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なぜプリンスの”新作” 『Welcome 2 America』を買うべきではないのか?

今回の投稿は雑談

2021年7月30日にリリースされるというニュースが先日アナウンスされていた、プリンスの”未発表”アルバム『Welcome 2 America』についてです。

2016年にプリンスが亡くなって以来、ペイズリー・パークの金庫に収められていた(莫大な価値を持つ)数千とも数万ともいわれる過去音源について、誰がどのように管理するのか遺族や関係者の間での長いゴタゴタが続いていました。
ですが2017年には、タイカ・ネルソンらプリンスの兄弟姉妹が遺産を相続することを正式にミネソタ州の裁判所認め、元レディー・ガガのマネージャでSpotify重役だったトロイ・カーターと、彼に雇われた元ワーナーブラザーズのA&R重役マイケル・ハウが、ペイズリー・パークに保管されていたプリンスの過去の音源の発掘をはじめました。

すでに遺産管理団体(プリンス・エステート)は基本的には年に1枚程度の過去音源をリリースしはじめているのですが、未発表音源がリリースされはじめたころは、『ピアノ・アンド・ア・マイクロフォン』や『オリジナルズ』のような「いかにも」という感じのアウトテイク集や、『サイン・オブ・ザ・タイムズ』のような過去のマテリアルのコンパイル盤プラスアルファといった趣きのアルバムがほとんどだったのでした。

ただ、今回の『Welcome 2 America』はまるごと1枚未発表アルバムということで、今までとはレベルがあがったというか本気モードのリリースだと言えます。

プリンスが望んだこと(もしくは望まなかったこと)

プリンスが亡くなったのは突然のことであり、本人も自らの過去音源の扱いについて明確な意思を示していませんでした。
そのため、死後の音源のリリースに関しては「これは本人が望んだことなのか?」と懐疑的な声も多いようです。

プリンスが金庫に眠る過去音源をどのようにしたかったのか、メディアやジャーナリスト、そして関係者の話を総合すると、基本的には公開するつもりはなかったと言って良いと思います。

リリースどころか、プリンスはこの金庫の中の音源を再び手に取って聴き返すつもりすらなかった。

プリンスの生前からことあるごとに話題になっていたペイズリー・パーク内の金庫の内部が、彼の死後に公開されたのですが、床には段ボールに雑然と積まれて過去のテープが放り込まれているような状態だったそうです。

それはまさにこんな感じ

この金庫のパスワードについては、生前プリンスは近しい人ですら誰ひとり教えなかったそうですし(この金庫のカギは彼の死後にドリルで破壊されこじあけられたそうです)

プリンスが夜中にパスワードを入力して金庫の中にはいり、床に散らばったダンボール聴きかえしてラベルを貼って整理していく姿が想像できますか?
この金庫は、プリンスにとってはただの倉庫のようなものだったのでしょう。

かつてはアルバムのリリースも頻繁に行うことができず、プリンスはそれに常々不満を感じていたことは有名な話で、リリースクオリティの音源が眠っているというもっぱらの噂でしたが、実際のところ彼が出来に満足して公開しても良いと感じた音源は、シングルのカップリングその他なんらかの形で公開されてきたというのも事実。

そして『Welcome 2 America』は、そんなプリンスが「公開しない」と決めたアルバムだということ。

悪党は誰だ?

本来リリースされるはずのなかった過去の音源がぞくぞくとリリースされようとしている今の状況を、多くのファンは「ラッキー!」と喜んでいるのだろうと思いますが、なんとなく後ろめたさを感じている人も多いようです。

プリンス本人の望まない形でのリリースすることは、彼のこれまで行ってきた輝かしい仕事に対する冒涜だと感じているひとたち。。

もしくは、(2パックのように)死後にクズのような未発表音源が続々とリリースされて、プリンスの輝かしいキャリアにキズを付けられることが耐えられないひとたち。

もしくは、自分が好きだったアーティストの遺産が、遺族や取り巻きに好きなようにされている状況が許せないひとたち。

『Welcome 2 America』のリリース発表のあとに、プリンスの遺産管理を行っている妹のタイカ・ネルソンのコメントが記事になっていましたが(→こちら)、新たにリリースする音源については、「プリンスの遺志を継いで」「彼が託した過去の音源」といった表現をところどころで使い、「プリンス本人は過去音源がいつか全世界に公表されることを心待ちにしていた」とことさら強調していますね。

ただ、前にも書いた理由からこれって嘘っぱちじゃないかと。

この妹さんは、2018年のインタビューでは最近とは違うニュアンスのコメントもしていて、

「これから人々が兄の過去音源を聴けるようになります。たとえそれが「プリンス基準」に達していなくてもね。兄はこの音源を埋もれたままにしたいとは思わないはず。公開したかったはずなの。私次第だというのであれば、今後数百年、数千年に渡って毎年何かをリリースし続けることでしょう」

と言っています。(→こちら
明らかに過去音源のリリースはプリンス自身の判断ではなく遺族の判断だと言っていますし、なんならレベルの低い音源でもどんどん出すよ、とも言っている訳です。

最近になって「兄は公開を待ち望んでいた」とニュアンスを変えてきたのは、おそらく公開する過去音源が「新たな流出ブートレグ音源」みたいなショボい受け取られ方をするのはマズいと判断したのでしょう。
なんというかさすがにヒドい話だと思いますね。

いろんな記事を読む限り、過去音源のリリース方針を決めているのはこの妹のタイカ・ネルソンさん、元Spotify重役トロイ・カーター、元ワーナーブラザーズの重役マイケル・ハウあたりのようなのですが、この3人はもう悪人ということで良いとわたしは思いますけどね。
この3人なら、たとえばファンからは批判的な意見も多いホログラムに過去のヒット曲を歌わせることだって平気でやりそうな雰囲気です。

「もしも」の話をするならば

ここまで過去の音源について議論を呼ぶのは、結局のところプリンスが遺書などの形で自分の意向を明確にしておかなかった事が原因ではあります。
ただそこで
「そうだね。どうするかはっきりしておけば良かったのに」と言えるかというと、そうでもないんですよね。

もしプリンスが過去音源についてもし遺書を残していたら、きっと「金庫の中の過去音源は一般公開はしないこと」と書いたでしょうから。

ファンにしてみれば、
「プリンス本人的には”8割の出来”と思ってるノイズまじりのアウトテイクだって、世の中にあふれる99%の音楽よりもずっとレベルは上」
と思うのだと思います。
そしてそれは実際にその通りなのだから「プリンス本人には申し訳ないけどやっぱり聴きたい」と考えるのもある意味当然のこと。

こんな風にいろんな人の思惑が絡まりながらも、たとえそれがどんな出来栄えの音源だったとしても、『Welcome 2 America』は今年リリースされるんです。
わたしだって(もやもやした感覚はありながらも)リリースされたら聴かないわけにはいかないのだし。

過剰な期待は禁物。
ただそのファンの心配を裏切ってくれたなら、それはプリンスからの最高のプレゼントとなるのだと思いますよね。

追記

『Welcome 2 America』リリース後に書いたブログはこちら

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