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アナログレコードの「暖かみ」の謎が解けた!

「実はCDは音が良くない」?

わたしが音楽を聴きはじめた頃は、世の中の音楽メディアはアナログレコードからCDにすでに移行していました。

音楽で「音質」の話題はいつの時代も尽きないですが、わたしはアナログレコードに比べても「CDの方が高音質」だとずっと思っていましたし、それが「世間の常識」だと思っていました。

CDだとプチプチ言うスクラッチノイズも無いし、無音はどこまでも無音だし、溝の劣化などもないし。

ただ最近のweb記事を読むと、「CDの方が高音質」という考えは世間の常識とはどうも言えないようです。

レコードの音には「温かみ」がある派

最近ではサブスクリプションの台頭の影響もありCDの売り上げが減っているのですが、逆にアナログレコードは売上を伸ばしています。
「ついにアナログレコードの売り上げがCDを追い抜きそうだ」という記事も話題になりました。

日本の雑誌でも、アナログレコードは”本物の”音楽ファンの必須アイテム」みたいなプッシュのされ方をしている記事がたくさんあります。(中には#レコード女子 みたいなネーミングをされていたりして、なんとなく居心地の悪さは感じるのですが)

そういったアナログレコードをプッシュしている記事を読むと

「アナログレコードは、CDより音が良いから音楽ファンに支持されている」

と書かれていることが多いです。

逆にCDは、
「CDは音に暖かみがない」
「音にふくらみがない」
「リアルじゃない」
「音にガッツがない」
ために音が悪い、ということのようです。

わたしも(個人的に所有したことはないですが)アナログレコードじたいはいろんな機会で聴いたことはあるのですが、「暖かみ」とか言われると「ちょっと何言っているのかわからない」

アナログレコードの音にはCDには無い「何か」があるということなのでしょうか?

「暖かみ」ってなに?

アナログレコードの音が良く、逆にCDの音が悪いと言っている人は、その根拠を大きくわけると2つ挙げているみたいです。

①CDのサンプリングレートが44.1kHzであり22kHz以上の音は折り返しノイズとなるため、CDは高周波成分(=高音成分)をフィルターでカットしている。

②量子化/サンプリング(16bit/44.1kHz)による音の段差がある

①高周波成分のカット (ハイパーソニック・エフェクト)

CDが22kHz以上の周波数成分をカットしているのは折り返しノイズ対策ですが、そこまでの高周波は人間の耳にはほぼ聴こえないためカットしても問題ない、という考えからです。
年齢によっても違いはありますが、人間が聴くことのできる高音は(年齢によって変わりますが)15~17kHzくらいが限度のようですね。

CDは音が悪いと考えている人のほとんどは、このCDの高周波カットを理由として挙げています。
アナログレコードは原理的に高周波も再現可能でCDに比べてより原音に近く、そのことがCDには無い温かみを加えている、というロジックらしいです。

ただ、この「高周波が音に温かみを加える」という話はとくに科学的根拠はなさそうです。

かなり昔には「可聴域外の高周波音を聴くと脳からα波が出てリラックスできる」みたいなマユツバな話はたくさんあったようです。このような過去の逸話が「高周波の音は脳に影響してる」といった誤解を生んだのではないかな?とも思います。

ハイパーソニック・エフェクト

ちょっと話は変わりますが、芸能山城組の山城祥二さんが大橋力という名義で、この高周波音の人体への影響に関して論文を書いているみたいです。その効果を「ハイパーソニック・エフェクト」と呼んでいます。

この「ハイパーソニック・エフェクト」ですが、

高周波音を聴くと、がんやウィルスなど内外の敵から身を護る〈自律神経系〉〈内分泌系〉〈免疫系〉の働きが強くなって健康増進が期待されます。(https://www.yamashirogumi.jp/research/hypersonic/)

といったコメントまで書いてあります。

web情報を読む限りではホメオパシーみたいなある種オカルトめいた理論に思えますし、ダブル・ブラインドテストなど適切な実験で実証されているのか疑問です。

さらに、このハイパーソニック・エフェクトはイヤホンで聴くと効果がなくスピーカーで聴くと効果があるらしく、その理由として「高周波成分の振動を人の皮膚から感じ取っている」らしいです。それはさすがにムチャな理由では??

「高周波がカットされたCDは音が悪い」は明らかに間違い

高周波成分と音質の関係について、ここで結論を書いてしまうと、

「高周波がカットされたCDは音が悪いという考えは決定的に間違い」

です。

なぜなら、CDよりもアナログレコードの方が、もっとたくさんの高周波成分がカットされているから

アナログレコードは15kHz以上の周波数になると徐々に減衰していき、20kHz以上になるとほぼ全カットされているようです。

アナログレコードは高周波成分の記録が「原理的に」可能、という話はその通りですけど、実際に記録されているかは別問題。実際にはアナログレコードの音に高周波成分はふくまれていないのです。

これはカートリッジの性能などの物理的な制約や、RIAA補正といった高周波の音をアナログレコードの溝に刻む時のノイズ低減のためなどの理由からです。

アナログレコードの音は、そもそもマスタリングの段階から高周波成分を削ってしまっています。

②量子化/サンプリング(16bit/44.1kHz)による音の段差

もうひとつの大きな理由、量子化による音の段差について

CDの音はデジタルなので、音のデータが不連続になり段差ができるという考えは間違ってはいないです。

CDのサンプルレート44.1kHzですが、このサンプリングレートで(人間の可聴範囲である12kHz)の音(サイン波)を描画するとこんなイメージになります。

高周波になるほど少ないサンプル数で波形を読み取る必要があり、原音通りの波形の形にならないということですね。
いろんな記事を読むと、15kHzくらいの高周波で人間の耳で波形のギザギザをノイズとして認識できるみたいです。

これはやはりサンプリングというデジタル規格の宿命であり、デメリットと言って良いのかもしれません。

そういう意味では16bit/44.1kHzという規格はスペック的にはもう一歩とはいえるかも。

ただ、こういった波形のギザギザは(シンセの矩形波を聴いた時のように)ある周波数のノイズとなって聴こえるはずです(”ガー”とか”ピー”とか)
ですが「CDの音が悪い」と感じている多くの人は、おそらくCDのノイズについて気にしている訳じゃないと思います。

むしろCDはノイズは少ないと感じているはずで、CDの原理上のデメリットは実際のリスナーにはほぼ気づいていない、無視できるほど小さな差なのです。

またこのサンプリングレートによる段差は、24bit/96kHzなどハイレートサンプリングの音源になると劇的に改善していきます。
ですが、おそらく「CDの音は悪い」という考えている人は、24bit/96kHzの音源を聴いても同じように「CDの音は悪い」と言うのだろうと思います。

「音が良い」はただの「プラシーボ」

「CDは音質が悪い」と考えている人は、なにもウソを言っている訳じゃなくておそらく本当にそう考えているのだと思います。

そう聴こえちゃう理由は簡単にいうとプラシーボ効果ではないか、と個人的には思っています。

「デジタルのCDなんて音質は悪いはず」と頭で思い込んでしまっているので、サンプリングレートの話などCDのデメリットを目にすると、「やっぱりだ!音質が悪いのはこれに違いない、ユーリカ!」と自分で自分の思い込みを補強してしまうのです。

アナログレコードの「温かみ」の正体

ここまで書いて誤解してほしくないのは、わたしは「アナログレコードの音が悪い」と言っている訳じゃないということ。

ただ、CD(=デジタル)の方が「原音に対して正確」だろうとは思います。

そもそもの話、「正確な音」がイコール「良い音」では無いでしょう。

正確な音(解像度が高いと言ってもよい)を出すようにチューニングされたモニターヘッドホンやモニタースピーカーは、楽しんで音楽を聴くリスニング目的には向かないというのはもう常識だと思います。
解像度が高い分だけ楽器ごとの音が分離して聴こえるし、(たとえばハイハットのような)高周波成分がリスニング目的では耳障りに聴こえることも多いです。

音質(=解像度)と「良い音」はまったく別物なんです。

「アナログレコードの音が良い」というweb記事の多くは、このことを(意図的かもしれませんが)ごっちゃにしていると感じます。

前述のようにアナログレコードはハード的・技術的な制約からCDよりさらに多く高音が削られていますが、これが耳障りな高音成分をカットしています。
思うに、この高音カットすることがアナログレコードの「音の温かみ」になっているんじゃないかと思っています。

つまりアナログレコードの音は、

× 「高周波成分をカットしていない → 音が良い

〇 「高周波成分がカットされている → 音が心地よい」

ということですね

それに今回いろいろ調べて感じましたが、音の正確性(=解像度)についても(CDに及ばないとはいえ)アナログレコードは健闘しています。

アナログレコードには「外周と内周の音質差」「スクラッチノイズ」「RIAA補正」などハード上の制約が多いのですが、(コスパはともかく)機材をそろえればアナログレコードのデメリットを補正してリスニングには問題ない程度の音質を得ることもできます。

これは過去の多くのエンジニアの技術力のたまもので、素晴らしいです。

だいたいアナログレコードのスクラッチノイズなんて、しばらく聴いていると脳が音を消してくれて気にならなくなりますしね。(例えば寝る時に時計のカチカチ言う針の音が気になることがありますけど、あの音は脳が必要ないと判断してしばらくすると勝手に聴こえないようにしてくれます)

アナログレコード、悪くない

もろもろを考えても「お気に入りのアルバムはアナログで聴く」という人がいても、別にぜんぜんかまわないとは思います。

古くからの音楽ファンでアナログレコードをたくさん持っている人は、わざわざCDに買いなおすほどでもないとも思いますし。
日本だとブームもありアナログレコードは高額ですが、たとえばアメリカだと中古レコードは数ドルで買えるそう。

ただ「アナログレコードは高音質だから良い」というフレーズは間違いなのでやめた方が良いような。

今後、24bit/96kHzのサンプルレートの音源など、CDよりも(とうぜんアナログレコードよりも)解像度の良いフォーマットで音楽を聴くことも一般的になってくると思います。
実際に、Amazonでは2019年から24bit/96kHz音質での配信サービスが始まっています。
(お試しで高音質配信を利用してみました。さすがに素晴らしい音質で少なくともCDよりは確実に高音質)

こういうデジタルの高音質化の話を聞いて、アナログレコードファンはどう思うんだろ?
「いくらスペックが上がろうが、デジタルはダメ。ダメったらダメ」なのかな?

わたしはCDの音に特に不満はないので、あらためてアナログレコードを買うことはないと思います。

そもそも音楽の素晴らしさは、別にフォーマットとか音質とはぜんぜん関係ないのだと思うのですけどね。

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