マイルス・オカザキ『Thisness』レビュー


ギタリスト、マイルス・オカザキのグループTricksterによるアルバム『Thisness』の紹介。
リリースはPi Recordingsから。ストリーミング配信もされています。

参加メンバーは
Miles Okazaki – Guitar, Vocals, Robots
Matt Mitchell– Piano, Fender Rhodes, Prophet-6
Anthony Tidd– Electric Bass
Sean Rickman– Drums

マイルス・オカザキはというと、ここ最近ではメアリー・ハルヴォーソンとのダブルギターカルテット(ジョン・ゾーンのバガテル)や、Tzadikレーベルからリリースしたトリオ演奏(ベース:トレヴァー・ダン、ドラム:ダン・ワイス)によるアルバムなども、徐々に活動の幅を拡げてきている印象ですね。

Tricksterはオカザキのレギュラーグループで、今回のアルバムはグループとしては3枚目のアルバムになります。

オカザキ自身の注目があがっていることもあってか、メディアに取り上げられることも多く、オカザキの代表作となりそうな作品です。

このアルバムは、自分も良くチェックしていてたびたびこのブログでも引用してきた「JazzTrail」というサイトでは、★5つという今まで見たことのないような高評価が付けられていました(こちら

マイルス・オカザキは、基本的にはフリーフォームで調整から外れることも多い、どちらかというと難解なタイプの演奏ではありますね。
「手強い」というか、のんきに楽しめるタイプの音楽じゃないという印象です。

そうした中で、Tricksterのアルバムはオカザキのかなり異色な立ち位置にあるグループというか、エレクトリック・ベースによる押しの強いグルーヴと変拍子なども取り入れた不均衡なリズムのカッコ良いジャズ・ファンクが特徴ですね。

すごく大雑把に言えば、Tricksterは彼の活動の中で最もフェイブ・エレメンツよりのグループと言えるかも。
(ギターのオカザキ、ベースのティッド、ドラムのリックマンの3人は元ファイブ・エレメンツです)

今回の『Thisness』も基本的にはこれまでのTricksterのコンセプトを踏襲しつつ、時にジャズロック風だったり、(パット・メセニー・グループ風の)ブラジリアン・フュージョンだったり、グラデーションのように変化していくようにアレンジが施されています。
「組曲風」と言っても良いかもしれませんが、オカザキのギターも、アコースティック・ギター、フルアコをアンプに直挿し、ワウなどのエフェクターなど、これまで以上にさまざまな音色を使い分けていますね。

オカザキ自身はこの『Thisness』というアルバムについて、ライナーノーツで
「このアルバムでの私の作曲家としての仕事は、いくつかのアイデアを持ち込んで、それを実行に移し、演奏に耳を傾け、音楽の過渡期にあるセレンディピティな出来事を認識し、バンドをどんな方向へ進めるように導いていくことした」
と書いています。
正直「なに言っているか良くわからない」のですが、メンバー間の相互作用・ハプニングが起こるように作曲の段階から準備する、という事なのかも。

彼の真意はともかく、毎回聴くたびに違うポイントで「オッ、ここはカッコ良いかも」と気づきがある、そんなアルバムですね。

ちなみにアルバムジャケットは、マイルス・オカザキの母親で画家のリンダ・オカザキさんによる水彩画だそうです。