トルコ系ウード奏者 Mehmet Polat『The Promise』レビュー

今日取り上げるのは、ウード奏者Mehmet Polatのアルバム『The Promise』

彼の名前はこのアルバムで初めて知ったのですが、素晴らしいアルバムですね。
個人的には2020年にリリースされたワールド系アルバムでは年間ベスト候補だと思っています。

Mehmet Polatさんは1981年生まれのトルコ系ウード奏者でオランダ在住、現在(2020年)で30代後半のようです。
すでに5枚近くのアルバムをリリースしていて、ワールド系音楽の世界では高い評価を得ているのかも。
彼のプレイスタイルは、オスマントルコ時代の伝統音楽、アナトリア地方のフォークソング、アレヴィー派のスピリチュアル・ソングといった古典をベースに、多くのジャンルを組み合わせていて、すごくユニークです。

『The Promise』

Polatさんですが、現在いくつかのグループを並行で活動していています。

ひとつは”Embracing Colours”という、アコーディオン、アコースティックベース、ドラムというオランダ人プレイヤーと共演しているグループ。ジャズっぽい編成ですね。
このグループで『Quantum Leap』というアルバムをリリースしています。

もうひとつはMehmet Polat Trioで、ウード、ネイ(アラビックフルート)、コラ(アフリカ音楽で使われるハープ)という組み合わせのグループ。
リズムとメロディーを同時にこなすコラとアラブ楽器という組み合わせが面白いです。
こちらも『Next Spring』『Ask Your Heart』というアルバムリリースあり。

それに対して今回の『The Promise』というアルバムですが、そういった固定メンバーのレコーディングではなく、曲ごとにゲストミュージシャンを入れ替えて演奏するというスタイルのようですね。
基本的にはフレームドラムなどのパーカッションとウードのデュオというアラブ音楽ではスタンダードな編成がほとんどで、ここにゲストを加えるというコンセプト。

これまでのアルバムと同様、すべてPolat自身の作曲。トラディショナル曲を演奏することの多いトルコ音楽では珍しいほうだと思います。
Polatさんの良さは「アラブ音楽の形式にのっとった上での斬新なメロディーセンス」ということが言われるようで、実際にその通りだと思いますし、作曲にもそのセンスが生かされているように感じますね。

ジャズの影響

Polatさんは、トルコ伝統音楽に加えて、オランダに渡った後に現代的な音楽理論も学んだそうです。
彼のインタビューなどを読んでみると「ジャズから影響を受けた」といったことが書かれていて、実際に彼のグループであるEmbracing Coloursはジャズっぽい編成でもあります。
ただ彼の音楽を聴いても、スウィングビートやブルーノートといったジャズっぽさは皆無であります。
どの辺がジャズの影響なのかよくわからないのですが、モード理論とかインプロの技法とか、そういうところなのかな?

Polatさんのアルバムを聴いて1番印象的なのは、パーカッシブでアクセントがあいまいなリズムとアラブメロディーの絡みだと思いますね。
アラブ音楽はわりとリズムのアクセントを強調する感じで、あくまで伴奏という感じなので。

実際のところワールド系の伝統音楽でも、かたくなに昔の形式を守るようなものばかりじゃなくて、自分たちのコミュニティ外の音楽の影響を取り入れてアップデートしているものも多いですよね。
アラブ音楽やトルコ伝統音楽でも、特にリズムパターンやパーカッションのテクニックなどは近年になって劇的に進化しているという話も聴きます。

特に、コナッコル的なカウントの仕方やカンジーラなどの叩き方のテクニックなどインド音楽の影響が強いとよく聞きますね。

まさにMehmet Polatさんのアルバムを聴くと、これが今の最新のトルコ伝統音楽なんだな、と感じますね。