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ミュージシャンがSpotifyから得る収入

Spotifyは利益をどのように音楽家に分配しているのか?

先日、Spotifyによって変わる ” 音楽の聴き方 という投稿を書いたのですが、今回はその続き。
ミュージシャン側の目線で、Spotifyから分配される収益(お金)について書いていこうと思います。

これを読むと、やっぱりSpotifyを解約したくなるかも。

ドレイクやアリアナ・グランデにお金を払ってるんじゃない!

Spotifyなどのストリーミングサービス(サブスク)は、従来のミュージシャンの収益構造を全くと言っていいほど変えてしまいました。
CDなどのメディアに取って代わり、サブスクがミュージシャンに利益を生み出してくれる主要なメディアになったのです。

ただ、サブスクの利益が支払われる仕組みについてはこれまでにもさまざまな議論がありました。

例えばRolling Stone誌の記事

この記事にあるミュージシャンへの収益分配方法について簡単に説明すると、、

Spotifyは月額使用料などのサービスの収益をいったんひとまとめにして、そこからSpotifyの取り分(30%)を除き、残りをミュージシャンの取り分として分配する。

というもの。

ミュージシャンの取り分全体から個々のミュージシャンへは、「月の再生回数の割合」にしたがって分配していく、という方式。

https://gigazine.net/news/20131205-spotify-explained/

具体的な例をあげると、Spotify全体の再生回数のうちドレイクの曲が2%再生されたとしましょう。
そうすると、ミュージシャンの取り分全体の2%がドレイクに支払われることになります。

ここで重要なのは、分配の割合は「再生回数」によるということ。

ここはすごく重要なのでもういちど。いいですか?

再生回数が基準なのです。
「再生した人(アカウント)の数」ではないんです。

これはつまり、ひとりのリスナーが(例えばドレイクを)ヘビーローテションして繰り返し再生した場合、その毎回の再生がすべて1再生としてドレイクの取り分へカウントされることになります。

この方式は従来のCDなどのフィジカルメディアによる収益構造とはかなり様子が違います。

CDの場合だと、ひとりのリスナーが曲を何回くりかえし聴こうがミュージシャンに渡るのはCD1枚分のロイヤリティーのみでした。
ミュージシャンの収入はそのアルバムが何枚売れたかによって決まりますし、その収入は他のミュージシャンがどれだけアルバムを売り上げようが関係なかった。

しかしサブスクの場合は違います。

ミュージシャンへ渡るお金は、ミュージシャンへ分配されるお金全体からのパイの取り合いになります。
ポップスターに多く分配されるということは、それはつまりマイナーミュージシャンの取り分が減ることを意味します。他人の売り上げ(再生回数)が自らの収入に深く影響してしまうという状況です。

そしてここで重要なことは、メジャーなポップスターほど、リスナーが同じ曲を繰り返し聴く傾向にあるのです。

つまりSpofityのこの分配方法は、ヘビーローテーションされることの多いメジャーなポップスターが得をするシステムだということ

サブスクの大きな問題点(=ミュージシャン側からの不満点)は、まさにここです。

ミュージシャンに不評のSpotify分配方式

かつては、Spofityに代表されるサブスクはミュージシャンからは目の敵にされていました。
多くのミュージシャンがSpotifyへの曲の提供を拒んでいた時期もあります(英文記事はこちら

その中で、特に強硬にサブスクに反対していたひとりがレディオヘッドのトム・ヨークです。
彼ははかつて「弱小レーベルや新人アーティストに十分な報酬が入らない」としてSpotifyを批判していました。

このトム・ヨークの主張は全く正しい認識です。そして重要なことはその問題点はいまも解消されていないのです。

そんなトム・ヨークは今では自身の音源をサブスクで公開していますが、、あれ?

余談ですが、自身が指摘したサブスクの問題点は放置されたままなのに、自分の抗議などまるで無かったみたいに配信を解禁しちゃうトム・ヨークの振る舞いは、いまにして思うとやっぱりダサかったのだと思いますし、実際に多くのファンを失望させもしました。

Spotifyの方式だと、Spotifyの収入じたいが増えれば(いまのところ年々増えています)ミュージシャンへの分配額の総額も増えていきます。
トム・ヨークのように「最初は反対していたけれども最終的には配信を解禁してしまった」理由はけっきょくSpotifyからの分配金が無視できないほど高額になってきたからなのでしょう。
キレイゴト言ってても「けっきょくカネなのか」と幻滅してしまいますよね。

どちらにしろ、いまのストリーミングはメジャーなポップスター以外(つまりはほとんどの)ミュージシャンにとってはまったく満足できない状況になっています。

ポップスターは手放せない 〜ユーザー重視の分配方法とは〜

「音楽はアートであってカネ目的のプロダクト(商品)ではない」と、多くの音楽リスナーは思っているはずです。
そのアートの担い手であるミュージシャンへは「公平に」その対価が支払われるべき、とみんな思うでしょう。

この「公平な」分配方法について、Spofityの競合会社であるDeederは「User-Centric Payment System(ユーザー重視の支払いシステム)」を提唱しているようです。

この分配方法は、リスナーそれぞれがどのミュージシャンをどれだけ聴いたかによって、そのリスナーが払った金額(月額使用料)を分配するシステムのこと。

つまり、もしあるリスナーが1ヶ月まるまるドレイクだけしか聴かなかったら、その人の月額使用料(約980円)は(サービス会社の取り分を差し引いて)全てドレイクに支払われるという方式です。
同じように、あるリスナーが自分の好きなマイナーミュージシャンだけを1か月聴き続ければ、そのリスナーの月額使用料はとうぜん全額そのマイナーミュージシャンにわたる仕組みです。

ひとりひとりのアカウントと支払い先を紐づけて管理する方式ですね。

「公平さ」は誰も幸せにしない

このDeeder社の分配方法は、確かに「公正」であることに間違いはなさそうです。

ただ問題もあります。

Rolling Stone誌の分析にもあるように、アカウントごとの管理は膨大なコストがかかるのです。

配信サービス会社にとってシステムの管理コストが増えると、それを補うために当然ミュージシャンへの分配額を減らすか、月額使用料をあげる必要が出てくるのです。
ミュージシャンへの分配額が減れば、楽曲ひきあげなどミュージシャンのサブスク離れを引き起こしますし、また使用料の値上げはユーザー離れにつながります。
そうなれば収益システムの存続そのものをおびやかす事態になります。

「公正な」分配は、配信サービス会社も、ミュージシャンも、リスナーも、誰も幸せにしないのです。

「公正な」分配にしたとしても、自分のお金の使われ方にモヤモヤしてるごく一部のリスナーが「スッキリする」くらいでしょう。

じゃあどうするのさ! 「再生アカウント数」の方がまだマシ

「ユーザー重視」の「公正」な分配方法もイマイチなら、じゃあどうすれば良いのか?

個人的には曲の「再生回数」ではなく、曲を再生した人の数(アカウントの数)の割合で分配する方がまだ良いのだと思いますね。

1人のリスナーが何回繰り返し聴こうが、その曲の再生回数にカウントされるのは+1のみにするという方式。
2回目以降の再生をノーカウントにするだけなので、特に管理コストが増えることもないでしょう。

この方式だと、ヘビーローテーションされるメジャーアーティストの分配割合が下がり、相対的にマイナーなミュージシャンに有利な分配方式となります。

実際のところ、この方式を採用するとメジャーなポップスター(とその所属レーベル)の反発も予想されて実現は難しいかもしれません。
サブスク会社も、そりゃメジャーアーティストの意見を重要視するでしょうし。

ですが、リスナー全体に「マイナーミュージシャンにいまより多くの分配を!」という機運が高まれば、ポップスターも折れるかもしれません。

ポップスターはすでに巨額の富を得ているのだし、制度上の格差是正は必要なことだと思います。

音楽市場の衰退とSpotifyの台頭

音楽全体の売上としてはちょうど2000年くらいがピークで、そこから徐々に減少に転じていて、今もずっとその傾向は続いています。

音楽じたいが聴かれなくなっているとも言えますが、この減少には「違法ダウンロード」による影響も大きなウェイトを占めていました。
これは違法ダウンロードの問題は、音楽リスナーによるミュージシャンへの大きな裏切りだったと言えます。

違法ダウンロードについては「いや、あれって一部のモラルの低いリスナーの悪行だし。自分たちはちゃんとCD買ってるし」と考えている人は多いと思います。

ただ、2000年代後半のDRMフリー音源の解禁や、日本でのコピーコントロールCDの衰退は、「コピーガードめんどくさい」と考えるリスナーが、ミュージシャンの権利を守ることを放棄してしまったようなものです。

多くの一般リスナーも、大きな声をあげることなくいわば傍観していたことになり、音楽リスナーみんなに責任のある問題なのでしょう。

違法ダウンロードを人質に取るSpotify

違法ダウンロードの存在とサブスクの広がりは無関係ではないです。むしろ違法ダウンロードがあるからこそサブスクが成長してきた、とも言えます。

たとえばすでにSpotifyを使っているのに、手間をかけて面倒な違法ダウンロードをする人は少ないでしょう。
違法ダウンロード対策にサブスクの普及は有効だという意見もあります。

ただ、この話が成り立つのも、サブスクの月額使用料が「違法ダウンロードするくらいなら払っても良い」と思わせるほど低い金額だということ。

ミュージシャン側もサブスクの分配方法に納得しているわけじゃないと思います。音楽業界全体に入る収入はCD時代よりも少ないのは確かですし。
「違法ダウンロードされるくらいなら、サブスクサービスからわずかな収入でも得た方がまだマシ」と、ミュージシャンがしぶしぶ受け入れさせられている状況にも思えます。

ただ、ここで忘れてはいけないのはこういった状況を作ったのはサブスク会社ではなく、(違法ダウンロードを黙認してきた)他ならぬリスナー自身だということ。

音楽にお金を払わないリスナー

ミュージシャンを取り巻く環境の本質的な問題は、分配方法だとかそういう些細な話ではなく、リスナーが音楽にお金を払わなさすぎということなんだと思います。
本来音楽を聴くために払うべき対価を支払わず、それが当たり前だと感じてることが問題。

違法ダウンロードと違って、サブスクを使うことにうしろめたい気持ちを感じてる人はまれでしょう。だってミュージシャン公認のサービスなのだし。

ただ、違法ダウンロードする人もサブスク利用者も、どちらもミュージシャンにとっては同じような「お金を払うことを渋る」リスナーに見えているのかもしれません。

Spotifyの生き残る道

ここまでの話から、Spotifyのようなサービスがミュージシャンにとって理想の音楽の届け方ではないのは確かなようです。
だからこそ、いまでもなおサブスク配信を拒否するミュージシャン、レーベルはたくさん存在するんです。

もしこのままサブスクの利用者が増えつづけて総収入が増えていくと、パイが大きくなりミュージシャンへの分配も増え、ミュージシャンから不満は減ってくるかもしれません。

ただ、いまのところサブスクサービスは拡大傾向にありますが、どこかで頭打ちになる可能性はあります。
もしかすると(例えばBandcampのような)アーティストフレンドリーな配信方法が主流になり、Spotifyに取って代わるかもしれません。ちょうど、itunesなどのダウンロード販売がサブスクに取って代わられたように。

なんといっても音楽を作っているのはミュージシャンなのだし、ミュージシャンが満足しないシステムが廃れていくという可能性は十分あります。

お金をほぼ払わなくても無制限に音楽が聴ける、そんな「いびつ」な状況がずっと続く保証はないことは音楽リスナーは頭にとどめておいた方が良いかもしれません。

追記

今回はSpotifyを例にサブスクサービスのロイヤリティの支払い方法について書きましたが、そのルールは実際はサービスごとに細かく異なっています。

続編として、主にSpotifyとApple Musicの比較をしつつ、もう少し詳細なルールについて書きました。