2021年8月に茨城・国営ひたち海浜公園で行う予定だった音楽フェス『ロック・イン・ジャパン・フェスティバル 2021』の開催中止を発表しました。
この件は総合プロデューサーを務める渋谷陽一氏が中止にいたった経緯を公開したことで、ニュース番組にも取り上げられ、菅総理に記者会見で直接質問が飛ぶほど注目を浴びました。
出演予定だったアーティストがさまざまな反応をみせており、ニュアンスは違えど全員が「残念だ」といったコメントをしています。
このような世間の反応はwebにあふれていますので見ていただくとして、ここでは「やっぱり中止は当然の流れだったんじゃないかな?」というわたし個人の感想について書きます。
中止に至った経緯
フェス中止の判断にいたったのは、茨城県医師会が主催者である地元ラジオ局「茨城放送」本社を訪れ、中止検討を求める要請書を渡したことがきっかけとなっているようです。
医師会が渡した要望書の内容は
1 今後の感染拡大状況に応じて、開催の中止又は延期を検討すること。
2 仮に開催する場合であっても、更なる入場制限措置等を講ずるとともに、観客の会場での行動を含む感染防止対策に万全を期すこと。
となっています。
この要望を受け、
「いまこの時期に中止の要望を出されても損害額が大きく対応は難しい」
「今から観客数を減らすことは再抽選を行うことは参加者との信頼関係は失われてしまいます。そうしたことは私たちはすべきではないと考えています。また時間的にも再抽選に現実性はありません」
「医師会からの要請に十全に応えることは今の私たちにはできません。残念ですが中止以外の選択肢はありませんでした」
といった判断から中止に至った、と渋谷氏の投稿文には書いてあります。
このフェス中止に関しては残念に思う人が多いことも理解できますし、茨城県医師会のやり方に納得できない人が多くいることも理解できます。
ただ1点、この中止発表直後に飛び交った「オリンピックは開催するのにフェスは中止するのか!」という意見については感情論でしかない意味のない議論なのかな?とは思っています。
オリンピックについては、東京医師会が同じように中止もしくは延期の意見書を出していましたし、直後にオリンピックは無観客と決まった訳なので、別にオリンピックが特別優遇されている訳でもないとは思いますので。
医師会は何を求めていたのか
医師会が出した要望書については、簡単に言うと「1.中止または延期の検討」と、「2.中止できない場合はさらなる入場制限の措置」が出された訳ですが、このように2つ並べているところから判断すると、医師会の要望の本命は「2.さらなる入場制限の措置」だと思われます。
要は「入場者をもっと減らせ」、ということ。
もしこのフェス中止の話題に興味があってこの投稿を読んでくれた人はですね、ここでひとつ質問をするので、いったん読み進むのをストップして答えを考えてほしいんです。
【質問】
”ロック・イン・ジャパンは、いったいどれくらいの観客が入る予定だったのか?”
どうですか?この答えを思い浮かべてから読み進めてもらいたいです。
野外フェスのガイドライン
このコロナ禍にあって常にイベント制限の話が話題になるなか、ロック・イン・ジャパンのHPを見ても明確に入場者数は書いていないわけです。
チケット販売数から観客の数はかなり正確に把握できるはずなのに、です。
渋谷陽一さんの投稿では、入場者は「例年の半分」という表現をしています。
そう聞くとシンプルに 「例年の半分」 ってどんだけ? とまず思うわけですよ。
そこでちょっと計算してみました。
ロック・イン・ジャパン2019は5日間で合計約33万人が来場しています。これは一日あたりでは約6万人相当。
この半分とすると、2021年は1日あたり3万人以上の来場を見込んでいたことなります。
3万人。
「マジですか?」というのが率直な感想です。
屋外とはいえ熱狂する若者が3万人以上も首都圏から押し寄せてくるって、地元の人からしたら恐怖じゃないですか?
この数字で開催します言って、とても地元の理解を得られるとは思えません。
ここまで読んで「3万人での開催ってホント?ガセじゃない? 政府の野外イベントのガイドラインって5千人とかじゃなかった?」と思う人もいるかもしれません。
たしかにまん延防止期間中の野外イベントの上限は5千人ですよね。(こちら )
(制限解除後の経過期間でも上限1万人とかです。すでに発売されたチケットに関しては免除だったりとか例外もあるようですが)
ロック・イン・ジャパンの観客数上限については正式発表の数は見当たらないのですが、じつはどこかで発表されている数字をわたしが見落としている可能性はあります。
もしそうであれば訂正しますが。
ただ、「実は3万人もの多くの観客でフェスを開催しようとしていたのでは?」と思うのには、「例年の半分」という言葉の他にもうひとつ根拠があります。
それは2021年のゴールデンウィークに千葉市で開催された、同じロッキング・オン・ジャパンが主催した「Japan Jam」の入場者についてです。
ゴールデンウィークはちょうどイベントの規制が解除されたタイミングで、当時「やっと1万人まで緩和された!でも感染対策って本当に大丈夫?」 といった論調の報道が多かったのでおぼえている人も多いと思います。
ですが「Japan Jam」は、(わたしも全然知らなかったのですが)発表から開催までの間にチケット販売の上限を2万人に緩和していたそうです。
ホームページから引用しますと
JAPAN JAM 2021のステージ観覧エリアは合計約8万平米です。一番大きなSKY STAGEだけでも約4万平米の広さがあります。現在多くのフェスが、開催にあたりガイドラインに従って1平米あたり1人という運用をしています。それらを踏まえて、十分に余裕がある人数として、JAPAN JAM 2021では収容人数の上限を2万人としました。
前回開催時は1日あたり約3万7千人の方が参加しました。多くの参加者の皆さんが、とても余裕のあるフェスだという感想を発信されていました。2万人はその約半分となります。より確実な新型コロナウイルス感染症対策が実行できると考えています。
http://japanjam.jp/2021/info/1729/
この「1平米あたり1人」というガイドラインがなんなのか良くわからないと思いますが、これは政府が出している野外イベントの基準のひとつです。
ちなみに東京ドームは46755平米ですが、このガイドラインに照らすと東京ドームのスペースに46755人が入ることができる計算です。
野外のイベント会場なら3万人だって4万人だっておそらく入れることができそうな基準です。
ですが、これを音楽フェスに適用するのはかなりグレーな運用と感じます。
少なくとも「多くのフェスが運用している基準」とか言っちゃうのは、さすがに言い過ぎだと思います。
同じ時期に開催した「VIVA LA ROCK」だって1日当たり1万人の上限だったようですし。
もともとこの「1平米あたり1人」という基準は、花火大会やお祭りなど、どれだけの人が押し寄せるか事前に把握できないイベントについて、「これくらいの間隔で距離を空けるような会場運営をお願いします」という目安として設定されているもののはずです。
この基準を、チケット販売で人数が制限できるイベントに適用するのは本来はおかしいはず。
野外フェスは、やはり「上限5000人(もしくは1万人)」と総数で判断する方が正しいように思います。
このように謎ルールで2万人もの観客を入れようとしていたJAPAN JAMですが、実は直前になってチケット上限を2万人から1万人に減らしたということです。(2021年4月9日JAPAN JAM事務局のお知らせ)
これはもしかするとJAPAN JAMも2万人という入場者にどこからかクレームが入ったのかもしれません。
「1平米あたり1人」みたいなイレギュラーな基準は世間的には受け入れてもらえないと判断したのかも。
この経緯から考えると、ロック・イン・ジャパンは、JAPAN JAMではうまく行かなかった数万人規模の開催を再度トライしたのだけど、やっぱり横やりが入ってしまったということですかね。
JAPAN JAMの2万人しろロック・イン・フェスの3万人にしろ、まん延防止措置中の野外イベントでこの観客数を聞いて不安を感じない人はいないんじゃないでしょうか。
3万人よりもっと観客が少ないオリパラのパブリックビューイングでもあれだけの反対があったくらいですから。
茨城県医師会がどういう数を念頭に置いて要請したかは定かではありませんが、観客数を減らす要望を出したことは、ある意味当然じゃないのかな、というのがわたしの印象です。
なぜ観客を減らして開催できなかったのか
渋谷陽一さんの説明でもうひとつピンと来なかったのは「観客を減らせない理由」についてです。
「再抽選は参加者との信頼関係は失われる。すべきではない」ということなのですが、本当にそうなのでしょうか?
そもそも、JAPAN JAMでも2万人だった観客数を1万人に減らしたという例もありますし。
新型コロナの感染者増と緊急事態宣言の理由により、すでにチケットを入手したファンに「申し訳ありませんでした」と言って予約を無効にすることは、そこまでファンの信頼を損なうことなのでしょうか?
実際、JAPAN JAMで多数の落選者が出たことが問題になったという話は聞いていません。
確かに参加できると喜んでいた人にしてみればガッカリだと思いますが、事情が事情ですし、多くの人は納得してくれるものだと思いますけど。
「時間的にも再抽選は現実的でない」という説明もよくわかりません。
JAPAN JAMは観客数を減らす方針を決めてから開催まで約2週間前しかありませんでしたが、そこから観客を減らして開催できています。
JAPAN JAMは観客数を減らす決定をしたのに、ロック・イン・ジャパン・フェスが中止という選択をしたのは、やはり中止を選択した方が良い事情があったんだと想像はできます。
このあたりの理由については渋谷氏のコメントは納得できる説明になっていない気はします。
もし「音楽を止めるな!フェスを止めるな!」という気概を持っていたなら、JAPAN JAMみたいに観客数を1万人に減らしてでも開催すれば良かったのだと思いますよ。
実際のところはわからないですが、おそらくシンプルにお金の話で、ロック・イン・ジャパンは観客数を減らすより中止にした方がまだ損害が少ないという判断だったのだと思います。会場使用料その他イベント運営にかかる費用もいろいろでしょうし。
フェスだって興行ですので、そこまでの判断ができなかったことは理解できます。「音楽を届けたい」という気持ちだけで数億規模で損害が増えることは受け入れられなかったのでしょう。
こういった経緯を見るにつけ、医師会が要望を出したことも、運営側が中止の判断をせざるを得なかったことも、どちらも仕方なかったことなのだと思います。
コロナの感染者数や緊急事態宣言がどうなるかは誰にもわからなかったことなので、そういう状況でのフェスの運営はある意味ギャンブルで、ロック・イン・ジャパンはそのギャンブルが悪い方に転がってしまった、という事なのだと思いますね。
追記
フジロックについては1日2万人規模でやるのでは?という推測がSNSに流れていました。
フジロックも観客数に関しては
「来場人数を減らし人と人との間隔を十分に保てる来場者数で行います」
と、ぼかしているのであくまで推測になるのですが、この2万人という数字はありえそうな数字ではありますね。
フジロックは2019年には1日4万人の観客数だったとのことです。
フジロックがロック・イン・ジャパンと大きく違うのは、苗場がまん延防止等重点措置の対象外であるため規制もゆるいということですね。自治体の判断なのでしょうけど、収容人数の50%というガイドラインが適用できるのかもしれません。
フジロック会場の収容人数って微妙ですが「去年の観客数の50%で2万人です」といえば、ガイドライン上からも納得感のある数字で、「十分感染対策が取れる人数です」と言える数字だと思います。