ティム・バーン / Big Satan

NY即興シーン最高のアルトプレイヤー

ジャズの中でも、特にNYダウンタウンシーン/アヴァン・ジャズを良く聴くようになったきっかけとなったミュージシャンのひとりが、今日紹介しようと思うアルトサックス奏者のティム・バーンです。
彼くらい1980年代からずっと第一線で活躍し続けているプレイヤーはすごく稀ですし、数少ないレジェンド級のミュージシャンだと思います。個人的には1番好きなサックスプレイヤーですね。

このブログではジョン・ゾーンを取り上げる率が高くて、ティム・バーンはゾーンのオーネット・コールマン曲集『Spy vs Spy』でも共演していて、たまに2人は比較されたりもするのですが、”サックスプレイヤーとしては”ティム・バーンの方が圧倒的に好き。

彼は1954年生まれで(ジョン・ゾーンのひとつ下)、大学に入るまでは楽器演奏に興味がなく、大学に入ってから初めてアルトサックスを購入したらしいです。

もともと彼はR&Bやモータウンを好んで聴いていてジャズにもあまり興味がなかったようですが、1972年リリースのジュリアス・ヘンフィルの『Dogon A.D.』を(18歳)聴いてジャズに興味を持ったようです。このアルバムのR&Bフィーリングが彼がこれまで聴いてきた音楽の趣味にマッチしたみたい。
それにしても、バーンは楽器をはじめるのもジャズを聴きはじめるのもかなり遅かったみたいですね。

バーンは『Dogon A.D.』を聴いたたった2年後にバーンはNYに行き、そのヘンフィルから直接サックスのレッスンを受けはじめたそうで、なかなかの行動力ですよね。
サックス演奏だけではなくシーンで成功するための心得みたいなものも教える、まさにメンターだったよう。

ここであげるのはVijay IyerによるDogon A.D. のカヴァー(オリジナルはアップできる音源がないので)

アヴァンギャルドでありポップ

バーンの演奏は、明確なコード進行やスウィングするリズムなどとは無縁で、バーン自身のサックスもメロディアスなフレーズなどもほぼ無い、あくまでフリーでアヴァンギャルドなスタイル。

一般的に「フリージャズは難解」と言われていますけど、それは自分もその通りだと思いますし、フリージャズを聴くときは「何を演奏しようとしているのか」探るような聴き方になって純粋に楽しんで聴く感じではないです。

その反面ティム・バーンの音楽はアヴァンギャルドでありながら、文句なしに楽しんで聴くことができます。
誤解を恐れずに言えばポップ。

それが、彼が好きだったR&Bフィールがサックスのフレージングに隠されているのか、それとも何かコンポジションのマジックがあるのか、聴くたびに考えてみるのですけどいまだに良くわかりません(たぶんずっとわからない)

ティム・バーン率いるグループ一覧

ティム・バーンは個人名義ではなくて、リーダー的な立場でグループを率いて活動することが多いですね。
いくつものプロジェクトを並行させ、アルバムリリースもかなり多めです。1年に4〜5枚リリースすることもザラ。

主なグループとしては
Caos Totale (Django Bates, Mark Dresser, Marc Ducret, Bobby Previte, Herb Robertson, Steve Swell)
Bloodcount (Jim Black, Marc Ducret, Michael Formanek, Chris Speed)
Big Satan (Tom Rainey, Marc Ducret)
Hard Cell (Tom Rainey, Craig Taborn)
Science Friction (Tom Rainey, Craig Taborn, Marc Ducret)
BBC Trio (Nels Cline, Jim Black)
Snakeoil (Oscar Noriega, Matt Mitchell, Ches Smith)

グループはたくさんあるけれど、参加メンバーは結構重複している感じですね。細かい組み合わせ違いにひとつひとつグループ名をつけているところは「わりかしマメなんだな」と思います。
実質バーンがリーダーなのだから「ティム・バーン・グループ」みたいなひとつの名前にしてしまえば良いのに、、

Big Satan ‎– I Think They Liked It Honey

Tim Berne(as)
Tom Rainey(drums)
Marc Ducret(guitar)

Tom Rainey(drums)とMarc Ducret(guitar)はいくつものグループにまたがってティム・バーンのグループに参加していて、もっとも重要なコラボレーターたちですね。

このBig Satanもそうなんですが、バーンのグループはベースプレイヤーがいないことが多いです。
ベースパートはギターやキーボードが受け持つなんてことも全然無くて、低音部分をバッサリ切り捨てています。
これはもう明らかに意図的で、よりスペースを空けてフリーに演奏できるようにしているのでしょうね。

この3人のトリオだとかなりインプロ率の高い演奏で、もうどこまでがコンポジションなのかインプロなのか良くわからない感じ。
3人とも「1音たりとも意味のない音は鳴らさせない」という高いテンションでプレイしていて、
レイニーもデュクレも苦悶の表情を浮かべながら演奏していますね、、

それにしてもトム・レイニーは唯一無二。音のバラエティというか、この変なグルーヴ感はクセになります。
もう他のミュージシャンの音に敏感に反応するあまり、おかしな叩き方になってしまっていますね。
いや、もう彼は最高です。好きなドラマーベスト5に入れても良いかも。

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