ハリス/ ゾーンの曲をペトラ・ヘイデンが歌う

Tzadik 2020年8月のリリースはシンガー/作曲家であるペトラ・ヘイデンのアルバム『Songs for Petra』

彼女が、ジョン・ゾーン作曲、ジェシー・ハリス作詞のナンバーを歌うというコンセプトのアルバムです。
Tzadikレーベルなのでサブスクは無し(itunesでは購入可能)

Personnel
Petra Haden (Vocals)
Jesse Harris (Acoustic Guitar, Keys, Background Vocals)
Kenny Wollesen (Drums)
Julian Lage (Guitar)
Jorge Roeder (Bass)
Composition(John Zorn)
Lyric(Jesse Harris)

ジェシー・ハリスはバッキングギターとして参加、そしてジュリアン・ラージ・トリオという豪華すぎるミュージシャンがバックを務めています。

『Song Project』(2014)

今回のアルバムこのコンセプトは、これまでのいくつかのプロジェクトから派生して生まれているようです。
もっとも直接的には、ジョン・ゾーンのアルバム『Song Project』(2014)の延長線上にあるアルバムと言えそうです。

この『Song Project』というアルバムは、ゾーンがヴォーカル入りの曲を書き、それをゾーン周辺のミュージシャンが演奏するというコンセプトで、マイク・パットン、ソフィア・レイ、ジェシー・ハリスという3人のヴォーカリストが参加していました。

ジェシー・ハリスはノラ・ジョーンズの「Don’t Know Why」の曲を書いておりコンポーザーとしてもことでも有名なのですが、ここでは作曲はゾーンにまかせ、シンガー/作詞家としての起用ですね。

このプロジェクトは、おそらくゾーンは誰が歌うかを想定して曲を書いたと思います。
マイク・パットンが歌う曲などはハードでエッジーな感じで、ゾーンのアヴァンギャルドサイドに近い曲なのですが、ジェシー・ハリスのために書かれた曲は逆にSSWっぽいシンプルでフォーキー。

こういう曲をゾーンが書いてメロディーメーカー的な側面を聴かせてくれるというのはかなり新鮮でしたね。
おそろしく多岐にわたっているゾーンの音楽活動の中でも、こういう曲はかなりレアな気はします。

この『Song Project』の中で歌われたゾーンとハリス共作の3曲が、今回の『Songs for Petra』でも再演されています
(The Wind In The Clouds/ Kafiristan / Waiting For Christmas)
他の曲のほとんどはおそらく今回のアルバム向けに書かれたものじゃないかな、と(過去にライブとかで演奏されているかもしれないですが)

ゾーンのアルバムを時系列で眺めても『Song Project』もけっこう唐突にはじまった気がして、何かこのあたりにゾーンの心境の変化があったのかな?
コーエン兄弟がニューヨークのSSWを描いた映画『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』(良い映画!)がちょうど2013年で同じくらいなのですが、この時SSWシーンが盛り上がっていたとかあったのかも?

ジェシー・ハリスはその後ブラジル音楽に接近したりと、幅広い音楽活動を行っていますが、『No Wrong No Right』(2015)というアルバムではジュリアン・ラージと共演していて、このアルバムも今回の『Songs for Petra』につながるアルバムと言えそうですね。
このアルバムには『Song Project』でもヴォーカルパートを分け合ったソフィア・レイも参加しています。(なぜかサブスクでは聴けない)

ジャズサイド・オブ・ペトラ・ヘイデン

このアルバムの主役とも言えるペトラ・ヘイデンは、ジャズ・ベーシストのチャーリー・ヘイデンの娘。
かつてはロサンゼルスでThat Dogというオルタナティブロックバンドに在籍していたりと、かなり多彩な音楽キャリアを持っている人のようですね。
これまでにFoo Fighters, Green Day, Weezerといったスタジアム級ミュージシャンや最近話題になったSunn O)))などとも共演しているよう。

彼女は女性3人の三つ子として生まれて3人ともミュージシャンとして活躍しています。That Dogは三つ子の姉妹レイチェルも参加していましたし、三つ子みんなで「Three Triplets」という名前のフォーク/カントリーグループでの活動もあるようです。(Three TripletsでTiny Desk コンサートにも出てる)
ちなみに三つ子のうちのひとり、Tanyaはコメディアン/俳優のジャック・ブラックと結婚したりしています。

ペトラ・ヘイデンはそういう多彩な活動歴のミュージシャンですが、ジャズミュージシャンとの共演も多く、最も有名なのがギタリスト、ビル・フリゼールとの共演かなと思います。
『Petra Haden And Bill Frisell』(2004)というアルバムでいちどフリゼールと共演しています。ギターとヴォーカルのデュオということで、フリゼルとエルヴィス・コステロの『Deep Dead Blue』などを連想させます。
『Petra Haden And Bill Frisell』で演奏される曲も既存曲のカバーがほとんどで、セッション的な一発録りに近いレコーディングだったんだろうと想像します

ちなみにビル・フリゼールとペトラの父親であるチャーリー・ヘイデンは、共演歴も多いですね(ポール・モチアン・トリオ『On Broadway vol.1』とか、ディビッド・サンボーン『Another Hand』とか)
ペトラが幼いころから面識があっても不思議ではない感じです。

で、そんなペトラ・ヘイデンですが、ジェシー・ハリスとは共演アルバム『Seemed Like A Good Idea』(2016)にリリースしています。
ジェシーとペトラは、ギタリストであるアンソニー・ウィルソンのライブにお互いがゲスト出演したことから意気投合したとのこと。
ペトラはL.A、ジェシーはN.Yをベースに活動しているためなかなか機会がなかったけど、このアルバムでやっと共演を果たすことができたみたいです。
この『Seemed Like A Good Idea』は、ゾーンの『Song Project』とならび今回の『Song for Petra』につながる重要なアルバムですね。

こちらの『Seemed Like A Good Idea』はジェシー作曲のアルバムということで、ミディアムテンポよりメランコリックなすばらしい曲が並びます。
ジェシー・ハリスのヴォーカルというと個人的には声質がちょっとアレなので、ペトラ・ヘイデンが歌うというのはすごくマッチしていると思います。

また、このアルバムに収録されている「It Was Innocent」という1曲はジョン・ゾーンの曲。
『Song Project』には収録されていない曲なのですが、この時に書かれたけどレコーディングはされなかった曲なのかも。
なぜ収録されなかったのか謎なくらい、名曲中の名曲だと思います。ゾーンのメロディーメーカーとしての力量を示した曲。
この「It Was Innocent」は『Songs for Petra』でも歌われていて、アルバムのベストトラックかも。

この『Seemed Like A Good Idea』を機にペトラとジェシー・ハリスは交流を続けているようで、
2019年にフリゼールがリリースした『Harmony』ではペトラ・ヘイデンが大きくフィーチャーされているのですが、このアルバムの中で「There Is A Dream」というJesse Harrisの曲を歌ったりしていますね。

『Songs for Petra』は、ジョン・ゾーン、ジェシー・ハリス、ペトラ・ヘイデンというさまざまなプロジェクトで交流があった3人の活動の集大成的な内容とも言えるアルバムですね。
必聴のアルバム。

最後にここで名前をあげたアルバムから、3曲選んだリストです

おまけ

最後にジョン・ゾーンの誕生日を祝う、ペトラ・ヘイデンのtwitterの投稿を

見た瞬間「ゾーン、ちょっと太った?」とタモリさんみたいな感想も持ったのですけど、いつもクールなゾーンとは違ってごきげんですね。

ペトラさんはSNSはFacebookメインみたいですけど、いっしょに写っているミュージシャンもみんな笑顔で楽しそうで、すごくオープンマインドで気さくな人なんだなぁってわかります。