コリー・スマイス(Cory Smythe) 『Accelerate Every Voice』レビュー

ピアニスト、コーリー・スマイス(Cory Smythe)がすごいアルバムをリリースしてきました。

サブスクで聴けますので、このブログを読まなくても良いからとにかく聴いてほしい。

クラシック音楽と現代音楽・即興音楽の両方のフィールドで活躍するコーリー・スマイスが、2020年6月に「Accelerate Every Voice」をリリースしました。
まだリリースされて1週間も経っていないのですが、繰返し聴いています。

ヒラリー・ハーンとのコラボ

スマイスはインディアナ大学でLuba Edlina-Dubinskyに、USCでステュワート・ゴードンにクラシックピアノを師事し、学位を取得したという”ガチ”のクラシックピアニスト。

クラシックの世界ではヴァイオリニストのヒラリー・ハーンの伴奏者として(日本を含む)世界中をツアーしてまわり、『In 27 Pieces: the Hilary Hahn Encores』でグラミー賞を受賞しています。

ちなみにヒラリー・ハーンはクラシック・ヴァイオリンの世界ではトップ・オブ・ザ・トップスのひとりで、人によっては「現役ヴァイオリン奏者の中ではトップ10」という人もいるみたいですね。
ハーンとスマイスのふたりはモーツァルト曲集などオーセンティックなクラシックアルバムもリリースしていますが、『In 27 Pieces: the Hilary Hahn Encores』というアルバムは現役の作曲家にバイオリンとピアノのための曲を委嘱したアルバムで、かなり現代音楽寄りのアルバム。

コンサートホールを満員にするほどのヴァイオリニストでありながら、ハーンとスマイスのふたりでジョン・ゾーンのライブハウス「The Stone」に(今の場所に移転する前に)出演したりと、もしかするとハーン自身も即興的な音楽に興味があるのかも。

即興音楽家としての活動

いっぽうスマイスの方はというと、ジャズ・即興音楽の世界では、Tyshawn Soreyトリオでの演奏が有名。他にはPeter Evans、Vijay Iyer、Steve Lehman、Anthony Braxtonといったミュージシャンと共演歴あり。

Soreyのソロ・アルバムはほぼ現代音楽と言って良いですけど、「The Inner Spectrum Of Variables」「Verisimilitude」といった近年のSoreyの代表的なアルバムでも欠かせない存在になっていますね。ああいう現代音楽タッチを弾きこなせるピアニストって少ないのでしょうね。

4人のヴォーカル・アーティスト

そしてやっと2020年新作「Accelerate Every Voice」の話

Personnel
Kyoko Kitamura (voice)
Michael Mayo (voice, looper)
Raquel Acevedo Klein (voice)
Steven Hrycelak (vocal bass)
Kari Francis (vocal percussion)
Cory Smythe (piano, electronics)

これまでのスマイスのソロ・アルバムは他のミュージシャンと共演する場合でも多くてもトリオくらいの小編成での演奏がほとんど。もちろんドラムなどのリズム担当もほぼ無し。彼が書く調性感の薄い(無調の)曲を演奏するとなると自然とそうなっていたのでしょう。

それに対して今回のアルバムはヴォーカリスト4人、まずこの編成に驚かされます。
しかも4人のうち1人はボイス・パーカッション担当。とはいえRahzelみたいなヒップホップ風ではなくイマ風のクリック音っぽいやつです。
なんとなくビュークの「Medulla」を思いおこさせますけど、スマイスのアルバムの方がもっとヴォーカルアートっぽいストイックな作りですね(「Medulla」は声はかなり音響処理されていましたし)
このブログで取り上げた中では、メレディス・モンク『Memory Game』などに肌触りは近いかも。

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メレディス・モンク 『Memory Game』レビュー - サナコレ

割と音のスペースがありフリーなメレディス・モンクのアルバムと比べても、「Accelerate Every Voice」の方はかなり決め事が多そうでカッチリ組み立てられた曲が多いですね。

4人のヴォーカリストがアトーナルな曲の雰囲気をキープしつつ、複雑に声を重ねる手法は作曲からかなり気をつかっているように思えますし、各メンバーの声のコントロールが素晴らしく、難解に感じさせません。
わたしにもすっと自然に聴けちゃう。

ボイス・パーカッションも、単純なリズムキープではぜんぜんないのですけど、音像のアクセントとなっていて表現の幅がグッと拡がっています。
スマイスのピアノは控えめで、全体を指揮してバランスを取るオーガナイザーといったところですね。

おまけ情報

スマイスのソロピアノアルバム『Pluripotent』は、ジェイソン・モランが「今まで聴いた中で最高のソロ・レコーディングの一つ」と評したもので、corysmythe.bandcamp.comで無料でダウンロードできます。
ひゃっほう!

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