エルサレム・アンダー・ファイア!

2023年10月7日

この日、ハマスの戦闘員がガザ地区とイスラエルの境界線を越えてイスラエル領内に入り、多くのイスラエル市民が犠牲になり、また人質にとられました。
これを書いている2024年1月15日時点では、まだ衝突(というよりもイスラエルの一方的な侵攻)は終わっていません。

当初は、標的にされた病院の地下にハマスの司令部が「ある」とか「いや、ない」とか、「パレスチナとイスラエル、どちらの行動が”正しい”のか?といった議論が延々とされていました。

ただ今にして思うと、そういう「正しさ」を気にしていたのは、親イスラエル/反イスラエル、モスリム/非モスリム、そういった立場とは関係ない一部の外野だけだったような気もします。

イスラエルの人にとっては、国際法がどうとか、(国内に多くのモスリム住民を抱えた)欧米諸国の支持がどうとか、ましてや日本の世論など、「そんなものファックだ!」としか思っていなかったんだと思います。

現時点で、数百人もの死傷者が出て、また100人単位で人質を取られたままなのは確かなので、イスラエルの人たちの「我々にとってはイスラエル国民の命が第一」という主張に反論できる術をほとんどの人は持っていないのだろうし、外野がいくら#Ceasefireというハッシュタグをリポストしようが、おそらくイスラエルの人たちの耳には届かないでしょう。

自分のSNSの観測範囲は音楽関係が多いのですが、アメリカ国内は、トム・モレロとかヴィジェイ・アイヤーとか明確にイスラエルの行動を避難する人もたくさんいるのですけどね。
(ヴィジェイ・アイヤーは、学長が反ユダヤ主義だとして学長が解任されたハーバード大学の教授であり、いわば「当事者」なのである程度ポジショントークもあるかもしれませんが)

逆に、かつてTzadikからもアルバムをリリースしていた、(のちにニューヨークを離れイスラエルに帰った)サックス奏者のダニエル・ザミールなどは、SNSでパレスチナへの憎悪に満ち満ちた投稿をしたりしていますね。

かつて、英国出身のミュージシャンであるブリン・ジョーンズは1982年に勃発したイスラエルのレバノン侵攻を契機にムスリムガーゼというユニット名で、独自の電子音と中東音楽をミックスされた音楽をリリースしていました。

こちらはムスリムガーゼのアルバム「ハマス・アーク」のジャケットに使われた写真家Jean Gaumyの作品

1986 IRAN. 1986 Tehran. Veiled women training shooting in the outskirts of the city. © Jean Gaumy / Magnum Photos

ブリン・ジョーンズは1999年にすでに亡くなりムスリムガーゼの新作はもう出ないわけですし、こと音楽に関していうとムスリムガーゼの音楽は過大評価されていると個人的には思うのですけど、もし彼が生きていたら「こういうタイプの作品をリリースしたかも」と最近思ったのが、今回Badawi(a.k.a Raz Mesinai)のアルバム

Badawiと言えば、電子音と自身が演奏する生音をミックスさせた音作りが特徴のミュージシャンで、その生音にはピアノやパーカッションが使われたりもしていました。

近年は映画音楽を手掛けるなどの仕事が多かったようですが、2023年は多数のアルバムをリリースしています。
2023年だけで『The House of Allah』『Dabka in the Dark』『A tale of two cities』『Rhythms for Survival』『Qaher Vol IV』と5枚ものアルバムをリリースしています。
(これらのリリースと10/17以降のパレスチナ-イスラエルの衝突とはおそらく関係なさそうですが)

こちらは『The House of Allah』のジャケット

彼はエルサレム生まれなのですが、アラブ系コミュニティで育った時期もあるそうで、Badawiという単語も、砂漠の住民=ベドウィンという意味らしいですね。
今回のパレスチナ-イスラエルの衝突に関しても、パレスチナ支持の立場のようです。あまりSNSなどでの発信は熱心じゃないみたいですが、#FreePanestineを掲げたPodcastに出演していたようです。

パレスチナ-イスラエルの衝突がきっかけで2023年末からBadawiの作品を聴いてみたのですが、そういった政治的な立場は別としてかなり良い作品群だなと感じます。

たとえばTzadik時代の作品などはあまり好みの音じゃなかったのですけどね。
かつては音数もそんなに多くもなく、あまり中東要素もなく、抽象的というか聴きどころのわからない音楽といった印象でしたし。

それが、2023年にリリースされたアルバムでは、Badawi自身による(フレームドラムを中心とした)パーカッションがかなり印象的に使われています。

パーカッションかなり良い音で鳴っていて、細かいアクセントやテクニックを使うのではなく、シンプルなフレーズをひたすら繰り返すことでじわじわと湧き上がる高揚感を感じられます。

アクセントというよりもパーカッションがアルバムの中心に据えられていて、パーカッションの音色を取り囲むようにBadawiの電子音がアクセントとして加えられているという構成
Mesinaiは数十年の音楽キャリアの間に、ずっとパーカッションの稽古を続けてきたんじゃないかなあ

まさにこれこそがアラブパーカッションの良さだと思うし、アラブ音楽以上にアラブ音楽の良さを体現していると言えるかも。

Badawiは電子音と生音の組み合わせをいろんな形で試行錯誤してきたと思うのですが、2023年の作品群では、そのもっとも理想的な形を見つけたような気もしますね。

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