マイカ・トーマス(Micah Thomas)『Tide』レビュー

アメリカのジャズ・ジャーナリストのネイト・チネンさんが、マイカ・トーマス(Micah Thomas)というピアニストが1stアルバムをリリースするというニュースをweb記事で書いていました。

サブスクで聴いてみたのですが、すごく良いアルバムですよ。というわけで、今日はこのマイカ・トーマスの『Tide』というアルバムについての投稿。

Personnel
Micah Thomas (piano and compositions)
Dean Torrey (bass)
Kyle Benford(drums)

このアルバムですが、1曲目の” Tornado “を聴くだけで、とにかくよどみなくあふれ出るピアノ音の洪水に圧倒されます。饒舌というかとにかく音数が多いですね。
トーマスはもう全部じぶんで弾いちゃいたいタイプのピアニストなんでしょうか。こういうスカッとした爽快感は最近のジャズには無い良さですね。

それに対抗しているのか、ドラムもけっこうガンガン前に出て叩くタイプみたいで、ピアノとドラムでもう音が埋め尽くされちゃう感じ。過剰な音の洪水ですが、けっこう楽器間のバランスは取れてる感じ。

このアルバムはすべてマイカ自身が曲を書いているのですが、スタンダードナンバーのようなシンプルで耳に残るテーマを持つ曲はハードバップ期の名曲のようです。
ピアノテクニックのことは良くわかりませんが、こういうシンプルな良い曲を書けるのは才能なんだと思います。
ただ、いまのジャズは作曲がかなり難解でテクニカルな曲が多いと思うのですが、トーマスのこういう曲は最高にカッコいいのですけど、今のジャズの世界ではスタイルとしては新人離れした古臭さですね。

マイカ・トーマスはデビュー前は、(Cécile McLorin Salvantと共演している)ピアニストのサリバン・フォートナーに師事していたことがあるようで、このあたりのオールドスタイル具合は実はフォートナーあたりの影響があるのかも。

ベースとドラムプレイヤーは名前は聞いたことないですが、たぶんトーマスと同年代で新人に近い人じゃないでしょうか。

彼はこのアルバムがソロデビューで本格的な活動をはじめたのもここ数年みたいで、サイドマンとしての演奏もまだそんなに多くないですね。
Immanuel Wilkinsのブルーノートデビュー作『Omega』(ウィルキンスとマイカ・トーマスはジュリアード音楽院の同窓のよう)や、ウォルター・スミスIIIの変な切り貼り写真ジャケットの『In Common 2』などにも参加していました。
ただサイドマンとしてはけっこう控えめな演奏に徹していてあんまり目立たない感じでしたね。

あとレコーディングなどではないですけど、ラーゲ・ルンドのカルテットでの演奏なども行っているみたい(これはサリバン・フォートナー繋がりですかね。フォートナーはルンドのアルバム『Terrible Animals』に参加していましたし)

あと最後に、ライブハウスSmallsでのこのトリオのライブ映像があったので紹介。

Smallsは2020年は他のライブハウス同様に新型コロナの影響でなかなかライブじたいが開催できていなかったのですが、この演奏は新型コロナ前の映像。
こうやって普通にライブできることがいかに尊いことだったのか今になって痛感します。

それにしても、動画の右側でイチャイチャしているカップルは「ちゃんと演奏聴いてよ!」と思っちゃいますけど、、