Okan 『Okantomi』


キューバ系カナダ人のミュージシャンの女性ふたりによるアフロ・キューバン・ジャズ・グループのオカン(Okan)の3枚目のアルバム『Okantomi』

このアルバムは2023年と少し前にリリースされていたのを聴きのがしていたアルバム
みんな大好き、トランスグローバル・ワールドミュージック・チャートにチャートインしていたことで聴いてみました

Okanは、パーカッション奏者のマグデリス・サヴィーン(Magdelys Savigne)と、ヴァイオリンとヴォーカルを担当するエリザベス・ロドリゲス(Elizabeth Rodriguez)を主要メンバーとして結成されたグループです

アルバムの参加ミュージシャンはこちら
Magdelys Savigne(vocals, percussion)
Elizabeth Rodriguez(vocals, violin)
Roberto Riveron (bass)
Frank Martinez (drums)
Jeremy Ledbetter (piano, keyboards)
Miguel de Armas (synthesizer)

サヴィーンとロドリゲスのふたりに、カナダで活動するキューバ音楽のセッションミュージシャン(彼女たちによると「キューバの伝説的なミュージシャンたち」)が加わりアルバムは制作されているのですが、Okanの活動を通してバックミュージシャンはこのアルバムに参加しているメンバーでほぼ固定されており、ひとつのバンドのようなものと言ってよいかもしれません

サヴィーンとロドリゲスは共にジェーン・ブネットのバンドMaquequeの元メンバーだったそうですが、サヴィーンが2017年に同バンドを脱退して新しいグループを作ることになった時に、オーディションにやってきたのがロドリゲスだったとか
(こういった経緯からもおそらくサヴィーンが音楽的な主導権を持っているように見えますね)

ふたりはもともとキューバでクラシックの教育を受けたミュージシャンで、サヴィーンはサンティアゴ・デ・クーバ出身で、ハバナの芸術大学でオーケストラ・パーカッションを専攻し、またキューバ・ハバナ生まれのロドリゲスは、ヴァイオリニストとして、ハバナ・ユース・オーケストラのコンサートマスターを務めたほどだったそうです

ふたりとも幼いころからアフロキューバンの伝統的な音楽に親しんできたそうですが、母国キューバではポピュラー音楽の世界は(ヴォーカリスト以外は)基本的に男性優位の世界であり、そういった環境もありクラシック音楽の教育現場へ向かわせることになったんじゃないかと思われます
インタビューを読むとサヴィーンは自身がパーカッションを演奏することについて、様々なジェンダーの壁に直面したことを語っています

またキューバで数少ない女性ミュージシャンであることに加えて、Okanのふたりはクィアのパートナー同士でもあり、現在でもクィアの権利やジェンダーの平等について歌詞に盛り込んだりもしているのですが、そうした点もふたりにとってキューバは居心地のよい場所ではなかったことは想像できます
結果としてふたりは別々にカナダに移民として渡り音楽活動を続けることになります

それにしても、キューバに限らずカナダに移住して、主に伝統音楽の分野で音楽制作を続けるミュージシャンはけっこう多い印象ですね
以前、カナダのモントリオールにあるCentre des musiciens du mondeという機関に所属するアラブ音楽ミュージシャンの話題をブログで書きましたが、他国の文化を支援しようとする素養がカナダにはあるようです

Okanのふたりの活動や音楽的な研究にも、国からなのか州からなのか資金が提供されているようです(Okanのふたりでカナダの学校で南米の音楽やリズムに関する講演や演奏会を行ったりしています)

国は違いますが、コロンビア出身でOkanのふたりと同じくクィアでもあるリド・ピミエンタ(Lido Pimienta)も、同じくカナダへ移住していますね
Okanはピミエンタのアルバム『Miss Colombia』に収録されている 「Nada」で共演もしています

『Okantomi』

彼女たちの音楽は折衷的であり、ソン・クバーノ、ラテン・ジャズ、サルサ、ボレロなど、様々な音楽をミックスした音楽となっています
インタビューなどでも

「カナダでの活動の中でブラジルやトルコ、様々な国のミュージシャンと知り合えたまたサンティアゴ・デ・クーバとハバナというお互いの故郷に伝わる伝統、若い時に学んだクラシック、そういったものを全てミックスしている」

と発言していました

こうしたふたりのメンバーの経験やバックグラウンドが、キューバの伝統に根ざした音楽に現代的なひねりとなって加わり、ポップさを加えているようです
リーダーであるサヴィーンがパーカッション奏者だからかもしれませんが、コード感のないリズム重視のアレンジも多いですね
今作でゲストとして参加しているデイメ・アロセナのように、キューバルーツのミュージシャンはヴォーカリストが多いのですが、Okanはヴォーカルの分量も控えめです

様々な音楽の影響が見え隠れするアルバムなので、Okan独自の特徴というか押しが弱い気もするのですけどね
でもそういった「こだわりのなさ」が、狙ってやっているような「あざとさ」はなく、ふたりが楽しんで演奏している雰囲気が伝わってきて楽しくなるアルバムですね

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