リターン・オブ・チャーリー・ハンター!

 

サム・フライブッシュ(Sam Fribush)というオルガン奏者の名前を聴いたことのある人はほぼいないと思いますが、今年2021年にリリースされた2枚のアルバム『Vol.I: Riverboat』と『Vol.II: The Root』は、オルガンジャズのカッコよさが詰まった素晴らしい作品。

サム・フライブッシュはニューイングランド音楽院で本格的にジャズピアノを学んだプレイヤーで、卒業後はニューオリンズで演奏をしていたという経歴の持ち主。
ブラックミュージックのフィーリングに加えて、さりげなくハイテクニックを混ぜて聴かせてくれるプレイヤーです。

このアルバムはフライブッシュがリーダーのアルバムなのですが、ギターとプロデュースでチャーリー・ハンターが参加しています。

Personnels
Sam Fribush – organ
Charlie Hunter-guitar
Geoff Clapp-drums

このメンバーによるレコーディングも、コロナ禍が生んだと言っていいかもしれません。
フライブッシュは、新型コロナの影響でニューオリンズのライブの全て無くなってしまったため、生まれ故郷のノース・カロライナ州グリーンズボロに戻ってきたそうで、そこで数年前にニューヨークからグリーンズボロに移住してきていたハンターと出会ったそうです。

取り上げている曲のバラエティも豊か。
ジャズ・スタンダード(ユセフ・ラティーフの「Plum Blossom」、ビリー・ストレイホーンの「A Flower is a Lovesome Thing」)、ニューオリンズの名曲(アラン・トゥーサンの「Riverboat」、エリス・マルサリスJr.の「Swingin at the Restoration」)、70年代のR&B(ビリー・プレストンの「Will It Go Round in Circles」、インプレッションズの「We Must Be in Love」)、ボニー・レイットの「Let’s Give Them Something to Talk About」などなど。

チャーリー・ハンターはディアンジェロの『Voodoo』に3曲参加していたことから、このアルバムの「Root」という曲を取り上げてたりしています。
アラン・トゥーサンや(今年亡くなった)エリス・マルサリスの曲を取り上げたのは、フライブッシュによるニューオリンズという街へのオマージュですね。

”ギタリスト”として戻ってきたチャーリー・ハンター

このアルバムの聴きどころは、なんといってもチャーリー・ハンターのギター。

正直ハンターのアルバムは、『Ready…Set…Shango!』『Bing, Bing, Bing!』といった初期の作品を除いてあんまりで好きなのは無かったのですが(そういう人は多いと思う)、このアルバムでのハンターのプレイは抜群に良いですね。
難しい演奏はやっていないのかもしれないですが、ノリの良さは「さすが」という感じです。

ハンターといえばかつては8弦ギターが代名詞で、レスリースピーカーのエミュレートしたエフェクトを使い、「ギターに加えてベースを同時に弾く」というまさにオルガン奏者のようなプレイを指向していたのですけど、近年は路線変更していて、まずは7弦ギターになり、いまではついに通常の6弦ギターを演奏しています。ハンターってもともと手は小さいですし。

ハンターが今回のようなオルガントリオでギターを演奏するというのは、実はけっこうめずらしいんですね。
(強いていうなら『Baboon Strength』というアルバムがあるのですが、これはオルガンジャズというより特殊なシンセ音を多用したかなり「変」なアルバムでした)

ベースパートを受け持つことをやめ「ギター」を弾くことに専念したハンターのプレイは、のびのびと開放感にあふれていてすごく良いです。

リターン・オブ・ファンクジャズ

このアルバムはジャンル分けでいうとファンクジャズになるのだと思いますが、最近はあまりこういうタイプのアルバムは聴けないですね。

ジャズオルガンの演奏というと、ジョーイ・デフランセスコで、彼の印象が強すぎるのかもしれないですけど、ああいったテクニカルで、ピアノライクな演奏が多いように思います。(実際ピアノも合わせて弾くオルガン奏者も多いですし)
ラリー・ヤングとかの系譜になるんですかね。

このジャズファンクを演奏するグループは、かつて「ジャム・バンド」ブームですごく人気があったようです。時期でいうとだいたい2000年くらい。ぜんぜん記憶ないですが。
このジャムバンドブームは当時のブルーノートがプッシュしていたみたい。
代表するグループはメデスキ・マーティン&ウッド(MM&W)なのですけど、ジョン・スコフィールドもグループにオルガン奏者を入れたりしていました。チャーリー・ハンターも(ブルーノート所属で)ジャムバンド的な扱いをされていたような。

ただ、こういった「ブーム」にも功罪あると思いますが、結局のところブームが去ると(音楽の良し悪しにかかわらず)飽きられてしまったのは確かでしょう。

ジャムバンドブームが去ることで、MM&Wもチャーリー・ハンターも、それまで演奏していたストレートなファンクジャズを止めてしまったようでした。
MM&Wの活動はジャム・バンドブームの後もけっこう続きましたけど、特にメデスキなんて途中からMM&Wでのアルバムづくりに興味を失っていたんじゃないかな、とも思うんです。各メンバーの音楽性も広いので、ジャムバンド風の固定イメージを持たれることがイヤだったんだろうと思います。

ただ2021年にもなりジャムバンドブームからもう20年近くも経ってリスナーの世代がひと通り入れ替わっているので、チャーリー・ハンターなども改めてオーソドックスなジャズファンクをプレイする気分になったのかも。

ジョン・メデスキも2018年にスーザフォン奏者カーク・ジョセフとドラマーのテレンス・ヒギンズという元ダーティ・ダズン・ブラス・バンドのメンバーと、T.J.Kirkにも参加していたギタリストのウィル・バーナードとともにJohn Medeski’s Mad Skilletというジャズファンクグループを作っていて、近年にないくらいオルガンを弾きまくって楽しそうなメデスキを聴くことができますよ。

追記

チャーリー・ハンターとサム・フライブッシュ・トリオでも共演したドラマーのGeoff Clappの2人は揃って、サックス奏者Petr Cancuraのアルバム『Don’t Let It Stop!』に参加していて、こちらのアルバムも今年2021年にリリースされていました。

こちらはサックス/ギター/ドラムによるトリオなのですが、ハンターはかつてのオルガンライクなバッキングに徹していてどこか演奏しづらそうな印象で、ちょっとイマイチかも。
比べるならサム・フライブッシュ・トリオのアルバムの方が断然好きですね。メンバーひとり変わるだけでこうもアルバムの印象が変わるというのも面白いです。