバムです
V.A『Star Rise』
1.Sweet Pain (Joi Remix)
2.My Heart, My Life (Talvin Singh Remix)
3.Taa Deem (Asian Dub Foundation Remix)
4.Shadow (State of Bengal Remix)
5.Longing (Aki Nawaz Remix)
6.My Comfort Remains (Black Star Liner Remix)
7.Tracery (Nitin Sawhney Remix)
8.Lament (Earthtribe Remix)
9.Nothing Without You (The Dhol Foundation & Fun^Da^Mental Remix)
10.Fault Lines (DJ Fabian Alsultany Remix)
こちらはRealWorld公式のメイキングビデオ
RealWorldnのUKエイジアン Joi
このアルバムでトップを飾るJoiの『Sweet Pain』
Joiは、Farook Shamsherと Haroon Shamsherというバングラデシュ系の兄弟ふたりが中心になってロンドンで結成されたグループです
リアルワールドレーベルから計3枚のアルバムをリリースしていますね。
彼らのファーストアルバムである『One and One is One』はインド音楽のドラマチックなフィーリングとダンサブルなクラブミュージックが理想的にミックスされた傑作アルバムだと思います。一時期めっちゃ聴いていたアルバムです。
こちらは『One and One is One』の1曲目『Fingers』
兄の死を乗り越えて
JoiのファーストアルバムはBBCアワードを獲るほど好評だったのですが、セカンドアルバム制作中にお兄さんのHaroonさんが若くして心臓発作で亡くなってしまいます。おそらくHaroonはクラブミュージックのプロデュサー的な立場の人だったっぽくて、Joiのサウンドに無くてはならなかった人だったようです。
結果としてグループは、弟のFarookひとりで続けていくことになってしまいます。
(セカンドアルバム『We are three』は一部2人で共作で、サードアルバム『Without Zero』は完全にFarookひとりでの制作)
こちらの動画はセカンドアルバムを録音するタイミングに撮られたドキュメンタリーで、お兄さんの追悼を込めて故郷バングラデシュを訪れて、Joiの音楽について弟のFarookが語ってます。
メンバーがいなくなるのはグループにとって存続の危機ですからね。しかも彼らの場合はたった2人しかいないメンバーの1人がいなくなり、しかもそれが兄弟だったのですから。
このドキュメンタリー映像を見ても、Farookが深い喪失感を感じている様子が良くわかります。『Star Rise』のドキュメンタリーのインタビューでも、なんとか兄さんの死を乗り越えて再びアルバムを作れるようになってみたいで本当に良かったと思います
ただ、あらためてFarookひとりで作ったアルバムを聴きかえしてみると、「なんかちょっと違うな」というのが正直な印象です。
Farookの趣味なのでしょうけど、アルバムを重ねるごとにシンセや女性ヴォーカルの音が少なめになっていたり、生演奏よりもサンプル音ベースの音に移っているような気がします。
何かこうキラキラした高揚感みたいな感じが無くなって、ちょっとダウナーなアレンジになっているような気がします。
個人的には彼らのファーストアルバム『One and One is One』がお気に入りなので、テイストが違うセカンドとサードアルバムに違和感を感じてしまうのかも。
彼らはリアルワールドから3枚のスタジオアルバムとベスト盤をリリースしたあと、実質的にはグループとしては活動停止になってしまったようですね。
まぁ、UKエイジアンシーンじたいが下火になったせいもあると思います。『Star Rise』に参加したグループで今もコンスタントに活動しているグループもいないようですし。
ただ、『Star Rise』を改めて聴きなおしても、このアルバムの輝きは失われていないです。何かのきっかけでリバイバルして、もういちど彼らに脚光が浴びるようになれば最高なんですけどね。